2023.9.3 プロレスリング・ノア ABEMA presents N-1 VICTORY 2023 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。G1以降はいつも燃え尽き症候群のような感じでしばらくプロレスとは無縁の日々を送っているのですが、今回はそれに不運にもコロナ罹患が重なってしまったのもあり、ここ数週間は逝ける屍のようになってました。みなさん気をつけましょうね。

とはいえ見ない期間があったからといってプロレスに興味をなくすということは微塵もありえない話であり、自分の二十数年の長いような短いようなプロレス人生の中で、心がプロレスから離れたことはただの一度もないのが密かな自慢だったりします。僕にとってのプロレスは刃牙道の本部以蔵の「武」のようなものですよ(笑)さてさて、前置きはここまでにして、今回はノアの大阪大会について気になった点を色々と書き綴っていきましょう。

◼️6人タッグマッチ
ジェイク&モリス&グリーン vs 鈴木秀樹&ハックスリー&サッチャー


決勝進出できなかった屈辱の王者、ジェイク・リーと人間風車二世鈴木秀樹の危険すぎる第一種接近遭遇です。開幕からいきなりスタスタと歩いて距離を詰める鈴木秀樹に、悠然と応対するジェイク。ヌルヌルした動きながら比重の重い粘液にいるような空気感。これですよ、これ。ハンマーロックで拘束するジェイクに、背後で腕をクラッチして堪える鈴木秀樹。リストを捉えて動きを封じるジェイクに、柔術仕込みのジェイクのお株を奪って下からのヘッドシザースを見せる鈴木秀樹。いやあ……もう序盤の攻防だけでお腹いっぱいですよ。ロープブレイクを狙ってコーナーに逃れたジェイクの身体をコントロールして逆にコーナーから話した鈴木秀樹はとても良かったです。こういう部分に「勝負論」を感じるんですよね。

儀礼的なジェイクのロープブレイクに対して頭を蹴り上げて鈴木秀樹が挑発すると、激昂したジェイクがチョークに。これでキレたというよりジェイクは最初から「殺る気」でしたし、打撃ではなくレスリングで勝負を挑んだあたり、殺気の種まきはすでに済ませているんですよねえ。

バチバチした場外戦。二人とも体格の良さが目立ちますね。それでいながら決着はリングの上でとジェイクは苛立ちながらも促します。再びハンマーロックでジワジワ攻めるジェイクに対し、ロープブレイクで逃れた鈴木秀樹が張り手一閃。サッチャーに交代するも、無視して詰め寄るジェイクに背後からサッチャーがスリーパー。それをチンクラッシャーであっさり返すと相手に鈴木秀樹がいないとみるや、怒りを携えてそのまま静かに引き下がります。クリーンなレスリングの土台は一切崩さないままでこうした喧嘩マッチめいた危険度の高さを垣間見せてくるのはいいですね。

リングの上は互いの外国人パートナーに任せて、その後に場外でやり合う二人。試合はアンソニー・グリーンが押さえ込みで決めるも、場外で視察戦を繰り広げる二人。ジェイクvs鈴木秀樹という極上の対決を最初から出し惜しみしないノアの姿勢は素晴らしいながらも、終わってみればもう少し見たかったしこの二人で決着をつけて欲しかったという口惜しさもあり、試合としては竜頭蛇尾。とはいえこの「歪さ」がたまりません。この二人の第二ラウンドが気になりますね。

◼️シングルマッチGHCマーシャルアーツルール
船木誠勝 vs ジョシュ・バーネット

90年代〜00年代のプヲタ垂涎の試合ですね。一昔前ならこれだけでプラチナチケットになったといってもおかしくない、プロレスと格闘技の境目がなかった時代ですら実現が難しい試合が令和のこの世に現れたことに、ただただ感謝しかありません。

当時、一世を風靡したボブ・サップの野獣の調教師として彗星のごとく新日に現れたジョシュ・バーネットでしたが、対格闘技方面の用心棒といった趣が強く、自前の選手で総合格闘技に勝てないからだろという揶揄こそあったものの、その実力に関して疑う余地はなく、永田を絞め落としての「オマエハモウシンデイル!」はキャラクター性も相まってインパクトは抜群でした。それ故に当時の新日が上手く活用できたかと言われたらやや疑問符の残る形であり、G1参戦が立ち消えになったのも含めてやや不遇な感じだった印象もあります。

ヒリついた空気感の中、開始早々船木に対してテイクダウンを決めての足関合戦。この辺りはUの香りを感じますし、船木に対してリスペクトを隠さないジョシュらしいラブコールではありますね。オマージュという印象が強い攻防です。

船木のインローで崩されて情けないテイクダウンを取られつつも、試合全体として上になる展開はジョシュが多かったですね。ただ、目立ったのは身体この「緩み」であり、お世辞にもコンディションはいいとは思いませんでした。しかしながら鈍重な印象こそ拭えないものの技術面での錆びつきは誤魔化しが効く感じでもあり、永田を絞め落としたフロントネックロックから昔から得意としてるフロントネックチャンスリーへと繋げたのは良かったですね。

船木にダウンを奪われて仕掛けられたフロントネックロックはかなり危険でしたが、必死にエビで逃れつつサイドポジションから船木を抱え上げ、一気にキャプチュード・バスターで叩きつけてジョシュの逆転勝利。これも使ってた当時は対戦相手のほぼ全員KOに追い込んだ殺人技ではありましたが、今回のはノーザンライトボムのように垂直落下気味だったのもあってかなり危険度は高かったですね。かなり危なくてアクシデント感もややありつつも、その境目の曖昧さが実に「らしい」というか。最後にこれをチョイスしたのも憎らしいものがありますね。

総じて夢のカードでありつつも、勝負論よりはリバイバルの印象が強く、試合のクオリティとしては難しい気もするのですが、先ほども語りましたがこうした「歪さ」って洗練された今のプロレスだと中々拝めるものではなく、リバイバルと言いつつもその当時を過ごした人間としては夢中になったのもあって、わりと楽しめた試合でした。

◼️スペシャルタッグマッチ
清宮海斗&大岩陵平 vs 小川良成&ザック・セイバーJr.

大岩の新コスチューム&髪型はいいですね。個人的には襟足の長い前の野暮ったい髪型のほうが清宮との差別化ができてて好きだったのですが、タッグで合わせてくるのもそれはそれでノアらしいなとも思います。

開幕は清宮とザックの攻防。現時点の清宮がどの程度やれるのか、ザックとの技量の差はどのぐらいあるのか。これが非常に興味深く刺激的で最高の顔合わせでした。

そして小川が出てくると清宮が引き大岩に交代。事前の因縁を思うと継続でもいい気がしますが、清宮は満面の笑みでプロレスそのものを楽しんでいる様子であり、大岩と笑顔で交代したシーンがなぜかやけに胸に残りました。

大岩vs小川良成のマッチアップ。ヤングライオンを抜け出たとはいえまだ経験の浅い大岩をキリキリ舞いさせつつ、大岩もギリギリついていくといった印象で、野毛道場の意地を感じましたね。足を取ろうと反転した大岩をコントロールするように腕を捉え続けていたのが印象深く、やはり小川は上手いなと。あとJr.で院政を敷く小川より、こうしてヘビーに混じって若手とぶつかる小川のほうが個人的には魅力的に映りますね。

清宮に交代しましたが事前の因縁に反してあまり喧嘩マッチめいたものにはならず、リズム感のある攻防を見せます。目を引いたのはダウンした小川に対してのエルボードロップで、最初の一発は小川にカウンターされないように低空で放って様子見しつつ、二発目は高度のあるフラッシングエルボーを放つという二段構えでやったことですね。ちゃんと小川を意識した一撃であると同時に、清宮のプロレスは何よりも雄弁です。

しかしながら試合は清宮が捕まる展開になり小川&ザックの地獄のような腕殺しの蟻地獄に。変な話、こうしてみると清宮の「若手感」が凄く際立ってくるというか、本当に伝えたかったのはこういうことなのでは……?と。清宮は若くフレッシュではあるのですがプロレスそのものは老獪かつ優等生的で、その才能もあってかあまりにも「できすぎる」んですよね。だからこそ新日マットで見せた試合運びはまさに「正解」でありながらも、実力こそあれど年齢を考えると若手のホープらしさというのはあまりなく、端的に言えば「若手らしくない」だからこそわざわざ新世代で新日がひとまとめにしたのも、清宮に若手らしい「青春」を過ごさせてあげたかったのかな、とも。これは個人的な見解に過ぎないのですが、利口に振る舞い、それで正解を出せるからこそ、それよりもやるべきこと、やって欲しいことがあるのかもしれないですね。あとはそれぐらいはサラッとこなせて観客の支持を集められるからこそ、より高いハードルを清宮に課したのかもしれません。

捕まる展開が続きましたが、交代してから大岩が爆発。小川良成の小柄な体格をブン回して投げたサイドスープレックスはよかったですね。ザックに交代してからもハードな蹴りを喰らいますが、この耐える時の大岩の表情の素晴らしさたるや。大岩コールが起こったのも最高ですし、ファイヤーマンキャリーからの腕ひしぎも最高です!ザックに腕ひしぎで切り返されると、足を外してすぐに切り返したのも良かったですし、ザックからエスケープを奪っただけでも殊勲の働きですよ。

しかしながら清宮の腕のダメージは大きく、清宮vs小川の展開になりましたが腕を狙われつつ苦悶の表情を浮かべます。賛否を呼んだ小川発言を裏付けるようなワンパターンさは微塵もなく、打ち立てたセオリーを崩されて「ほぐされて」いくような試合という印象で、これができるのは確かに師匠である小川良成以外いなかったのかもしれません。とはいえ追い込まれたときに顔を出すのは修行の成果でもあり、起死回生のドラゴンスクリューから交代にいかずに足4の字へ。いけるかと思いきや、これを反転して逆に清宮の足を痛めつける小川に、カットの遅れた大岩がザックのコブラツイストで捕獲され、二人のフレッシュなタッグが最大のピンチを迎えます。

ここは何とか大岩がカットすることで窮地を脱した清宮が走り込んでのシャイニング。大岩はエプロンを走ってのフライングショルダーでザックを蹴散らしてアシストする中、最後は変形シャイニングで清宮が小川から逆転勝利を飾りました。

最後は意地の武藤殺法を見せつつも、試合全体を通して小川のコントロール力と意地悪さは凄まじかったですね。とはいえ、ワンパターン=武藤殺法ではないという清宮の意地もあり、それでいて清宮も大岩も年齢に相応しい「若さ」を見せられたのが一番良かった部分ではないかなと。それにしても試合後の二人に対する小川評は気になりますね。

個人的には大岩の成長含めてタッグとして面白かったのもあって楽しめた試合であったのですが、この試合内容自体は前述の小川発言の影響もあり、わりと賛否があるような気がします。G1での戦績に一旦リセットをかけて、若手らしい輝きを見せたと見るべきか。逆に発言含めて清宮の面子を潰すような試合になったと見るか。この辺で評価は変わりそうな気はしますね。とりあえず夢中になった清宮のG1公式戦に冷水をぶっかけられた身としては、ちゃんと清宮が勝ってくれたので僕としてはホッと胸を撫で下ろした印象が強かったです(笑)


◼️ N-1 VICTORY 2023優勝決定戦
拳王 vs 潮崎豪

今最も波に乗る男拳王と、苦難の欠場から絶対王者以後の時代を紡ぎ続ける潮崎豪。こうしてみるとこの二人が勝ち上がってきたのも運命めいたものを感じます。シチュエーションだけで語るなら潮崎豪の復活劇こそ主役の物語であるのですが、今年一年を通しての拳王の活躍は素晴らしく、他団体含めての支持率の高さは凄まじいものがありますね。ノアのアイコンと言ってもいい潮崎豪にタメ張れるだけの支持率を得たのも凄いことではあるのですが、やはりヒーローはファンが決めるものなのですよ。

序盤は徹底して拳王が押す展開が続き、鉄柱でのキックで誤爆を予感させつつもそれをフェイントで外してきたのは上手いですね。攻防の苛烈さ以上に絶対ベビーかつ主人公である潮崎に対して空気を渡さないという意地を強く感じ、また潮崎からしても耐えれば耐えるほど主人公感が増しつつも、支持率が拮抗するレベルにまで人気を高めた拳王は脅威に感じるわけで、相手としてこれ以上ない強敵でしょう。謂わば主人公交代を画策してるようなものですから。ある意味ではノアのアイコンというポジションの簒奪なんですよね。

潮崎もチョップでギアを上げつつ応戦しますが拳王の猛攻は止まらず、アンクルからの蹴り上げや師匠譲りの拝み渡り(拝んではなかったですがw)からのフットスタンプなど、進化し続けるカリスマらしい技を見せつけていますね。苦戦する潮崎はローリングクレイドル、スクールボーイ、首固めと基礎である押さえ込みを見せつつゴーフラッシャーで反撃。さらにトペで追撃を見せます。終盤戦でフォール狙いというよりフェイントで惜しみなく使った印象で、試合時間20分を過ぎての飛び技など、とにかく「自由」であり、試合構成含めてあれだけ攻められても悲壮感がまるでないのが凄いと思いました。

ロコモーション式のドラゴンにえげつないフットスタンプ。潮崎の苦難は続きます。炎輪は何とか躱して豪腕ラリアットをブチ込むも後は続かず。スタミナお化けの二人は立ち上がり、チョップとキックの応酬となります。ハイキックフェイントを交えてのスピンキックにハイキック。さらにバズソーキックに顔面への張り手で失神寸前まで追い込みますが、ここで出したのはワンツーエルボーからのローリングエルボーにランニングエルボー。そしてエメラルドフロウジョンという正当血脈のアイコンらしい技を潮崎は見せます。その前に見せていたジャンピングパワーボム=ダイナミックボムも合わせての四天王憑依。そして最後は一度は不発に終わった高角度のムーンサルトプレス。頂点まで伸びやかに跳躍してフワリと落ちる一発であり、師匠小橋の引退試合の技でもあり、そしてコンディション面での復活を示す一発でもある。やはり最後はこれしかありませんでしたね。絶対王者時代を駆け抜けたのが豪腕なら、次の絶対王者第二次政権はムーンサルトになるのでしょうかね。殉教の聖人、潮崎豪から酸いも甘いも噛み分けた人間・潮崎豪。潮崎の時代はまだ終わりません。こうした四天王技を使うというのは自身が正統派の王道後継者かつ、王権があることの証左でもあり、亜流かつ反体制でノシ上がってきた拳王に対してこれを出すのは非常に残酷な答えでもあると思うのですが、それもまたプロレスでしょうね。ジェイク戦にまで続く潮崎の裏テーマとしては王政復古だとも思うので、苦難の道ではありますが潮崎の答えは正しいと思います。

試合後に姿を現したのはジェイク・リー。全日感のあるマッチアップであり、潮崎vsジェイクは見たかった人は多いんじゃないでしょうかね。N-1前の大会では潮崎は直接フォールを取られているだけにリベンジマッチの趣は強く、丸藤、杉浦と歴代のノアのアイコンがやられているだけに、潮崎としては至宝奪還を狙うしかないですね。杉浦や丸藤戦はまだジェイクの査定試合といった印象こそ強かったのですが、アイアム、ノアこと潮崎豪は文字通りの最後の砦です。潮崎vsジェイク、楽しみですね。

敗れて準優勝という形になった拳王ではありますが、この一年の活躍はプロレス大賞クラスと言っても過言ではなく、話題性、キャラクター性、そしてレスラーとしての幅を大きく広げた一年だったと思います。アンディフィーテッドな無敗伝説を更新し続けてきたジェイクに土をつけたのは素晴らしく、もう一人のアイコンとしての意地そのものでしょう。結果こそ準優勝でも誰もケチをつける人はいないと思います。拳王、とりあえずお疲れ様でした。





色々と話題性抜群の興行でしたし、G1以降止まっていたnoteのリハビリにもなったので満足感はありました。清宮勝利。潮崎復活はとにかく嬉しいです。またお会いしましょう。ではでは。