忍び寄る皆既月食〜清宮vsジェイク戦について思うこと〜

オカダvs清宮の一戦は衝撃が大きかったせいか、半月経ってもいまだにネットを騒がせていますね。自分の都合三度に渡ってnoteを更新し、まだ語られるようならもう少し擦ろうかなとも思っておりましたが、大体のお気持ちはnoteに認めちゃったのと、後にやって来たジェイク・リーの挑戦表明がとても素晴らしかったので、気持ちは完全にこっちに移ってしまいました。なのでちょっとイレギュラーになりますが、清宮vsジェイク戦のプレビューめいたものを書いていきたいと思います。


次期挑戦者のジェイク・リーなのですが、現時点での個人的な評価を語るならば、ノアマットでの試合は今の段階では全然ピンと来ていません。恵まれた体格に加え、宮原健斗の向こうを張った「月」としての存在感が発揮できているかと言われれば残念ながら「否」で、明らかに力を出し惜しみしているのは伝わってきてるんですよ。それ自体が後の王座戦に向けて実力を秘匿し自らの価値を高く売りつけるための方法で、意図的なのは理解しつつも鼻白む感じさえあるのです。期待感があるのは事実としても、期待感のみで煽れるほど今のノアマットは甘くないぞ、と。

しかしながら、ベテランが歴戦のキャリアや実力を惜しげもなく披露し、マット界の歴史が交錯する今のノアでこのスタイルはかなり異質に映るのも事実で、端的に言えば「スマート」なんですよ。グッドルッキングガイもイメージ戦略としては完璧で、今まで参戦した選手で今のジェイクのような振る舞いの選手は他に見当たらないんですよね。それはオカダ戦での敗北で失意の渦中にいる清宮に投げかけた言葉からも分かる通り、彼は恐ろしくクレバーです。その体格から喧嘩に強い武闘派ヤクザを期待してたらやって来たのはインテリヤクザというボタンの掛け違いのような、そんな違和感のズレは依然として残っているわけなのですが、スカしやクールとはまた違ったこの異質なキャラクター性はちょっと見逃せないんですよね。

特にジェイクの語った「新しいビジネスモデルになる」は挑戦表明としては凄く斬新でしたね。言ってしまえば清宮のビジネスモデルはこの先では通用しない、つまりは全否定に等しいわけなのですが、これが無用なヘイトを買わずにファンにすんなり受け入れられたのは、清宮に対して「王者としての責任」を問わなかったことにあると思うんですよ。

オカダvs清宮戦での双方のファンの罵倒合戦は互いのファンに深いダメージを残していて、上から目線だった新日サイドでさえ、後に参戦したYAMATOのアジテーションには「煽り疲れ」みたいなものを感じていたわけなのです。それはノアも同様で、敗戦のによる厭戦気分が広がる中、恐らくここでジェイクが「お前にGHCは相応しくない」等の三文芝居のような挑発をすれば、それは逆風となってノアマットでいまいちインパクトを残せてない自分へと向けられてしまうでしょう。それを「もう休めよ」と清宮を労いつつ、さらには「またチャレンジすればいい」と清宮の価値を認めて健闘を讃える姿勢を見せたことで、ファンの気持ちを極自然にGHCの新風景へとスライドさせたわけなんですよ。これは本当に巧みというか……挑戦表明が「罵倒」ではなく「甘言」なのは少なくとも僕はあまり見たことないですね。凄く恐ろしいやり口ですよ。

僕は以前にnoteやTwitterで、若者にとっての「まだ先がある」は全ての問題を先送りにできる麻薬のようなものであると書いたわけですが、清宮の未来に対する賞賛は転じて「今しかない」という焦燥感の共有を妨げる足枷になってしまうんですよね。ジェイクが怖いのはこの気持ちを逆手に取ったことで、ファンではなく、また団体内の選手ではなく、外敵が「お前はこれからの未来を担う選手だ」と言ってしまったことには警戒心を隠し切れませんね。ジェイクは清宮の将来性に対するファンの期待感にハッキングを仕掛けたわけなのですから。

そのタイミングとしてオカダ戦以後というのが本当に絶妙で、即リベンジが叶わない重すぎる敗戦後に、清宮の捲土重来が果たされるまでの期間というファンの気持ちの隙間を見事に狙ったんですよね。参戦当初に「俺は長くここ(ノア)にはいない」とも言っていたわけで、この発言もフックとして効いていたように感じます。こうしたあたりジェイクは機を見るに敏というか、看板対決で負けた後の王座戦、オカダと比べられる格の挑戦者という難しいシチュエーションでの王座戦を、戦前の段階で見事にクリアしましたね。これは誰にでもできることではないのです。喩えて言えば、戦争で荒廃した国にチャンスとして攻め入るわけでなく、復興の名目で先んじて土地を買い上げてしまう感じというか……。虎視眈々、という言葉が似合う挑戦者だなというのが正直な感想になりますかね。

なので総括するとノアでの「試合」としてのジェイクの評価はまだ保留なわけですが、アピールやキャラクターとしてのジェイクは100点満点という奇妙な評価ですかね。少なくとも突発的にnoteを書き殴ろうと思ったぐらいには、ジェイクの挑戦表明には心を動かされてしまいました(笑)

そんなこんなで休む暇もなく難敵と当たることになった清宮なのですが、オカダ戦は清宮にとっては第二章の一区切りといった感じで、歴史を一つに紡ぐ継承戦が昨年だとするならば、今年のテーマは同時代の覇権争いという現代との戦いなのですかね。そうした意味ではジェイクというのは間違いなく現代プロレスでネームバリューのある強者の一角であり、相手にとって不足はないです。前述の清宮の未来を慮る声が丸ごと敵に回ったという今回のシチュエーションも素晴らしく、清宮の成長物語と防衛ロードはストーリーテリングとして完璧の一語です。全ての試合にテーマがあり、ちゃんとそれが大河ドラマとして繋がっている。試合内容も素晴らしいのですが、こうした深掘りすればするほど面白い清宮の「物語性」に惹かれている人って結構いるんじゃないですかね。僕は間違いなくその一人です。そうした意味ではジェイク有利の声も多いですが、リスタートを切る意味ではジェイク戦勝利も充分あり得るとは思いますよ。

最後に、誤解がないよう書いておきますが、未来を期待する声が悪いというわけではないのですよ。自分も清宮の将来性にはめちゃくちゃ期待してるわけですし、オカダvs清宮戦後のマスコミの圧勝!惨敗!に憤る感情も理解できます。ただ「清宮はよく頑張った!」はファンの声としてはアリでも、対外評価がそれだと一年前と変わりなく、だからこそ一人の王者としての責任を重く持たせた叱咤激励だと僕は受け止めています。

やはりそうした声が多いのは、GHC王者であっても潮崎豪がいる以上「団体のエース」ではない。だからこそ今改めて潮崎とのエース継承戦が見たいですし、悲劇の天才、飯伏幸太戦って絶対あると思っているので清宮vs飯伏をキラーカードとして実現して欲しいんですよ。アフター武藤が心配されておりますが、僕は全然心配してないです。だってストーリーが面白いんですから。

とりあえず今回はここまで。イレギュラーな更新となりましたが、相変わらず読んでくださることには感謝しかないです。清宮vsジェイク戦、固唾を飲んで見守っていきましょう。ではでは。