2023.3.19 プロレスリング・ノア GREAT VOYAGE 2023 in YOKOHAMA 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。清宮vsジェイク戦のプレビューをやったのでそのシメとして今回はワンマッチレビューを書きたいと思います。タイトルから察してくれるとありがたいのですが、本当は興行全体の感想を書きたかったんですよ……ただ、たぶんこの一試合だけで相当長くなってしまうと思うので泣く泣く割愛します。それだけ清宮の王座戦は厚みがあるということで。ではでは、やっていきましょう。


◼️GHCヘビー級選手権試合
清宮海斗 vs ジェイク・リー

オカダ戦敗北後の王座戦というのはわりとハードルが高く、ノンタイトルとはいえ王者同士のシングルで決着がついたしまった以上、明確に序列がついてしまったんですよね。見方を変えれば、オカダ戦は高まりすぎた清宮の格を調整する意味でもインフレストッパーになったとも言えるわけですが、それでも他の挑戦者では比較対象として見劣りしかねない危険性があったわけで、その難題を清宮に「主人公交代」を迫ることで上手くクリアしたジェイクは頭が切れるなと思いました。

GLGにタダスケとYO-HEYが合流し、新生・GLGとして始動。これはさもありなんというか、ぶっちゃけGLGってそこまでグッドルッキングじゃないというツッコミありきで成立している気もするので個人的にはアリですかね(笑)この時点でジェイク新時代感をビンビンに感じてしまって、入場の時点で先手を取られた感はあります。

そして清宮とジェイクでロックアップ。オカダ戦でも敗因であり課題ともなった体格差を最序盤で強調してきたのは上手いですよね。体格で勝るジェイクが押し込みつつも紳士的なブレイク。バラエティ豊かでありながら硬派な面も目立つノアの中だとジェイクはわりと異色に感じる部分もあり、こうしたキャラ先行の所作だけで特別感があるというか、わりと異様に映るんですよね。その後にロープワークを挟んで高角度のショルダースルーで清宮を叩きつけます。これはもはや様式美の域であり、体格差を表す攻防の帰結点としては抜群です。受け手の清宮も丸藤のショルダースルー受けを彷彿とさせましたね。

一旦場外に逃れて呼吸を整えつつ、再びリングに上がっての対峙。今度は清宮がタックルを決めて得意のグラウンドへ持ち込もうとしますが、ここはジェイクが冷静に捌きます。ここの時点で両者の頭に例のオカダ戦が想定としてあったことがわかったというか、持ち込めば勝てたとまでファンに言わしめたグラウンドの技術を清宮は容赦なく切ってきましたし、対するジェイクも敢えてその場面を見せることで、そのシーンのなかったオカダ戦との差別化になりつつ、間接的にオカダより上だと示すことができるわけです。さすがに総格経験があるだけにジェイクの対応はスムーズではありましたが、それ以上に寝てもやはり目立つのは体格差。マウントからのアームロックは清宮がロープへと逃れました。

そして次はジェイクが自らレスリング勝負を仕掛けます。リストコントロールに対しての清宮の返礼はマムシのような執拗なヘッドロック。コーナーまで使って締め上げるオールドなやり方ながら、はっきりした体格差を埋める方法論として素晴らしく、またやはりヘッドロックは王者の技なんですよね。執拗に仕掛けることで王者は自分だと示し続けますが、ここでいきなり抜いてきたのがジェイクの高身長で放つバックドロップ!フィニッシャー級の威力であり、体格差の文脈を積み重ね続けるのは丁寧さに頭が下がります。

ジェイクもお返しとばかりに拷問のようなチンロックを清宮に仕掛けます。清宮も回転エビ固めで揺さぶりをかけますが、ジェイクの体幹はブレず、そのままニードロップ。そしてワンハンドのゴリラスラムから再びニードロップを挟むと、そこから一気に連続フォールで清宮のスタミナを奪いにかかりました。決める気のない連続フォールって個人的にあまり好きではないのですが、清宮のリアクションの大きさもあってこれは派手かつ盛り上がりましたね。ジェイクは体格差で思いっきり押さえ込んでいて決まりかねない感じでしたし、さらにギロチンチョークを極めるというアレンジもあって、これ自体が最大級の挑発かつ削り技として十分機能しておりました。

そして息も絶え絶えな清宮に対して頭を蹴る挑発。軽い足蹴ではありますが、オカダにやったことをやられる屈辱に清宮も黙っておらず、ジェイクを張りますが微動だにせず。この場面もそうですが、ジェイクはかなり意図的にクールに振る舞っていると言うか、全然表情が変わらないんですよね。この表情に関しては清宮に足りない部分であり、技に対しての顔芸は上手くとも、雰囲気を作る表情に関してはまだ他のチャンピオンクラスの選手と比較すると一枚劣りますかね。この辺りの瑕疵は応援したくなる頑張りに随分と助けられているなと感じます。

ナメ切っているジェイクを自分も飛び出そうなフライングフォアアームで無理やり場外へ追いやると、エルボースマッシュの連打で一気に猛攻を仕掛けます。これはかなりジェイクは嫌がっていて、オカダすら苦しめた一撃なのでジェイクに効かないはずはないんですよね。ここに活路を見出しますが、鉄柵に振られる清宮。しかしながらドロップキックでカウンターすることで、どうにか機運を作り出しました。この場面もまたオカダとの乱戦を彷彿とさせますし、やはり清宮ジェイクの双方ともにオカダ戦を念頭においての振る舞いが目立ちますね。

しかしながらリングに戻った清宮を待っていたのはハングマン式のDDT。先ほどとは打って変わって平静を失ったジェイクが調子に乗るなと怒りに任せて清宮を鉄柱へと叩きつけます。ここは余裕を持っていたボスが手傷を負わされてキレる少年漫画あるあるで凄く面白かったですね。このジェイクの台詞もオカダvs清宮戦の1stのときの言葉のオマージュめいていましたし、あんまりオカダ戦ばかり引き合いに出すのもアレですが、その試合を前提として意識してるのは明白で、そのせいで単純な攻防の中にも文脈に厚みが生まれているのですよ。これがNOAHをあくまでスピンオフのサイドストーリーと割り切ってる新日との最大の違いであり、NOAHは全部まとめて地続きなんですよね。そこから場外マットを剥がしてのDDT。そしてリングの上ではサッカーボールキックで悶絶させると、そのまま胴絞めスリーパーへ。清宮も反撃しますがダーティーさスレスレの下腹部ストンピングやグラウンドでのベアハッグなどの呼吸と体力を奪う技でジワジワと追い込まれます。このあたりの清宮の苦しそうな顔は印象深かったですね。

この試合のハイライトの一つは雪崩式のショルダースルーとでも言うべき脅威のコーナーからの投げっぱなしですかね。清宮の体がバウンドしかねない一撃で、このインパクトは凄まじかったです。そこからD4Cを狙いますが、これは清宮が切り返し、ノアでの勝利を欲しいままにしている串刺しフロントハイキックもブーメランフォアアームでなんとか切り返します。

清宮もミサイルキックからエプロンでの断崖式ジャーマンという大技を狙いますが、これはジェイクが防ぎます。すかさず清宮が断崖式ドラゴンスクリューを敢行。ここで冷静さの仮面が剥がれたジェイクは呻き声を上げます。武藤の教えが生かされた興奮も束の間、足を痛めたジェイクに対してコーナー超えのウルトラタイガードロップ!大ダメージを負っているとは思えない躍動ぶりであり、まさにゾンビですね。

そしてリングで清宮がジャーマン。清宮のジャーマンって反動ではなくしっかりとブリッジで抱え上げる感じがあって好きです。シャイニングウィザードこそブロックされましたが、清宮にはジャンピングニーもあるんですよね。そこからのタックルは戦慄のカウンターでの膝蹴りを被弾し、清宮はグロッキーに。タックル膝カウンターはゼロ年代以降の文脈感があって、これはこれで歴史を感じますね。

ジェイクはドクターボムで清宮を叩きつけ、再び串刺しフロントハイキックを狙いますが、これは清宮がバッククラッチホールドへ。なんとかクリアしたジェイクですが、忘れたころのドラゴンスクリュー。ここでようやく清宮のシャイニングが完璧に決まり、令和のタイガードライバーこと変形タイガードライバーを狙いますが体格差もあって厳しく、すかさず清宮は膝裏への低空ドロップキックへと切り替えます。この辺りのスイッチの切り替えの速さはさすがと言った感じですかね。

そして変形シャイニングウィザードを狙いますが、これはジェイクがまさかのラストライド狙い。これをなんとか防ぎ膝裏タックルで再三の足殺しへ。そして清宮は走りますが、清宮の体が浮くほどのキチンシンクで動きが止まり、そのまま串刺しフロントハイキックでピンフォール負け。シャイニングは出しはしたものの、もう一つの伝家の宝刀である足4の字にいけなかったのが勝負の分かれ目な気がしましたし、終始「強い」印象のまま、ジェイクが新たな王者となりました。

語弊を恐れずに言うならば、ショックはあれど受け入れやすい敗北というか、清宮陥落としてはベストであり、またジェイクのプロモーションとして割り切ってみてもベストでしょう。ある意味ではノアのファンが本来オカダに外敵として望んでいたであろう試合をやったような、そんな感じさえしましたね。オカダ戦とどちらが上だったか?と言われたら正直難しいというか、念頭に置いていたのは間違いないですし、比較されやすい試合のようでいて、実際のところ試合のテイストはかなり違った印象があります。

やりたいことをやらせてもらえなかったオカダ戦のほうが、個人的には戦いとしては「リアル」だと思いますし、戦いとは綺麗事ではなく、終わって一ヶ月以上経つのにまだ引き合いに出される時点であの試合のインパクトは強かったわけなのです。貪欲に勝ちを拾いにいき、結果的に戦略勝ちをもぎとったというのがオカダ戦の印象で、ドームでの舞台経験値の差や、奇襲を仕掛けた段階で試合のテイストがあらかた決まってしまったという意味でも、勝負論が強かったのは断然オカダ戦のほうでしょう。そう簡単にリベンジができず、またリベンジできる保証すらない危うさが魅力で、あの試合ほどのピリピリした感じは正直なところ今回の王座戦にはなかったですかね。

ただ、こちらはあちらより長尺の試合かつ、グラウンドありでも勝てなかったというのもあって一般に言われるような完敗イメージとしてはこちらのほうが強いでしょうね。あと、ジェイクに強さは確かに感じたのですが、清宮のグラウンドに対応したり、清宮の打撃にひるまなかったりと、ジェイクの強さを測る上で清宮を物差しとして使っていたのは見終わってから気づいたことで、それだけで清宮は王者としての責務を立派に果たしていたなと思いましたね。それらを踏まえた上で、清宮よりグラウンドが強く、清宮より体格があり、清宮よりルックスがいい(笑)バージョンアップされた新王者というジェイクのプレゼンは、清宮の献身もあって一定の成功を収めたかなという気もします。まさに新しいビジネスモデルですね。それに武藤敬司や小島聡は外敵ではありつつも世代としてはレジェンドであり、知名度による親しみはあったわけですが、そんな中でジェイクはスマートに振る舞いつつも、久方ぶりの侵略者かつ外敵王者の空気もあって、それも含めてジェイク政権は新鮮味があるなと思いました。

そして次期挑戦者は中嶋勝彦。これはかなりデンジャラスな一戦になりそうな気はします。防衛ロードに関してですが、中嶋の「俺がNOAHだ」発言は否が応でも「あの男」を想起させますよね。新王者ジェイクは世代的には現役バリバリなせいか、挑戦者にベテランを入れても年齢的なオールドタイマー感がないのが魅力の一つであり、丸藤や杉浦といったNOAHの顔役を倒した先に、潮崎相手の防衛戦があるのが一番燃えるかな、と。そして真のNOAHのエース継承戦としての清宮vs潮崎に繋がればいいかもですね。……ただ、そうした奪取が期待される中での防衛成功のほうが絶望感が増しますし、潮崎相手の防衛に成功したタイミングで最後の砦として稲村に出てきて欲しいというのが真の本音です(笑)と、いうか個人的な予想としては潮崎ではなく稲村相手の陥落かなと思っていて、そのためのフリに潮崎使うのは贅沢すぎるし怒られますかね?ただ、いずれ清宮の元にベルトが戻るとして、王者清宮に潮崎が挑戦するシチュエーションでの継承戦も見たいので、そこまで伸ばすならこれかなあと。あとはやはり清宮vs飯伏幸太。これもキラーカードとして控えている気もしますし、見たいですよねえ。王者陥落でもとりあえずは対ジェイクという目標ができましたし、進化が止まらない清宮に対しての期待感は天井知らずですよ。

……まあこれらは予想ですらない、拙い妄想の産物なので読み流してくださいね。今のノアの魅力は文脈が豊富なぶん、こうした想像の余地があるのが最大の魅力であり、ここからズレたらズレたでまた読み解く楽しみがあるのがいいのですよ。新王者ジェイクからも目が離せませんね。ではでは、今日はここまで。