創作ノート⑤誰かが見ているということ。「今すぐ現金、そんな時(中略)、テアトルエス!」

先日無事に千秋楽を迎えた「今すぐ現金、そんな時(中略)テアトルエス!」の創作ノートも今回がラストである。
せっかくなので、千秋楽を迎えた後でないと書きにくいことを書こうと思う。

この創作ノート②で、私は今回の脚本を構成する大きな要素として「オレオレ詐欺」を選んだきっかけについて紹介した。それは『人間の条件』という公演での、ある女性のフィールドワーク発表だったのだが、その発表をした人に創作ノートを読んでもらえて、「発表当時は聞き手の反応も微妙で自分でもごちゃついていたことを、モスクワさんに受け取ってもらえて嬉しい」というようなコメントをもらった。
自分もそうだけど、彼女自身も2年前の発表がめぐりめぐって私の脚本の種になるとは思っていなかったと思う。で、奇しくもこの発表者の方に起きたようなことが、自分が本作で書きたかったことで、すごくざっくり言えば「あなたのことを誰かが見ている」ということなのだ。
その時はうまくいかなかったことでも、それを目撃した人のアクションを生むきっかけになるかもしれない。自分のことを自分で見限っているようなときでも、誰かがその人を見ているかもしれない。もし誰もいなくても、自分自身のまなざしはつねにそこにある。だから自分で自分を愛せないようなときでも、人は居住まいを正して生きていく方がよいのだろう、ということを書きたかった。

1つの作品は様々なエレメントから成立しているので、テーマがこれです、私が書きたかったことはこれです、とはっきり何かを言うことはできない。何を受け取るのかはお客様の自由だ。
だけどこの作品全体を通じて「自分に誰もいないと思うようなときでも、あなたのことを誰かが見ている」という大きな一つの言葉、メッセージになるように書いたつもりである。

劇中の外でそれが起きたことは、自分にとっても嬉しい驚きだった。私自身が、この世界から取りこぼされた言葉をすくいあげるささやかなまなざしになれたのなら、それはとても光栄なことだ。

この脚本が舞台として立ち上がるまでに注がれた、出演者スタッフ、そしてご来場いただいた大勢のお客様のまなざしにも、あらためて感謝です。
ありがとうございました!

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