2023.9.24 プロレスリング・ノア GRAND SHIP 2023 in NAGOYA 試合雑感

◼️第3試合
ダガ vs 宮脇純太

宮脇、同郷というのもあって応援しているのですが、それに反して周囲の評判は芳しくなく、試合を見るとそれも致し方ないかなと。動きは華麗かつ軽やかではあるのですが、正統派の枠組みからの逸脱はなく、それがかえって当人の未熟さを際立たせてしまっている印象があります。相手にダガを選んだのは非常に意地が悪いというか、どうしても比較して見ちゃいますし、宮脇が色々とやっても虫をピン留めするかのように一つの所作だけで一気に客の視線を集めてしまう。これが宮脇にとってはさらなる逆風となり、ダガのメリハリとキレが抜群の動きが過剰に目立ってしまいました。最後はディアブロウイングスでダガの完勝。宮脇、色々と厳しいですね。

なんというか、これは当人だけの問題というより団体の育成方針のほうが問題のように感じます。泥水発言で揶揄された最初のプッシュでのつまづきが一番のネックであり、一度「そういう目」で見られてしまった以上、せっかくの華麗さも軽薄に映り、本当の「泥水」を観客は求めてしまうでしょう。そうなると宮脇の現時点の力量だと溜飲が下がるまでの残酷ショーが続くだけで「成る」のは非常に難しいでしょうね。

それに加えて望まれている役割が明らかに正統派のエース候補というのもあるとは思うのですが、それは王道エースらしいルックスの良さとルチャという華麗な動きの「ガワ」だけで判断したに過ぎず、それに適うだけの力量が一定水準にないのであれば、成長するまであえてプッシュは控えめにしつつ、観客に「発見」してもらうように慎重に育てればよかったように思います。

話は逸れますが、少し前に丸藤vsKENTAが放送されたときに今のノアJr.よりこの世代のほうが凄い!という意見を各所で見かけて、それに対して異論は特にないものの、言われるほどJr.のレベルそのものは今の世代も決して劣っているわけではないとは思うのです。ただ、当時と明らかに違うのは選手の個々の役割意識と立ち位置であり、過去のノアJr.はそれが非常に明瞭だったんですよね。対外交渉役としての看板に華のある丸藤&KENTAを据えて、その二人が実力で勝てない杉浦と金丸を実力派の門番として起き、そのすぐ下にはホープとして鈴木鼓太郎がいて、Jr.と距離は起きつつもヘビーとの越境を果たした小川良成がいる……という感じで、一見して序列や関係性、役割がとてもわかりやすかったんですよ。金丸が新日参戦したときにノアとの「格」の違いに戸惑ったのは記憶に新しく、元の性質であるバイプレイヤーを強めただけの話に過ぎなかったのですが、それを見抜きつつ実力派の門番として置いたあたりに昔のノアの慧眼があるのでしょう。

それと比較すると今のノアJr.はレベルで劣っていなくても個々の役割としては俯瞰で見たときにやはりとっ散らかってる印象が強く、さらにドラゲーばりのシャッフルで関係性が目まぐるしく変わるのもあってか、ややついていけないというのが正直な感想ですかね。話を無理やり接続するなら、そんな中で若く、ルックスのいい宮脇を正統派なエース候補として押し出したい意識はわかるのですが、だとするならもう少し丁寧にやるべきでした。「主人公力」というのは先天的に備わってる場合と後天的に開花する2パターンがあり、宮脇は萌芽はあっても恐らくは後者なのですよね。だからこそどう見られいるかという「視点」を軌道修正する必要性があり、それはわりかし急務であるように感じます。そうした視座の変更というノアJr.の現時点の難点が、宮脇で悪い方向で出たような感じですかね。個人の考えとしてはこんな所になります。

◼️第5試合
丸藤&小川&LEONA vs 清宮&大岩&Eita

対新日においての丸藤の憎らしさはマジレスするより誉められて然るべきように思います。ヒールとヒートの境目というか、これぐらい鼻持ちならないぐらいが他団体の敵として相応しいのではないでしょうか。「これが新日のやり方か」は笑ってしまいましたし、かなりのナイスワードでしたね(笑)

清宮vs小川に関しては、小川の言葉選びはかなり際どいラインに踏み込んでいるというか、レスラー間のレスラー評というのは我々ファンとしては気になる反面、舌戦で見たい事柄というよりムック本等のインタビューで読みたい「裏」の部分という意識がいまだ根強く、それだけに見ててヒヤヒヤするものがありますね。「強い」「弱い」や「上手い」「下手」は試合の勝負論に関わる部分としてまだ理解できるのですが「試合がつまらない」「ワンパターン」はあまりにもプレイヤー目線すぎるというか、あまりこういう言葉を使いたくないのですが、かなりシュートな発言のように感じます。それに面白さを感じてしまうのも事実なのでしょうけど、ノリやすいアジテーションとして「加工」されてないことに受け付けなさを覚える人も多いように思いますし、こればかりは人によって価値観が違う部分であるとも思います。なまじ「面白くない」と言われてしまっては試合での勝利が帰結点にならないというか、結局は小川とそれに同調する観客を「納得」させる形で試合をする必要性があり、清宮に科すハードルとしては申し分ないものの、見方を変えれば若干のアンフェアさがあるのも事実です。試合と言葉の両面でアクションを起こさなければいけないというのは清宮にとっては試練ですが、逆に師匠からの巣立ちというか「小川離れ」としては完璧な流れになっているようにも思いますね。清宮が逆に小川を「査定」してやればいいんですよ(笑)もう少し生意気さを出してもいい頃合いじゃないですかね。個人的には別に短期的に承認を得て顔色を窺うばかりでなく、今は袂を分かってもいいと思いますし、今は匙を投げられても、10年、20年後に褒められるのでもいいじゃないですか。ただ、一番側で鍛えてくれて、一番認められたいであろう師に否定されるというのはかなりキツいですし、そうした「承認」の物語は非常に現代的であるとも思います。清宮周りの物語は本当に面白いですね。

他の絡みもバチバチであり、LEONAと大岩の絡みは非常に興味深いですね。新日由来の血筋をリアルで体現してるLEONAと、現新日のヤングライオンから脱却した大岩。どうしても父の面影を追ってしまうLEONAが、それを抜きにして同じ目線で大岩とシバきあったのは好感度が高いです。Eitaに仕掛けたテキサスはすぐにロープブレイクを許したあたりに少し不満がありますが、ここで技を解かずにさらにはレフェリー暴行まで加えることで意味を持たせましたし、熱き血潮の反則負けがLEONAに感じてた意外な荒々しさの帰結として及第点だったように思います。偉大なテクニシャンの二世から来るイメージに反したこうした荒さは違和があるのでかえって似合っていますよね。日本マットでの二世レスラーの地位向上のためにもLEONAには頑張って欲しいものです。

◼️第6試合 GHCタッグ選手権
ハックスリー&サッチャー vs モリス&グリーン

非常に粗野で荒々しい風貌ながら、王者組の根底にある確かなテクニックをしっかり感じ取ることのできた試合でした。一見するとシングルプレイヤー向きなハックスリーが実のところタッグ適性が高いというのが面白く、ハンマーロックで固定してのストマックエルボーとそこからのハンマーロックベアハッグは素晴らしかったですね。こういう部分も含めた往年の強豪ガイジンレスラー感は試合だと本当に映えますね。

攻撃力で勝る王者組に対し、モリス&グリーンのGLGコンビはコンビネーションを中心とした華と軽快な動きによる連携で畳み掛けるのもバランスが良いですね。鈴木秀樹の介入は意外ですが、これがかえってジャクモリのベビー感というか、この試合に限ってはまるでエースのような輝きがありました。

試合はスパインバスターからのタイガードライバーでジャクモリの勝利。技の流れだけ見ると目新しさはなく、オーソドックスすぎる印象があるものの、ジャクモリのエース感とタイガードライバーという技の相乗効果が恐ろしく引き立っていたせいか最後のカタルシスは本当にヤバかったです。モリス戴冠は本当に喜ばしいですね。これは試合リポートで済ますのではなく、腰を据えてしっかり試合を見ないとわからない良さですよ。タイガードライバーもちゃんとフォール時に相手の肩を足でフックしてるのもポイントが高く、シンプルで使い手の多い技だからこそ、こうした丁寧さが光るわけで、ジャクモリは本当にいいですね。最後に沸き起こったGLGコールはこの試合の価値を端的に表していたようにも思いました。

◼️第8試合
イホ・デ・ドクトル・ワグナーJr. vs サイコ・クラウン

盤石の王者、ワグナーにとっての大一番です。血統こそ優れていて実力も抜きん出ているものの、日本マットでの知名度もあってか決して高いとは言えなかった参戦当初から、文字通りの腕っぷし一つだけでノシ上がり「個」としての物語をノアマットに持ち込んだワグナーにまずは敬意を表します。プロレスファンの中でも知らない人の多い家系を巡る二人の血の因縁というハードルの高いストーリーながら、それでもプロレスという共通言語があるからこそ伝わるという自信が感じられますし、何よりこの物語をより広めて浸透させようとしたノアの「予習」も素晴らしかったですね。この二人の試合は映画でもおかしくないですよ。

試合序盤はサイコが押す展開が続き、マスクを破られたというのもあってワグナーの防戦一方でした。あれだけ「強さ」を誇示したワグナーがやられっぱなしという意外性とハラハラ感があり、単なる挑発や素顔を晒せない「制約」に踏み込んだだけではなく、マスク剥ぎそのものがプライドをへし折ったりトラウマを刺激する精神攻撃になってるのが如実に伝わってきたのは凄まじいですね。ルチャの試合特有の過剰なアピールも狂気性として拍車をかけており、普段よく見る明るく華やかなだけではないルチャの裏面が見えたような感じがしてとても良かったです。

マスクを破られたことで言葉通りのワグナーの素顔が垣間見え、強烈な打撃でペースを取り返すもサイコも攻め手を緩めません。憎悪と正義の葛藤の中、ターンバックルを外してレフェリーのブラインドをついたワグナーが金的からのマスク剥ぎ、そしてワグナードライバーでワグナーの勝利。ノアマットで見せなかった悪の片鱗と獣性の解放。サイコの悪辣さに対する意趣返しではあるものの、残った感情としては壮絶の一語であり、同時に歴史の重みを感じた一戦でした。

◼️メインイベント GHCヘビー級選手権試合
ジェイク・リーvs 潮崎豪

悲願のN-1優勝を果たしたものの、かつてあった盤石の支持率は真っ二つに割れ、苦しい復活となった潮崎。対するジェイクは軒並みノアのアイコンを葬りつつも、リスペクトを崩さない姿勢もあってか内実共に侵略を完了させつつあります。シチュエーションだけなら潮崎は最後の砦でありながらも、立場としては逆風であり、そしてまだ不安視されるコンディションもあってか死闘の予感がビンビンに漂っていますね。

ロックアップ。クリーンブレイクからのまずは挨拶代わりの逆水平。まさに快音でありつつもジェイクがショルダースルーで放り投げるとニーオンザベリーで抑えつつ腕を取る柔術の動きを見せます。徹底した腕狙いもあり逆水平を打つ潮崎も顔を歪めますが、FBSをラリアットで迎撃すると、変則的な足狙いのラリアットでジェイクの足狙いを見せます。水車落としのようにジェイクを抱えて足を鉄柱にぶつけたのは新機軸の潮崎豪といった感じで良かったですね。地味にバタつくジェイクを腕一本で足を固定したのが素晴らしく、腕vs足の試合構築としてわかりやすいシーンでした。

低空ドロップキックにレッグブリーカー。変則的なテキサスと、これまでに培った経験を活かしての潮崎の攻め。ベルトがなくとも王者経験で勝る潮崎らしい攻撃。しかしながら潮崎が攻めのターンに回ると怖いのはジェイクの懐の深さであり、呪術廻戦でいうところの領域展開の押し合いのような、水面下での綱引きが見えますね。

やはり目立つのは逆水平。試合が進むにつれてバフがかかるというか、これ一つでエンジンがかかるのはヤバいですね。そこからゴーハンマー乱射に仕掛けの早いゴーフラッシャー。前述の足殺しが早速生きてきましたね。逆水平、ラリアット、その変奏としてのゴーハンマーと密着戦では潮崎が強く、足を狙われて蹴りもままならないジェイクにとっては厳しい流れに見えましたが、ジェイクは逆に大車輪のチョークスラムに正調のチョークスラムと体格を活かした組み技で挑みます。FBSこそラリアットで迎撃されましたが、再びエルボーとチョップの打撃戦に。

ローリング逆水平にランニング逆水平と潮崎のチョップバリエーションが疾りますが、関節蹴りのエルボーバージョンのような、オブリークエルボーとでも逆関節打撃!これも柔術っぽいテクですね。しかしながら小技に対して一気にノアらしい大技を畳み掛ける潮崎であり、リミットブレイク、エメラルドフロウジョン、ムーンサルトプレスと一気に攻めますが、この仕掛けの早さにいつもと違う嫌な予感がするのも事実であり……。ラリアットをビッグブーツで迎撃してのジャイアントキリング。ハイキック、バックドロップと、受けに受けた分の「タメ」を最後に爆発させました。

最後は首が曲がるかのようなコーナーへのパワーボムから、腕を震わせて照準を定め、一気に加速してのFBSで潮崎豪を一撃で粉砕。いやあ……最後は言葉が出ませんでした。ジェイク、強いですね……。試合時間は20分ほど。それを見るに、潮崎はやや変則的に攻めつつも限りあるスタミナを全て攻撃に回して短期決戦を狙った風もあり、一撃一撃に込めた力の凄まじさは目を見張るものがありました。対するジェイクは押し切られないようにそれを凌ぎつつ、技の切れ目のタイミングで逆に一気に爆発させた感じがあります。全力に全力をぶつけず、タイミングをズラしての意図的なボタンの掛け違い。ジェイクの試合は本当に「計略」ですね。それと同時に嵐が過ぎ去るまで待ち、頃合いを見計らうというのはまさに今年の船頭役を務めただけのものがあり「耐え」でも潮崎を上回りました。これは完敗ですね。悔しいです。

試合後に王者指名で解説席から立ったのは拳王。唯一ストップザジェイクを成し遂げた男であり、他団体を股にかけての活躍で観客の支持率をNo.1に高めた最後の男。はっきり書きますが、拳王が負けたらもう後はありません。小さい顔でデカい口を叩くなと言わんばかりの挑発は品がなく、これが逆にスマートかつ上品なジェイクの仮面を引き剥がすだけのインパクトがありましたね。ジェイクの品のいいプロレスも特異性があっていいのですが、やはり拳王のこうしたノリのほうが個人的には馴染みがあります。今年の主役である拳王との戦い。これは目が離せません。