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世界で最もサステナブルなレストラン、スペインの〈アスルメンディ〉を訪問してみた

レストラン界のアカデミー賞とも言われる世界ベストレストラン50には、特別賞の一つとして「サステナブルレストランアワード」という、その年に最もサステナブルだと認定されたレストランに与えられる賞があります。

その「サステナブルレストランアワード」を2014年と2018年の二度に渡って受賞したレストラン。それが、スペインのバスク地方にあるレストランAzurmendi(アスルメンディ)です。

アスルメンディ訪問

2019年2月。世界で最もサステナブルなレストランとは一体どんなものか、実際に訪れてみました。

まずは広々としたウェイティングエリアで、自家製チャコリと共に「ピクニック」と呼ばれるアミューズを。

「ピクニック」を終えると、次はキッチンに招かれます。広々としたキッチンに入ると、そこにはオーナーシェフのエネコさんがいました。今回、このレストランを訪れた目的と、現在ベトナムのPizza 4P'sで行なっているミミズコンポストなどの取り組みを説明。エネコさん自ら、ここアスルメンディでどのようなサステナブルな取り組みを行なっているかを説明してくれました。(詳細は記事の後半にまとめます)

なんと、キッチンだけで40人ほど働いているそう。しかし、雑然とした様子は一切なく、ピリッとした緊張感の中、皆がキビキビと調理を行なっていたのが印象的でした。スタンディングのまま、その場で次々と実験的なメニューが出されます。

さらにその次は通称「グリーンハウス(温室)」に通されます。ここでもスタンディングのまま、数種類のアミューズが出され、興奮が止まりません。

そして、ガラス張りの客席に移動し、ようやく着席。メニューは伝統的なバスク料理を現代風にアレンジした料理。バスクの自然や、そこから産まれる地元食材、そしてそれを作る生産者に対するリスペクトを、一品一品から感じることができる料理です。

食後に、レストラン上の畑も見せてもらいました。

畑の先には「サステナビリティセンター」があります。ガラス張りの美しい建物です。

種の保存

中に入ると、まずはアスルメンディが地元の大学と協力して、タネの保存に取り組んでいる様子を見ることができます。(ディスプレイされているのはサンプルです)

バスク地方に昔からある品種だけれども、消えつつあるタネを後世に継承することを目的にしているようで、その数はなんと、400種にも及ぶそうです。

自家菜園

奥の部屋に行くと、様々な種類のハーブや、エディブルフラワーを栽培しています。レストランで出しているエディブルフラワーは全て自分たちでここで収穫しているようです。

しかし、アスルメンディが行なっているサステナブルな活動は、種の保存や、自家菜園だけに留まりません。2019年2月時点で、アスルメンディが行なっているサステナビリティに対する取り組みを下記にまとめます。

建築としてのサステナビリティ

建物自体は2010年に建設されましたが、当時としてはかなり高額なGIPV(ガラス埋め込み型の太陽光発電システム)や蓄電池を導入し、グリーンな電力を自家発電しています。さらに、雨水をタンクに集め、野菜への水やりや、トイレの水として再利用。駐車スペースには、電気自動車のチャージングスポットも設置。店内の温度調整には、地熱エネルギーを活用。さらに、建物全体をガラスで覆うことで、できるだけ人工照明を減らし、自然光が入り込む建築デザインになっています。建物に使われている材料も可能な限り再利用された材料を選定したようです。これらの取り組みが評価され、LEED認証(シルバー)も取得しています。

ゴミに対する取り組み

レストランから出る生ゴミは堆肥化したのちに、地元のララベツ市と協力し、地元農家が果樹園の肥料として使えるようにしています。

地元生産者との信頼関係

アスルメンディは地元農家に対して、今や失われつつある品種や、忘れされれてしまった農法などを後世へ継承できるよう働きかけ、できた作物を購入することによって生産者をサポートしています。

そして何より、アスルメンディと生産者との関係性は、食後に渡される一冊の絵本から感じ取ることができます。

この絵本には、アスルメンディに食材を卸している地元の生産者たちが描かれており、いかにこのレストランと生産者との関係性が素晴らしい信頼関係に満ちたものであるかを示しています。

さらにアスルメンディでは、それぞれの生産者がレストランに食材を届けに来るのではなく、一台のトラックでそれぞれの生産者を一度に回って食材を受け取ることで、車の利用を抑える取り組みも行なっているそうです。

レストランで働くスタッフにとってのサステナビリティ

2018年の「サステナブルレストランアワード」受賞の際のインタビューで、オーナーシェフであるエネコ氏は、レストランで働く人にとってのサステナビリティについてこう語ります。

サステナビリティはエコフレンドリーなことや、植物を育てることだと考えられがちですが、実際はもっと複雑です。もちろんサステナビリティは環境と関連付けられますが、しかし同時に、人々とも関係があります。なぜなら私たち人間は、環境の一部として生きているからです。そのため、私たちはこの18か月間に、レストランで働くスタッフについての、さまざまなプロジェクトを立ち上げました。一般的に、レストランビジネスにおいては、ディナーがもっとも収益性があるため、ディナーだけ営業している、もしくはダブルシフトでランチとディナー両方営業しているレストランがほとんどです。しかし、私たちは違います。私たちは2005年のオープン当初から、ランチのみ、営業をしています。それは、ここで働くスタッフが、家族との時間や、社会的な活動を、レストランでの仕事と両立できるようにさせるためです。全てのスタッフは、朝に働き始め、午後に仕事を終え、それぞれの家に帰ることができるのです。

レストランとしてのサステナビリティ

これらの取り組みが評価され、アスルメンディは2018年の「サステナビリティレストランアワード」にて93%という高レートを獲得しています(満点は100%)。

私が実際に訪れて感じたのは、アスルメンディの取り組みは、ある意味「レストラン」という枠組みを超えてしまっているということです。飲食店が農園を持ち、ワインを作り、種の保存を行い、建築にまでこだわり、さらに全スタッフが夕方には家に帰れる。確かに素晴らしい取り組みだけれども、一般的なレストランの常識からは極端に外れすぎていて「受け入れられない」「真似できない」と思われる方も実際に多いかと思います。それでも、エネコ氏はこう語ります。

レストラン業界には、多くの革命がありました。ヌーベルキュイジーヌ、バスク料理、エル・ブリのフェランアドリア氏による革命、ノーマによるニュー・ノルディック・キュイジーヌ、そして今だれしもが「次の革命」を探しています。私は、ガストロノミー業界における次の革命は「ヒューマニズム」だと信じます。ジャーナリスト、シェフ、ウェイターなど、ガストロノミーの世界で働く私たち全員が、社会に良い影響を与えなければなりません。何故ならば、今まさにこの瞬間、全世界が私たちに目を注いでいるからです。私たちには今チャンスがあり、それを正しい方法で使わなければ、5〜10年もすればそのチャンスも失うことになるでしょう。

これからのレストランに求められるのは、美味しさや、見た目の美しさ、驚きなどだけではなく、いかに社会を良くしていけるかが大切。それこそが、エネコさんの言う、レストランとしてのヒューマニズムなのではないでしょうか?

こんにちは。ベトナムのホーチミンに住んでます。Pizza 4P'sというレストランのサステナビリティ担当です。