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関係性とかジェンダーとかの話。たまに小説を書く。

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[小説]人肉食が当たり前のどこかの世界

「あのー、すいません、アカチの漬物ってまだあります?」 がやがやとした店内で背筋を伸ばして店員に声をかけると、白くてなまめかしい首をぐりんと回して、つやっとした黄色の猫目が振り返った。 「ごめんなさい、もう今日は無いんですよ」 申し訳なさそうに3つ目の腕をうねうねさせて、店員が謝る。あらら、と私は残念な心持ちで席に向き直ると、友人に「アカチって何なの?」と聞かれた。 「知らない?人間の幼児を漬けたやつ。大人の肉より断然柔らかくて美味しいんだよ。ちょっと珍しいから見かけ

    • 2023/12/13(金) 家族のパロディ

      玄関に、私が描いた絵が飾られている。友人と一緒にクリスマスツリーを模したチープで可愛らしいオブジェを買って、それも一緒に飾ってある。ドアにはクリスマスリースも引っかけて、まるで暖かい家庭のようだ。私も友人もこんな家は知らないから、非実在の、家族のパロディ。 休日に、ケーキを買って帰って紅茶を入れて、夜に団欒をする。「こんな時間を"些細な幸せ"と表す人がいるなんて信じられない」とこぼすと、「本当にそうだよね」と友人が頷く。「なんてことのない時間」を人と過ごす難しさを知らないの

      • 1/20(金) 2人分のリビルド

        知り合って3年ほど経つが、友人の家に初めて訪れる。親密圏の再構築を行おうとする自分の試みはおそらく特殊で、惹かれる気持ちに反するように、彼の人生に立ち寄るのを躊躇してもいた。「自分が暮らしている街をあなたが歩いているなんて不思議な気持ちだ」と言われたが私も重ねた月日を感じ、過去の自分に語りかけたくなってしまう。 絶対に良い人だから、絶対に良い人に愛されてほしくて、私のような人間は彼に踏み込まないと決めていた。彼を愛する人が現れたら手放しで祝福したい。だけどその人が彼をさらっ

        • [小説]問題のないお付き合い Part.2

          *Part.1* 「ほんっっとに男ってバカ!!」 どすどすと激しい足音に続いて、ばん!とリビングへ通じる扉が開けられた。それと同時に、怒鳴る彼女の声が響いて私は身構えた。 ソファに寝そべりながらスマホをいじっているが、頭の中身はフル回転していて、次に彼女が何を言うか身構えている。 平静さを装うように、できるだけ自然な声で、「何かあったのー?」と間伸びさせて聞いた。火に油を注ぐことのないように、慎重に。 「古いルールに固執してほんと意味ない!!自分のプライド守ることばっ

        [小説]人肉食が当たり前のどこかの世界

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        記事

          10/10(日) 2年越しのハプバーへ/"重要な他者"のパートナー

          「ずいぶん前に行こうって言ってたハプバーってどこだったっけ?」 週末、真面目にモノガミー交際をしているはずの友人から珍しい連絡がきた。 たしかに2年前、友人にモノガミーの恋人ができる前の時期、ハプバーに一緒に行ってみよう、という話をしていた。ハプバー界隈に慣れている知人がちょうど遊びに来ていたので、ガイドしてもらう予定だったのだ。その時は忌まわしき仕事のせいで全くあがれず、予定も流れてしまったのだけど。 お店を伝えつつ、「恋人は大丈夫なの?」と確認した。「説得して、1回

          10/10(日) 2年越しのハプバーへ/"重要な他者"のパートナー

          9/30(金)Tinderの男と川沿いを歩く

          Tinderをやっている。 それは2年に1回くらいの周期でやってくる。まあ大体は直近の別れが関係しているのだが。何かこういう言い方をすると「誰でもいいから寂しくて」という風に取られがちだが(その原動力自体は何の悪でもないはずだが、なぜだか人は愉快そうに・侮蔑的にその言い回しをつかう)、理由はだいたいいつも複合的で、今回は「仕事の話」「自己紹介の訓練」「市場調査」「ポリ猗窩座」などを主軸にしていた。 「ポリ猗窩座」は友人との会話で生まれた単語だが、『鬼滅の刃』で鬼の猗窩座が見

          9/30(金)Tinderの男と川沿いを歩く

          7/19(火) 部屋に「侵入」されるとき-悪夢と親密さ

          10代から20代にかけて、週に一度は見ていた悪夢がある。 自分が家の中で1人過ごしていると、強盗だったり、ストーカーだったり、ゾンビや幽霊といった人型の怪異が、外から勝手に侵入してきてしまうのだ。 深夜自分の部屋で目が覚めて、鍵を閉めているはずの玄関から「ガチャリ」とドアが開く音がする。 街にゾンビが大量発生してしまって、「この家の扉や窓を全部閉めなきゃ」とわかっているのに、あと一歩のところで間に合わず、ゾンビたちが入ってきてしまう。 居間でくつろいでいるといつの間にか知

          7/19(火) 部屋に「侵入」されるとき-悪夢と親密さ

          3/19(土)これは私の話だ/内田春菊『ファザーファッカー』

          「これは私の話だ、と思った小説はあるか」という話題になったことがある。 小説はそれなりに読んでいるはずなのにその場で私だけ答えられず、皆に相槌を打つばかりだったのを引きずっていて、たまに考えていたのだけど突然思い出した。 内田春菊の『ファザーファッカー』だ。 共感したというには私のほうがおそらく格段にぬるい環境だったけど、秩序を乱す原因は私にあるとされていて、家のなかで「私の噂」が飛びかう感じが似ていた。 それに家にいるとき私はよく、父または母の恋人になっている夢を見て

          3/19(土)これは私の話だ/内田春菊『ファザーファッカー』

          1/3(月) 新木場ageHaで年越しを

          2020年の年末もひどかったが2021年の年末もひどかった。 11月も12月もその後の予定を諦めなければならないようなトラブルが仕事で頻発し、24時過ぎまでパソコンにかじりつく。 新しく入ってきた後輩が「覚えることが大量すぎて難しい、差し込みで入ってくるタスクも多すぎる。どうやって捌いたらいいんですか?」と聞いてきたけどやさぐれすぎて、「私もずっと気が狂いそうだからわからない」と答えてしまった。 2021年こそ落ち着くはずだったのに、いや2020年よりも随分マシにはなった

          1/3(月) 新木場ageHaで年越しを

          10/2(土) 人間関係決算期/「でも特別な人でしょ?」

          先月は散々な一カ月だった。 仲良くしていた友人にトラブルが起き、私の失言により徹底的に嫌われてしまった。別の友人からも距離を置かれてしまって、親しくなりたいと思った人には踏み込みすぎた。 9月だったから決算期だったのかもしれない。 私のすべてが人を「そう」させるのかなと思って、随分前に気まずい別れ方をした人に「人の地雷を三連発で踏んだから、私の改善点も三つあげてくれない?」と連絡する。久しぶりの連絡だけど。 「検証を完了させた後に話し合いに臨む癖があり、強情な姿勢になり

          10/2(土) 人間関係決算期/「でも特別な人でしょ?」

          5/30(日) タトゥーは神秘の三角形

          人生で初めてタトゥーを入れた。 「一生もの」と言われるそれを、本当は10代の頃からずっと興味があったのだが寝かせていた。「後戻りできなくなる」のだから、よっぽどのことなのだから、慎重に考えなきゃと。 そう話すと彫り師は笑って、「このサイズなら正直すぐ消せるから」と言った。ちゃんとタトゥー経験者に聞いた方が良いよ。やったことない人に相談したって、想像で不安なこと言うだけでしょう、と。 もう何度も似たようなやりとりが過去にあったのだろう。タトゥーを入れていない人の集まり、から

          5/30(日) タトゥーは神秘の三角形

          5/4(火) 苺のタルトと友人のキックボード

          出張販売なのか、小さなブースでキッシュとタルトが売られていた。 キッシュは好きなのだが取り扱う店はそう多くなく、見かけたら買うようにしている。レジで会計しようとしたが、その隣の苺のタルトに目を奪われる。飴細工のように光るそれを、ここ数年口にしていなかったかも、と思い出す。だけど商品はホールか2分の1のハーフサイズしかなく、一人ではとても食べきれなさそうだ。 「何時まで売ってます?」と質問して、「20時まで」と教えてもらった。先に必需品の買い物を済ませてその間に考えよう。ア

          5/4(火) 苺のタルトと友人のキックボード

          3/21(日) シンエヴァを観るー回復、対話、パートナシップ

          シン・エヴァンゲリオン劇場版を観てきた。この映画の感想を語るには自身のエヴァ史が必須になってくるようだが、何を隠そうアラサーにして、エヴァと私との出会いはたった2年前である。(!) オタク歴は長く、漫画アニメにはどっぷりと浸かってきたが、「名作とされてはいるが何となく避けている作品」というものが、誰しにも一つや二つはあるだろう。私にとってはそれが「エヴァンゲリオン」シリーズであった。 月額の動画サービスに加入したタイミングと長期的な休みが重なり、重い腰を上げて「いい加減エ

          3/21(日) シンエヴァを観るー回復、対話、パートナシップ

          2/14(日) ピーチオンザビーチノーエスケープ、私たちは消された展ー女体と私について

          土曜、友人に誘われて「ピーチオンザビーチノーエスケープ」という舞台を観に行った。 ビーチ、と名付けられた部屋でコスプレをした女たちがすし詰めになって暮らしている。その女たちはたった一人の男の存在が「すべて」で、男とのセックス(または暴力)を求めて競ったり、励まし合って連帯する。 女たちが集まって喋る様子はカラッと陽気だけれど、根底には何か薄暗いものが張り付いている。小さな穴がぽつぽつと開くように侵食されて、やがて黒い液体に頭まで浸かってしまう。そんな舞台だった。 日曜は

          2/14(日) ピーチオンザビーチノーエスケープ、私たちは消された展ー女体と私について

          12/29(火)掴まれる喉―ゲシュタルトセラピーと身体感覚

          とにかく私は『キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』(田房永子)を愛読している。2カ月に1回くらいは読み返している気がする。 そして何度も「ああ、わかる」と「でも自分は治ってきたかも」と「今のままじゃ、いやだ」をぐるぐると繰り返している。読み返すたびに新しい発見をしてはツイートし、田房永子氏の最新刊や新連載をまだかまだかと心待ちにしてしまう。 作中ではゲシュタルトセラピーを受ける描写があり、私はいつもそれを見て心底「いいなあ」と思ってしまう。ゲシュタルトセ

          12/29(火)掴まれる喉―ゲシュタルトセラピーと身体感覚

          12/27(日) 子どもが子どもであるためにー『呪術廻戦』のすすめ

          終わらない仕事が嫌すぎて、残業時間は動画を観ることに決めていた。 せっかくだから話題になっているものを、と『呪術廻戦』を最新話まで視聴したが、ずいぶんこの作品を気に入ってしまい、原作も最新刊まで購入してしまった。 作品のあらすじとしては、「呪い」が人を殺す世界で、事件に巻き込まれた主人公・虎杖(いたどり)が自身も「呪い」の力を身につけて戦っていく…というダークファンタジーで、王道の少年漫画だ。 迫力のあるバトルシーンや虎杖の真っ直ぐなキャラクター、五条(ごじょう)先生の

          12/27(日) 子どもが子どもであるためにー『呪術廻戦』のすすめ