貫け、海神ポセイドン(3LDK)
当作は800字以内に小説の書き出しを凝縮するプラクティスで書かれたものです。
ガキの頃から疑問だったのは、どうしてマンションってのは仰々しい名前を付けるのか、ってことだ。だが今なら分かる。オーナー連中はこういう時代が来るのを見越してたんだ。丸く限られた視界の先、宙を舞う二棟のマンション『グランフェニックス奥山手』『岳本荘』の高度差を見れば、名称強度の差は歴然としている。
「状況を報告せよ!」
艦長の張りのある声が、自治会室の緊張を切り裂いた。
「ハッ! 二棟が交戦中! 戦力の差は圧倒的です!」
「名称タイプは!」
「上方がカタカナ、下方が漢字であります!」
役員たちがどよめき立つ。
「艦長! まさか”手付かず”では!?」
303号室の池田さんが尋ねた。
「ウム。可能性は高い」
マドロスの下に鋭い眼光を光らせ、爺ちゃんは頷いた。最高齢ゆえに押し付けられた艦長職は、今やすっかり貫禄を得ている。自分をヤマトだかガンダムだかの艦長キャラと混同し始めたのは問題だが、決断力がついたので特に問題ではない。
「おお…!」
「すぐにプラントの制圧を!」
「ならぬ。求めるのはあくまで協力まで。タワマン連中の同類になりたいか?」
浮き足立つ場を艦長は戒める。
プラント。全てのマンションが持つ無限生産施設。生産物は建物名に左右され、漢字名称は食糧を生み出す可能性が高い。それは9割を海に覆われた地球での最重要資源だ。だが、裏を返せば彼らは武器を作れない。
「ですが…」
「雄太准尉! 攻撃部隊に通達。『不死鳥を墜とす』とな!」
「ハッ!」
俺は即座に命令を通達。マンション中から鬨の声が響く!
「無茶です、それに割に合いません!」
ハープン・ガンを装填しながら西崎さんが嘆いた。
「同じ人間として棟賊連中を見過ごせん。皆も同じ気持ちだ。…駆動部隊に通達! 奇襲を仕掛ける!」
「ハッ! 駆動部隊に通達! 『ポセイドンコート柿山町』浮上せよ!」
号令の刹那、轟音が海中を切り裂く! 鯨の群れが我先にと逃げていく! 海神は今、浮上する!
【続く】
それは誇りとなり、乾いた大地に穴を穿ち、泉に創作エネルギーとかが湧く……そんな言い伝えがあります。