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中島らも/アマニタ・パンセリナ

中島らものアマニタ・パンセリナを読了した。
以前載せた日記でも読んだと書いたが、実は半分くらいまでしか読んでなかった。

私は逆張り体質のサブカルチャーオタクのヒッピー気質なので、ドラッグに関しては基本的に肯定派と言っても良い。
本著は、日本のドラッグカルチャーでは有名人であるらも氏のドラッグ関連エッセイなのだが、氏本人がいくつかの薬物依存者だったため基本的には肯定する論調で描かれている。


本書の初版が約20年前で、ドラッグを取り巻く環境も世界的にずいぶん変わったと思われるが(20年前はカリフォルニアでもまだ大麻すら違法だったはずだ)作中で一貫してなされている主張は以下のようなものだ。

・民間に対して、基本的に薬物そのものへの理解、知識はぜんぜん浸透していない。
だから、法をすり抜けるようなテクで売人に麻薬(覚せい剤)を売りつけられたり、賤(せん)な薬物に依存してしまったりする。

・依存をアレルギーのように嫌うのは偏見であり、依存してしまったから死ぬべきだとか、依存は何とかして断たないといけないとかそういうことは無い。依存しながら生きていったって良い。

前者も後者も、私から見れば妥当な考え方ではあると思う。
今どき、痩せ薬と称して覚せい剤を売る売人は居ないだろうが、まあ大麻の怪しげな類似物質が浸透している事実もあるから、過去にそれでどんな酷い事件が起こったかなどはもっと知られるべきだ。

賤な薬物、というのは作中で言及があるのだが、覚せい剤のことである。
大麻と覚せい剤、幻覚剤、MDMAは全くと言って良いほど別物である。一括りに麻薬と称されたりするが、それはメガネザルと猫と人間をまとめて称しているようなものだ。

つまり、どういった効果がもたらされるか、依存症含めどういったリスクがあるのか、どういう摂取方法で、どういった文化で発生した物質か、など、まったくと言って良いほど異なる。今時よくメディアでも目にする理屈だが、依存性が少ない大麻よりも、依存性が高く、即人間性に影響がある覚せい剤は忌むべき物質だということだ。

大麻なら良いという単純なことではないが、そういった知識も含めて大衆に理解が浸透することで正しい社会と薬物の関係性が形成されていくだろうと思う。



後者は、私からすれば依存症患者の言い訳だ。

依存症は実際つらく、氏のように市販薬や酒に依存してしまうと金銭的にも相当圧迫されるはずだ。
しかしながら一度依存してしまえば、それを脱することはとても容易ではない。特にらも氏は陶酔を利用して仕事をしたりコミュニティへの帰属を図っていたため、それを絶つということは離脱症状との戦いと同時に生活環境の再構築もしなければならなかっただろう。

らも氏は妻子や、自営業の事務所もあり、もはや自分ひとりの身体ではなかったはずだ。事実うつ病を発症し晩年は苦労したと記述もあった。

依存症なりに生きるということは、長年ドラッグジャンキーをしていたらも氏が見出した自分を納得させるため方便だったのだろう。


でも、らも氏は実際生き延びたわけだし、私はそんな言い訳を断じて否定したい訳ではない。
誰しも、何かしらに依存しているわけで、パチンコを辞めてオンカジで破産したり、たばこを辞めて覚せい剤をしたり、依存対象がステップアップしてしまうよりは、現状の依存対象に徹する、この姿勢を真似しても良いと思う。


前述の通り、物質には様々な作用があり、これは本当に上手く扱えば仕事の効率が邁進したり、ストレスが低減したり生きやすさにもつながる。

苦難の環境に立たされ、もはや短期的に生活に救いを見いだせない人などは世間に無数にいるものだと思われるが、行政の福祉の手の届かないような真の苦境に居るような彼らにとっては、薬物による当座の酩酊感だけは救い足りえるのではないだろうか。

極端な意見ではある。依存症となったらそれこそ二度と社会復帰がかなわなくなってしまう可能性すらあるが、どちらが良いかなどは、誰にもわからないことだと思う。


らも氏は、最終章でアルコールは辞めたと言っていた。
何十年も毎日一升飲んでいたらしい。

やっぱり依存症はつらいのだ。

世の中の多くの物質は、継続的な摂取で耐性が形成される。
アルコールはともかく、睡眠薬や覚せい剤、咳止めシロップなどは段々と同じ量じゃ効かなくなり、酔いを得るためには更に沢山摂取しなければならなくなる。

当然、たくさん摂取すればその分肝臓や腎臓へのダメージは深まり、反動も強まれば依存性も強まる。

そこまでいくと、内蔵だけでなく、人間関係も少しずつ壊れていく。
特定の物質の酩酊ありきで生活している人間は、世間の大多数とは明らかに異なるから、考え方もずれていきどんどん浮いて行ってしまう。

依存とは恐ろしい。


でも、誰しも何かしらに依存しながら生きている。





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