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フリーランスのエンジニアという言葉の謎

Tech Blogじゃないものを書きたくなったのだけど、手頃なプラットフォームを思いつかなかったのでnote始めてみます。いつまで続くかわからんけど。

最初のお題は「フリーランス」という言葉の意味離散具合について、常々思っていること。

とはいえフリーランス全体を語るのは含意が広すぎて尚更意味がわからないので「フリーランスのエンジニア」に範囲を絞ります。

SNS上の解釈

SNSで散見される意見、というか「フリーランスのエンジニア」がどのように認識されているかというと、曰く

・フリーランスは収入が安定しない
・フリーランスはチームプレイができない
・フリーランスは自由な働き方ができる
・フリーランスはがんばった分だけ稼げる

という話が見受けられます。

はたして本当でしょうか?

その前に、「フリーランスのエンジニア」とはいったい何を指しているのかを探っていきます。

受託開発フリーランス

「よくSNS上で語られるフリーランスのエンジニア」ですが、漠然と
「受託開発フリーランス」
の事を指しているように見受けられます。

受託開発というのは、IT関連産業においては非常にメジャーな業態で、ざっくり言えば「ソフトウェアシステムの製造(SI)」を欲した企業が、自社で製造することができないソフトウェアを、それらを得意とするSIer(システムインテグレーター)にまるっと投げて「ソフトウェアシステムを製造してもらう」というものです。

このSIを開発を一括で請負う会社を通称SIerといい、個人から一部上場まで幅広いスケールの需要に応えられる、巨大なエコシステムが日々活動しています。

SNS上でよく使われる「フリーランスのエンジニア」は、この「SIの末端における個人での受託開発を請負う業態」に限定して解釈されているようです。

この業態の個人事業主は、自ら営業を行い、企画を行い、設計し、実装し、テストし、リリースし、時には運用までこなします。これらの作業を「業務委託」という契約で行います。

「フリーランスのエンジニア」という単語の1つ目の誤解は「受託開発フリーランス以外の業態もある」という点です。

SESフリーランス

「実態としてよくあるフリーランスのエンジニア」として、実はもう一つのメジャーな業態があります。それが通称「SESフリーランス」です。

SESフリーランスは雑に言うと
毎月160時間前後の技能労働を提供する事で、固定報酬をもらう業態
です。

残念なことにSESという単語は、人売り商売、すなわちSESerが嫌いな雇用者/被雇用者の人々が、たっぷりの憎悪を込めてその実態をぶちまけたせいで、SNS上では忌み嫌われる言葉として扱われています。

ただ、SESの意味を理解している人はあんまりいないようでして、SESとは「準委任契約」という「技能労働がほしい企業」と「提供する側」の契約形態を意味しているにすぎません。

しかしながら、SESという単語はSNS上では暗黙的に「SESerに雇用される正社員が(大抵はろくでもない)客先に常駐する業態」を指す言葉になっています。

また一つの不幸な誤解がここにあります。
つまり「SESでやってくるのは正社員とは限らない」という事です。

不思議なことに、「フリーランスのエンジニア」というと、語源的にSESの方が近いのですが、SNS上では、この業態について全く無視した記事やTweetなどが大量に存在します。

他にもあるけれど

フリーランスのエンジニアのマネタイズにはこれ以外にも色々な方法があるのですが、一つ一つについて上げていくときりがないので、一旦は大別してSESと受託開発という2つの業態にフォーカスして話を続けていきます。

2つの業態の実態

実態として、受託開発フリーランスは、(小さな)受託開発の企業を経営するのとほとんど変わりません。信用や税制上の違いは大きいですが、開発業務とその付帯作業に限って言えば、ほぼ同じ知識、同じ作業、同じスキルを要求されるでしょう。

そしてSESフリーランスの方も、実態としては、正社員のエンジニアと業務はほとんど変わりません。
報酬の支給方法、福利厚生、研修の有無などに大きな違いがありますが、業務における要求スキルと作業内容は、正社員とほぼ同じ現場が多いです。

では「SESフリーランスと受託開発フリーランスの大きな差」はなにか?というと...

・SESは毎月固定額が入ってくる
・SESは開発以外の付帯作業がほとんどない(営業、折衝、契約、納品等)
・SESは長時間の時間拘束が発生する

あたりでしょうか。

やはりいちばん大きいのは営業、契約、折衝などの業務から開放されることで、これらは当然ながら高いソフトスキルを要求されるため、開発業務に集中したいエンジニアはSESの方が向いている、という事になります。

最初の話に戻ると

では「フリーランスのエンジニア」の通説について解説していきます。

フリーランスは不安定

本当でもあるし、嘘でもあります。それは業態によるからです。

受託開発フリーランスにおいては、正しいです。なぜなら納品するまでお金が入ってこないので、長いプロジェクトだと入金まで半年ということさえあります。

逆に、SESフリーランスは毎月固定額が入ってくるので、不安定であるとは言い難いでしょう。ただし、その契約期間は1ヶ月〜3ヶ月であることが多く、その単位で契約を解除される事がままあります。正確には"延長しない"という選択を企業がするだけですが。

したがって、プロジェクト終了や開発ステージの変化により人員の再構成が行われる点では不安定である、とも言えます。ただ、実態としてはそれとなく数ヶ月前には通達されることがほとんどですし、次の現場を探せば良いとも言えるので「来月から働く場所がない」というケースはあまりありません...というか、そのケースは、あなたのスキルか経歴に不足があるためでフリーランスをその原因にするのはいささか強弁でしょう。
外資であったら正社員でもクビになってるということなので。

フリーランスはチームプレイができない

これは全く意味不明です。受託開発でさえ本当にたった一人でやる事は稀で、お客様との連携はかかせません。ましてや自分でさらに外注することもあります。

SESの場合でも、たいていはチームに所属するケースが多いので、当然チームワークは要求されます。会社の隅っこで一人でひたすらコーディングするという働き方も無いとはいいませんが、あまり聞いたことはありません。

フリーランスは自由な働き方ができる

受託開発フリーランスにおいては真実でしょう。ただしSNSで監視されているケースも結構あるので、進捗が遅れているのに遊んでいるのを観測されると文句を言われる事があります。

SESフリーランスにおいては、完璧に嘘です。週5フルコミットならば、普通の会社員と変わりませんので。ただし、契約によっては週3や、出社時間について調整が可能なので、就業規則に縛られる正社員よりはある程度は弾力的に運用可能ですが、完全に好きなときに働くというのは現実的には難しいでしょう。

フリーランスはがんばった分だけ稼げる

受託開発フリーランスであれば、まったく妥当か見解でしょう。

しかしながらSESフリーランスにおいては、その通りではありません。

通常SESでは140時間〜180時間といった稼働範囲というものがあり、この範囲内おいては一定額が支給される仕組みになっています。下限を割れば当然減額されますし、上限を超えれば超過手当が出ます。

現実には上限に近づくと、稼働調整という名の「出社を見合わせるお願い」という奴が通知され、リリース寸前でもないかぎりは範囲内に収まるような仕組みだったりします。

したがって、最も時給が高くなるのは下限ギリギリの範囲内ということになり「がんばった分だけ稼げる」というには無理があるところです。

総括

以上を踏まえて、あなたが今後「フリーランスのエンジニア」という単語を発するときは、「受託開発フリーランス」なのか「SESフリーランス」なのか、はたまたその間にある「何か」なのか、をきちんと理解して話せるようになることを願ってやみません。

次回に向けて

次回は、あまり知られてないSESフリーランスの実態や、その高い報酬の理由について深堀りしていきたいと思います。

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