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【月刊noo】本番間近の番外編【2023.9月号】

月刊noo、9月号。
いつもはソ連邦の思い出や、日常のエッセイ、レシピ等のよろず文を徒然に更新しておりますが、今月号は番外編として、9月27日に初日を迎える公演、クレバス2020に絡めた文章を書いてみようと思います。
広報ではなく、個人的な話です。

クレバス2020は、私がメンバーの1人であるユニット、劇作家女子会。(https://gsjoshikai.tumblr.com/)と、個人ユニットnoo(https://noomw.wordpress.com/)の共同主宰による演劇公演です。
上演される脚本も担当しておりますので、私は主宰者の1人として、そして脚本家として、本公演の創作現場に関わっています。

色んなところで書いていますが、クレバス2020で上演される脚本の元になったのは、私が2020年の5月から6月にかけて書いていた、50本の短編戯曲です。その短編に新しいエピソードを加えて長編に編纂したものが、今回上演される戯曲になります。

演劇をはじめとしたエンタメが不要不急として自粛を要請されていた時期に書いたものが、こうして上演の機会を得られたことはとても感慨深くて嬉しいのですが、そもそもどうして、私はあの時期に50日連続で1日1本の短編を書き続けられたのか、ということをふと思いました。

書いている間は楽しくて、あまりプレッシャーも感じず達成した50日連続だったのですが、色んな人から褒めてもらえたり「なかなかできないよ」と言われたりして、実はけっこう大したことだったのか? と思い始めてから「どうして自分は出来たんだろう?」と考えた時にでた結論は、不謹慎ではありますが「あの頃の自分がとても元気だったからだ」ということでした。

安全だったはずの世界を目に見えないウイルスが席巻して、人と直に会うことや話すことに自粛を求められ、色々あるけど安心して過ごしていたはずなのに、突然明日がどうなるかわからない。

コロナ禍は私達の日常を支えていた、世界は揺るがないという信頼を揺るがし、秩序や習慣、社会の在り方が大きく変わる、崩れるというショックを全世界に与えたと思います。

だけど自分にとっては、コロナ禍になるずっと前から世界は信頼できる場所では全然なくて、いつも安全でも安心でもない海を泳いでるみたいな気持ちでいました。

自分がはまる場所のない歪なパズルのピースのような、教室に自分の座る席だけなくてずっと立たされているのに出ていけないみたいな。
若いころ、初めて舞台の『エンジェルス・イン・アメリカ』を観劇した時は、登場人物の1人が願う「神様、僕をバラバラにしてください。バラバラにして、もう一度作り直してください」というセリフで雷にうたれた時の「私の願っていることはこれだ。だけどこんな願いが叶わないことを私は知っている。世界は整然としてそこにあるのに、自分はバラバラにされた何かのカケラでまともなものではないのだ」という衝撃を覚えています。

色んな理由から屈託なく日々を生きることが難しかった私にとっては、同じような人達と知り合うことがあったとしても、やはりそれぞれ別の星の人間で、疎外感を感じ続けていて。世界には贖われない傷跡がそこかしこに開いていて、安心でも安全でもない海のようなものなのに、溺れているのは私だけで、誰もそこにいないみたいだ。

それは私の目で見た、私の妄想に近い世界で、現実は違っていたと思います。
だけどその現実の世界にうまくコミット出来ない自分の内側にある、どうしようもない世界もまた、コロナ禍で変化しました。

世界の方が誰の目にもわかりやすく壊れてくれて、世界中の人が自分が安心でも安全でもない海にいることに気がついて溺れだして。バラバラになった世界ではカケラの私は息がしやすいし、皆と一緒にいられるのが嬉しい。
あんなに安寧な世の中にいれたこと、こんなにも自分と人とが一緒なんだと思えたことは初めてでした。
それは私の知らない感覚で、夢を生きているような時間でした。
一方で、コロナ禍が原因で仕事を失ったり、生活や生きる力をごっそり奪われたり、亡くなられた方もたくさんいる。

目眩のするような落差。ベタな表現ながら、天国と地獄、途方もない善意と悪意ですらない醜さ、大嵐と凪とがグラデーションを描きながら混ざり合い、レイヤーの違う世界が重なり合っている世の中の広さ深さ複雑さを、あの時期を経てようやく自分の腑に落としている感じです。

今、自分たちは「その後の世界」を生きていると思います。
それは公にはコロナが5類になって、「アフターコロナだ」とされている時期でもありますが、個々人にとっては、それぞれコロナ禍で傷つけられたことや奪われた経験、あるいは世界を変えたり何かを得たりもした「その後の世界」です。

この世には不条理なことがいくらでもあって、不意打ちで「死んだ方がマシ」と思える出来事にぶつかってこられることがある。それで心や魂が殺されたり世界が崩れ去ったりした時、そこで死ぬことが出来なくて「死んだほうがマシ」のその後の人生を生きていくことになる人々。
壊れた世界で、殺された心や魂を抱えて、自分の生死と日々向き合わざるをえないその人達の「その後」は、コロナ禍以前は今よりずっと見えにくかった。

でも今は、大勢の人たちが、程度の差こそあれ、皆一緒に世界が壊れる体験をした後です。

社会は今、何もなかったことにしたくて急いで元に戻ろうとしているようですが、あれから3年たって記憶が薄れても体験が消えないように、「その後の世界」の「その後の私たち」も、変わっていかざるをえないのだなと思っています。

人々の世界は一度壊れて、それまで信頼していたものが信頼できなくなりました。
だけど「その後」に続く生活や日常、世界はますます混沌として容赦なく、同時に豊かに生きとし生けるものの前に開いている。美しいとか尊いとか、そういう言葉が痩せて見えるくらいに。

「その後の世界」で、生きとし生けるものはいつまでもいつまでも幸せに暮らしました。

安心でも安全でもない海で、1人じゃなかった夢を生きていたあの時間、自分はそういう話を書きたかったのだと思います。

ごあいさつ ~終わりに~

月刊noo9月号、番外編としてお送りしましたが、楽しんで頂ければ幸いです。
9月公演クレバス2020は27日が初日。稽古も佳境でエンジンフルスロットルです。
クレバス2020公演の稽古場レポ等も劇作家女子会。のnoteで書いておりますので、こちらも読んで頂けたら嬉しいです。
上演をより楽しんでいただけるよう、更新していきたいと思います。

クレバス2020 稽古ノート

また、本公演は製作資金のためのクラウドファンディングも実施中です。
クラファン限定グッズや、出演者インタビュー等のコンテンツをご用意しております。
ご支援ご検討賜れば幸いです。

公演特設サイト


来月号もどうぞよろしくお願いいたします。

★公演告知★ 

劇作家女子会。feat.noo クレバス2020
It's not a bad thing that people around the world fall into a crevasse.
作:モスクワカヌ(劇作家女子会。)  演出:稲葉 賀恵
公演日程:2023年9月27日(水)~10月1日(日)
会場  :シアター風姿花伝

2020年第20回AAF戯曲賞特別賞を受賞した作品。コロナ禍による緊急事態宣言中の2020年の日本を主な舞台に、当時を生きた人々へのインタビュー、ニュース、社会情勢をもとに書かれた50本の短編作品を、長編として編纂したもの。緊急事態宣言中にDV避難を余儀なくされた若者を軸に展開される、コロナ禍を舞台にした群像劇。

【本作をご観劇になるお客様への事前のご案内】
本作は、直接的な描写はありませんが、下記を想起させる表現を含みます。
希死念慮 自殺 虐待 性暴力
12歳以下の方がご観劇する際は、保護者の方の同意があることが望ましいです。
事前に台本の内容をご確認される場合は、以下のリンクから閲覧が可能です。
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/item/Itsnotabut.pdf

また、ご観劇の際のご心配事等ありましたら、本公演に関するお問い合わせ先へご連絡くださいませ。

舞台出演者
伊東 沙保 
大石 将弘 
勝沼 優 
木内 コギト 
工藤 広夢
小池 舞
小石川 桃子 
小早川 俊輔 
田実 陽子 
田尻 祥子 
西田 夏奈子 
丸山 雄也 
水野 小論 
毛利 悟巳 
ユーリック 永扇 
吉岡 あきこ 
蓮城 まこと

映像出演者
阿久澤 菜々
今井 公平
KAKAZU
小林 彩
小林 春世
β

公演日程:
9月27日(水)19:00~
9月28日(木)13:00~
9月29日(金)13:00~/19:00~
9月30日(土)12:00~★/18:00~
10月1日(日)12:00~
★…公演終了後、ポスト・パフォーマンストークを実施いたします。
*受付開始は開演の60分前、開場は30分前

チケット:  ★発売日:2023年7月29日(土)10時★

劇作家女子会。応援チケット(特典あり) ¥10,000
劇作家女子会。応援チケット(特典なし) ¥6,000
チケット(前半割) :¥4,200
チケット(一般)  :¥4,500
チケット(U24)   : ¥3,200
チケット(障がい者): ¥2,000
※身体障害者手帳・精神障害者保険福祉手帳をお持ちの方、また付き添いの方1名様までご利用頂けます。
チケット(当日券)   :¥5,000

チケット取り扱い
Confetti(カンフェティ)

※カンフェティでチケットを購入されると、無料で託児サービスをご利用いただけます。
※未就学児の方のご観劇はご遠慮くださいませ。

会場
シアター風姿花伝

〒161-0032 東京都新宿区中落合2-1-10
JR山手線「目白駅」より徒歩18分/バス6分
都営大江戸線「落合南長崎駅」より徒歩12分
西武池袋線「椎名町駅」より徒歩8分
西武新宿線「下落合駅」より徒歩10分

スタッフクレジット
ドラマターグ:オノマリコ(劇作家女子会。/趣向)
美術:角浜有香
照明:松本永(eimatsumoto Co.Ltd.)
音響:星野大輔
音楽:西井夕紀子
映像:和久井幸一
衣裳:富永美夏
演出助手:大月リコ(yoowa)
舞台監督:土居歩、松谷香穂
音響オペレーター:宮崎淳子
宣伝美術:デザイン太陽と雲
制作:植松侑子、古川真央(syuz’gen)
インターン:山尾みる
主催:劇作家女子会。 noo

本公演に関するお問い合わせ
劇作家女子会。feat. noo (制作担当:合同会社syuz'g
〒116-0013 東京都荒川区西日暮里5丁目6-10 gran+ NISHINIPPORI 6階
TEL:03-4213-4290(土・日・祝祭日を除く平日10:00~18:00) FAX:03-4333-0878
MAIL:feat.noo.mw@gmail.com

おまけ

演出の稲葉さんと。
稽古場レポを依頼した小杉美香ちゃんと。
映像キャストのKAKAZさんと。

応援・サポート、いつもありがとうございます。 気持や生活、いろいろ助かります。 サポートを頂いた方宛てに、御礼に私の推し名言をメッセージ中です。 これからも応援どうぞよろしくお願いします。