クラウドが安くなると、SESフリーランスが儲かる仕組み
昨日のエントリの「なぜSESフリーランスの報酬は高いのか?」は、比較対象はあくまで正社員であり、その原因を「正規雇用の構造的な仕組みによる」としていました。
今回は、フリーランスSESの価格が上昇し続けている、もう一つの原因について仮説を紹介していきます。
「風が吹けば桶屋が儲かる」という逸話は本当なのでしょうか?
はじめに、クラウドありき。
2000年代後半から始まったAWS(Amazon Web Service)を筆頭としたクラウドサービスが、またたくまにIT業界を席巻したのは、みなさんご承知の通りだと思います。
その後、2010年代中盤から徐々に「サーバーを必要なときだけ必要な分だけ使ってその分だけ払う」というサーバー資源のベストエフォート方式といえる、フルマネージドのクラウドサービスが勢いを増します。
従来、サーバー資源を調達するには、まずハードウェアを購入し、ミドルウェアを構築し、セキュリティやネットワークの設定などを専門のエンジニア達が行う必要があり、大きな初期投資が必要でした。
また運用についても、スキルを持ったエンジニアが必要なため、そのサーバを使う使わないにかかわらず、高い運用コストが発生していました。
しかし、時代は変わります。
クラウドのコスト低下がもらたしたもの
これらの歴史について語ると一冊本が書けてしまうので、本稿では
「従量課金制のクラウドサービスが現れ、年々そのコストが下がっていった」
という点にだけ注目します。
以下の表は、シングルコアCPUの時間あたりの価格の年別推移です。
引用元: What's the Best Cloud? Probably GCP / by Peter Bakkum
AWSは、そのサービス開始より毎年のように値下げを繰り返しており、クラウドサービス各社の低価格化を強力に牽引しています。
それによって、何がもたらされたのでしょうか?
既存のオンプレミスや人力運用では、高額な初期投資や高い運用フィーを必要とするため、リスクの高いビジネスは不可能でした。
しかし、SaaSやクラウドサービスの台頭により、比較的安いコストでも事業を開始できるようになったり、従来のアーキテクチャでは採算割れを起こしていた企画などが再注目されることになり、結果、各サービス事業者の参入障壁が下がり、新たなビジネスモデルが多数誕生するようになりました。
ユーザー企業が内製化へシフトしはじめる
参入障壁の低下により、従来のユーザー企業の行動も変化します。
プロダクトの製造・販売から、より付加価値の高いプロダクト&サービス、サブスクリプションビジネスへとシフトしていくようになりました。
しかしながら、ユーザー企業がいつもやっていた、SIerに外注してのソフトウエア開発は、このニーズに対して充分な効果を発揮できませんでした。
その理由は「何を作るべきか」がわからないという、混沌とした新規サービス開発においては、SIerが長年慣れ親しんできた、成果物コミット型の受託開発契約がマッチしなかったのです。
もう一つの要因は、受発注業務の手続き、大量のドキュメント作成、検品などが必要となる、従来のウォーターフォール方式では、市況の変化に開発の舵取りがついていかず、最終的には同業他社とのスピード競争に勝てないという状況が発生します。
その結果、ユーザー企業自身が、内製化の道を選ぶようになる時代となりました。
ソフトウェアと名のつくものは、すべてSIer任せだったユーザー企業が、自分たちでソリューションを開発し、それを同業他社に売り始めるという、SIerにとっては正に悪夢の始まりです。
そんなに急に人は増えない
ユーザー企業におけるエンジニアリング需要は当然転職市場に反映され、エンジニアの給与は毎年徐々にあがっていきました。(2016〜2019年IT白書あたりを参照してください)
ユーザー企業はソフトウェア開発のノウハウが無いため、現場経験が豊富で、最新のクラウド&フロントエンド技術に精通した人材をリードエンジニアとして強く求めるようになります。
元々SIerに何億と発注する企業ですから、お金はあるんですね。
ただしそのニーズは、クラウド系インフラ、Webフロントエンド、スマートフォンアプリケーションなど、どれも歴史の浅い技術を持ったエンジニアに偏っていました。
SIerはすでに期待できません。では、SES専業企業はどうでしょうか?
残念ながら、SESerのビジネスは基本的にスキル塩漬けでも回るようになっている構造だったため、ある日突然、トレンド技術で実装を行えと言ってもそうそう対応できるものではありません。
それでなくても、すでにピチピチにスケジュールを組むのが良しとされる状況で、軽々にスキルコンバートのために現場から人を抜いて研修に放り込むなどという芸当は早々できるものではなりません。
「外から調達できて、今すぐ働いてくれて、最新のスキルもすでに備えてる人が必要だ...」
いやいや、世の中にそんな都合の良い人が...いるじゃないですか。
急激な需要に応えるのはだれか?
そこで注目を浴びるのは、「尻の極めて軽い」SESフリーランス達です。
SESフリーランスは、その生態から常にトレンド技術を抑えられる環境にいる人が多く、この突然のニーズ増加にぴったりマッチしました。
ざっくりというと、2016年あたりからこれらのSES案件の価格上昇は上がり続けており、現在も高騰状態が続いています。
受託系の案件では価格が以前のまま据え置きですが、サブスクリプション型、サービス型の事業者による求人はかなりの高額を提示していますので、二極化してるように見受けられます。
案件のビジネスモデルがどちらなのかで、はっきり価格帯が別れていますので眺めてみるのも面白いでしょう。
さて、あなたはこの仮説、本当だと思いますか?
次回
もう少しデータを集めたかったのですが、概論にしかヒットせず、今回は仮説と推測が入り混じっていますので、そのまま鵜呑みにはしないほうが良いと思います
信憑性のある統計が手に入ったら、あらためてご紹介したいと思います。
次回予告はほとんど嘘っぱちになりつつありますが、空気も読まずにフリーランスSESネタを続けます。
次回は
「大手企業のバックドア〜SESフリーランスが求められるもう一つの理由」
あたりをお話したいと思います。
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