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ウリセン編44 あたいと、未成年でゲイ風俗の面接に来た男の子



『ーーもしもし、もちぎ、仕事終わりに悪い。東交差点のとこまで行って《お迎え》してもらえるか? 面接希望の子だけど、土地勘無いみたいでな』

ある日、あたいがゲイ風俗の出張指名を終えて新宿まで帰ってくると、ちょうど店長から電話が入った。

帰ってくる途中に面接希望の男の子を拾ってこいとのことだった。

ゲイ風俗(ウリセン)はとかく人の入れ替わりが激しく、また、面接希望の人間も後を絶たない。

渡り鳥(他店ゲイ風俗からの移籍)も多いが、初めてゲイ風俗に入店するゲイや、そもそも男性経験が無いノンケなんかも中々に訪れる。だけど内部の実情や研修を知った時点で辞退してしまう者も少なく無いので、とにかく面接は頻繁に受け入れて行うのだ。

あたいは待ち合わせ場所に向かった。

するとそこにはーー


「あれ? あなたが面接希望の子かしら?」


「あ、はい!」


どう見ても中学生くらいの男の子がいた。
あどけない表情で、ギュッとチノパンを握りしめていたけど、服装も背格好も確実に15歳くらいだ。なにより無垢な少年らしい顔は、明らかにゲイ風俗のアルバムに載せられない子どものモノで。

あたいは即刻、問い質した。

「お兄さん、いくつかしら……? あたいらの店、なにか知ってるの? 大丈夫?」

「あー、えーと、」
と彼は言葉を濁し、そして財布から保険証を取り出す。

「22歳……あたいの一つ下……?」

いやでも童顔ってわけじゃ無いでしょ。お兄ちゃんか誰かの保険証だろう。そもそもゲイ風俗では顔写真入りの身分証明書が無いと在籍できない。あたいは質問を重ねた。

「お兄さん、干支は? 教えてもらってもいい?」

すると彼は黙って俯いた。
間違いない、未成年だ。

あたいはそのまま帰らせようかと思ったけど、事情や状況が特殊なだけにせめて駅まで送っていこうと一緒に行くことにした。


「……それで、なんで中学生がこんなところに来ようとしたの?」

「高校生二年生です」

二人でのんびりと歩きながら、ぼちぼちと話す。
彼は17歳で、東京の高校生だと分かった。

「誰かに言ったりしますか? 僕、補導されたりします?」

彼は心配そうに聞いてくる。

「言わないわよ。なにかもかも未遂だし、入ろうかなって思っただけでしょ? あたいはただの従業員だから、あんたを警察に突き出したりしないよ。ちゃんとお家に帰るか見届けるだけ、安心してね」

するとホッとした表情で彼は歩を進める。
恐らくとんでもなく緊張してて、意を決してこの場に訪れたんだろう。それだけゲイ風俗で働きたい事情や理由があったのかもしれない。
例えば昔のあたいのような経済的束縛がある家庭環境だったりーーそういうのに似たものかもしれない。

話を聞いて、代替案をいっしょに考えたいと思った。こんな決断に出くわしてしまったあたいのせめてもの責任だと感じたからだ。

「なんでゲイ風俗に入ろうとしたの? お金?」

「はい。お金、お金です。どうしても高校在学中にお金貯めたくて」

「……そこまでして貯める必要って、なにかあったの?」

「……家出たいんです。自分の家が嫌いなんで……」

彼はすっかり目を伏せてしまったので、あたいはコンビニでジュースを買って二人で飲みながら歩くことにした。


「ーー俺の家、一人部屋が無いんです。お兄ちゃんと部屋が一緒で、しかもその部屋も父親の仕事部屋に棚を置いて作っただけなんで、音は丸聞こえなんです。すごいそれが嫌で……」

なんとなく彼の気持ちは分かった。
あたいも一人部屋の無い団地に住んでいて、かなり苦しかった。ずっと親と顔を合わせるのもしんどいし、なによりプライバシーが筒抜けで、ゲイ関連の物が置くことができなくて窮屈だった。

まだ彼のセクシュアリティは聞いてないが、ゲイ風俗を見つけて面接にこぎ着ける子だから、もしかしたら同じような悩みなのかもしれない、と邪推だけど考えた。

「……親元を離れたいとは、話したの?」

「言ってない。だって根掘り葉掘り聞かれますもん……」

その事情もよく分かる。親御さんというのは子どもを心配するものだし、ただ理由もなく一人暮らししたいと言うのなら(ましてや都市部だと)心配になるだろう。

「もし、このお店に入ってお金稼げてたら、どうするつもりだったの?」

あたいが聞くと、少し考えてから彼は、

「高校卒業したら家出して、保証人がいらないところ借りて、生活してけばなんとかなるかなって。東京の大学ならどこでもいいし、どっか大人になってから行けばいいや、って思ったんです」

あたいと同じようなプランだった。
当時あたいはその道筋をなんとか運良く通れて、大学に在学中だったけど、でもあたいはどうしても彼の意向には賛同しかねた。

「……あたいも同じような考えで東京に来て、ネットで見つけたオトコの家に泊まったり、ゲイ風俗の寮に入ったり、お客様の名義でアパートを借りたりして、今は大学生になったわ。でもね、本当に大変だったしこれを参考にしないでほしいの。運が良かっただけで、人には勧められない生き方だと感じてるの。特に未成年のうちは、いろんな人に迷惑をかける。
あたいは親がそれでもいいから決別することを許して、あたいを見放してくれたけど、事情や思いを聞き出そうとしてくれる親御さんなら、そうはいかないと思うわ」

彼はそうですよね……っと呟く。実際、彼も親御さんとそう簡単に離れられるとは思っては無かったんだろう。だんだんと冷静になっていく彼に、あたいは口を開く。

「気持ちは分かる。でもその為に、なにかしら長いこと我慢しなきゃならない道を選ぶなら、もう少しだけ逸(はや)らずに考えてみない? 18歳になって、本当に行きたい大学に行って、それからでも家を出たりもできるし」

「……本当に行きたい大学、近所なんです。でも、そうすればますます家を出る理由が無くなっちゃう……」

「あらま……。うーん、そしたら4年間、家にいることになっちゃうもんね……」

あたいは頭を抱えた。確かに八方塞がりというか、家を性急に出たい彼にとって辛い二者択一だと思う。

「でもね、やっぱりそれでも我慢の期間だと考えて在学し続けるか、説得を上手くやって近場でもいいから一人暮らしするか、まだ選択できると思うわ。今からバイトで少しだけでもお金を貯めて、ちゃんと受験勉強して奨学金と掛け合わせれば、上手くやれば大学一年……いや二年とかからでも余裕持って一人暮らしできるかもしれないわよ。そこらへんちゃんとお金と計算とかして、勉強も半端なく頑張れば、こうやってここまで来れる強い意志のあるアンタならできると思うの。1、2年は苦しい期間になるだろうけど……」

するとそんな説得するあたいを差し置いて、彼は諦めのような表情で笑った。

「ほんとはゲイ風俗で働くの、嫌だったんです。ちゃんと好きな人とエッチしたかったから……」

「あらやっぱりそうだったの……」

でもこうするしかもう道は無いんだ……って自暴自棄になって来ました。今日は止められてよかったかもしんないです」

気づけば新宿駅まで戻って来ていた。
でも彼はもうウリセンのある街に戻ってこないような、そんなスッキリとした表情をしていた。


「おばさんが、相談乗ってくれたおかげです。ちょっと頭冷やして、もう少しだけ親と話し合ってみます」

「……うん」

おばさんって言ったな……。
あたいがオカマ口調だからか、ナチュラルにおばさんって言ったな。

ていうか6つほど年齢が違うと10代からはもう年寄り扱いなのかな……ちょっとビックリ……。

初めて受けた年寄り扱いに驚きながら、ふと顔を上げると彼はもう改札をくぐって駅に溶けていった。

若い頃はまだ何も知らない。だからそんな子どもを導くのは、少し先に生まれた人間なんだなって思ったわ。

そしてもし次会った時、またあたいをおばさんって言ったらほっぺた引っぱたこう。そう強く思った。



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今ならあたいの投げキッス付きよ👄

やるじゃない👄
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もちぎ

I’m Motigi. ゲイ風俗である売り専(ウリセン)という業界で色々やってきた人。ゲイバーの話も書いてます。 ■ブログは基本的にはどこから読んでも大丈夫なようになってます。一つ一つのタイトルテーマで完結してます。

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