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宝塚BOYSで見た百名ヒロキさんの話

2018年8月4日(土)~8月11日(土) 東京芸術劇場 プレイハウス
演出:鈴木裕美
○team SEA
良知 真次、藤岡 正明、上山 竜治、木内 健人、
百名 ヒロキ、石井 一彰、東山 義久
愛華 みれ、山西 惇
※敬称略

正直なところ、気持ちは7割ほどタイタニックに向かって行っているのだけれども(いやだってありがたいことに次々仕事来るし…)それでもこの平成最後の夏の記録は残しておかねばなるまいと。

最初に出演情報が解禁された時、何と言っても良知さんと共演することに本当に驚いた。私は良知さんのジャニーズ時代を知らないけれど、私が全幅の信頼を置くジャニヲタ兼ミュヲタの友達の過去の担当だということは前から聞いていたし、いわゆる「辞めジュ」の中でも芸能の世界で数少ない成功を収めている人であることも知っていたし。まさに”レジェンド”である。
他のSEAのキャストは藤岡さんと東山さん以外の方のことは知らなかったが、少し調べたらミュージカル界ですでに経験を積んでいる方々であることはすぐに分かった。
しかしこの舞台、Wキャストではなく2チーム制という独特の体制になっていて、なぜ百名さんが若手俳優で固めたSKYではなく経験者の集まるSEAに1人突っ込まれているのか、という声も見かけた。

その例の友人に宝塚BOYSという演目と演出の鈴木裕美さんはどちらも評価が高く人気がある、ということを聞いて、そんな作品に出ることが出来て本当に良かったなと思ったのだけれども、稽古が始まって少しずつ様子が伝わって来る度、あぁ百名さんはまた厳しい道を歩いているのだなぁと思った。
SKYの若人たちはSEAのメンバーを「お兄さん達」と呼び、頼りにして慕っている様子がよく分かったが、決して俳優のキャリアとしては上でもない百名さんは一体どういう立場に置かれながら稽古をしているのだろうと。
それでも不徳の伴侶で明確に何かが変わったことは確信していたし、きっと何とかして来るだろうと思っていたけれど。

初日が終わって。
意外にも、あまり百名さん個人に対する感想があれこれ浮かんで来なかった。それよりも宝塚BOYSのストーリーの重みがずしんと来ていたし、劇場であんなに泣いたのは初めてだったと思う。
千秋楽が寂しいとかそういう周りの状況に引っ張られる涙ではなく、純粋にあのお話に引き込まれていたし、劇場でお芝居を見ているというよりももっとリアルなドキュメンタリーを見ているかのような。リアルタイムでそこに居合わせたかのような。
これは今までに無い感覚だった。
今までの彼の舞台の初日を見た感想を少し振り返ってみると、
終わらない世界(これは自分的初日だけど)→かわいかった~
GANTZ→思ってたよりも凄く立派な座長だった
マタ・ハリ→顔が綺麗!
不徳の伴侶→美!!!狂気!!!
まぁなんと底が浅いのだろうw

宝塚BOYSは実話を元にしている分、他の作品よりもリアル感があるのは当然のことだと思うのだけれども、百名ヒロキさんは最初から最後まで竹田幹夫ちゃんだった。
最後のレビューについては彼がジャニーズだった時代の幻影がもしかして私の目にも見えるかな?と少しばかりの期待と不安のようなものがあったのだけれども、皆無だった。踊っているのは百名さんでなければ仲田くんでもない、竹田幹夫ちゃんだと少なくとも私は思った。
もちろん他の人の感想を見れば、プレゾンっぽいという声はあちこちから聞こえて来たし、私も少年隊のプレゾンは見たことがあるし(キスマイのはちょっと毛色が違うので別として)他にもジャニヲタの経験としてあの階段には既視感があったけれども。いつもああいう場所で最後は白衣装で踊るよねw

「演じる」のではなく「生きる」のだ、というのは俳優さんがよく言っているのを見かけるけれども、それはきっとこういうことなんだろうと思った。百名さんは確かに竹田幹夫ちゃんの人生をあの舞台の上で生きていた。
だから初日が終わっても顔がどうだとか、頑張ってたねとかそういう感想は第一に出て来なかったんだろうなぁと。
とにかくあの竹田幹夫ちゃんの役がぴったり合い過ぎていた。
あまりに合い過ぎていて当て書きなのかと思ったほど。戯曲を読んだら新人でモテ男という設定は最初からそうなのだと分かって驚いた。
なのにあのぴったり感。まるで百名さんが演じることをずっと待っていたかのような役ではないか!
元々ミュージカルが好きなので興奮度としては不徳の伴侶の方が高かった気がするが、初日を見終わった後の達成感みたいなものは今までで1番だった。
百名さんがいつかのブログで、「今までとは違う新しい何かを掴もうとしている」というようなことを書いていたが、それはこのことだったのだろうか。役づくりするのではなく、役を生きるというか。

ただ普通のファンなら1~2回を楽しんで見るところをそこはヲタクなので全通してしまった私は、やはりどうしても、凄く良かった!いいお芝居だった!だけで終われないのであった。

幹夫ちゃんが何度か口にする「運がいいとか悪いとか…」のくだり。あれがどうしてもしっくり来なかった。
ピンスポが当たって独白する場面はさほど気にならなかったが、最後の稽古場のシーンで「運がいいとか悪いとか、思いたくない!」のところが唐突な気がした。でももしかしたら、誰が言っても唐突なのかもしれない。脚本に問題があるのかもしれないけど。
他にしっくり来なかったのは劇中劇前の「これって大問題じゃないですか!」と、こーちゃんのお祖母さんの話にツッコミを入れる「じゃあいいんじゃないですか!?泣くことはないんじゃないですか!?」のところ。
しっくり来ないと言っても、じゃあどういう風に言ったらいいのかっていうのは私には分からない。だからただの勝手な感想なんだけれども。
ただ何となく思ったのは、誰かとの会話の流れの中のお芝居は自然に出来るけれども、自分がきっかけとなってその場を動かすような台詞が難しいのかなぁと。
あと、こーちゃんのお祖母さんの話はこれはお笑いで言ったらこーちゃんがボケで幹夫ちゃんがツッコミな訳で、ここは芝居で笑いを取ることの難しさをひしひしと感じた。

逆に私が好きだなぁと思ったのは、星野さんに身の上をあれこれ尋ねられるところ。
(戦死か?)
「分かりません。何の連絡もありません」
(家は?)
「焼けました、借家でしたが…」
(兄弟は?)
「何にも無しです」
明るくすっぱりと話しているのに、その明るさが逆にどうしようもなく寂しい。
こういうの、百名さんはとても上手いと思う。明るさの裏に隠された寂しさをうっすらとにじませるみたいな。やっぱり本人の性質が出ているのかなw
他には、稽古場で池田さんに向かって「女子だけで100年順調に行ったりして…」と皮肉っぽく言うところがなかなかブラックで良かったのと、こーちゃんにまだあの女と会ってるのか?と聞かれてムッとした顔するところ。
とてもお世話になっている兄貴分相手に舌打ちが聞こえてきそうな顔でw
きゃーーー幹夫ちゃん顔かわいいけどこれなかなか食えない奴だなーーー!みたいなところが大好きでしたね。
…やっぱり本人の性質だなこれはw 百名さんなりの幹夫ちゃん像。

レビューについての感想だけれども、やはりダンスは初見のお客さんからもかなり評判が良かったようだ。あまりバレエ的な要素が入っているタイプの踊りはやって来なかったと思うけど、それでも踊る為の素養は十分備わっているし何よりあの体幹とリズム感なら多分どんなジャンルだって踊れる。
あと単純に踊れるだけじゃなくて姿勢や目線の送り方が綺麗だし見せ方が上手い。こういうのは何年も何年もやって来てる人じゃないと簡単には身に付かないものだと思う。
レビューのところだけじゃなくて、みれさん演じるおばちゃんが劇中劇を演じた後にBOYS達と一緒に踊る場面、あそこで幹夫ちゃんもセンターに出て来てみれさんと少しだけ踊るのだけれども、自分の左肩を差し出す時の身体の角度とか、最後メトロノーム持って捌けて行く時に一瞬上げる右足の角度とか、そういう細かいところも全部綺麗。
レビューの終盤で踊るすみれの花咲く頃ダンスver.、あそこは見せ場だと思うのだけれども、ほんの少し物足りないかなと最初は思ったりもした。
百名さんならもっとバキバキにかっこつけて踊ることも出来たと思うんだけど、全体的に綺麗めで丁寧に踊るというか舞っている印象だったので。
宝塚だからこそああいう踊り方だったのだろうと途中で納得したのだけれども。だってあそこで踊っているのは竹田幹夫ちゃんだもんね。
ただ、初日のレビューについては私の記憶が確かならば幹夫ちゃんはかなり泣いていた。2日目以降は楽しそうに嬉しそうに、でもどこか切なく泣き笑い、という表情が多かったと思うのだけれども、初日は特に涙が多かった気がする。最後のすみれの花咲く頃を歌っている時は特に。
はて、あれは100%竹田幹夫ちゃんとしての涙だったのだろうか…?

歌についてはソロの第一声の「つつがなく帰る~♪」がなかなか上手く決まらなかった。特に最後の「る~」が微妙に低かったり逆に高かったりで。
今回はあくまで基本ストプレの舞台だし、レビューについては楽しく歌って踊れたらそれでいいかなと最初は思っていたのだけれども、あの冒頭のソロはスローテンポでほぼアカペラ、難しいけれど目立つ聴かせどころでもあり、何とかして上手く決めて欲しかった。
初日の肩に力入りまくりのガッチガチ状態からはすぐ脱したけれども、前楽の時点でも音は合っているがそーっと歌っているような感じで、少し弱弱しい感じの歌声だった。
やはりまだスローな歌は難しいか…今回はお芝居がメインだからあまり歌の練習に時間も割けなかっただろうし仕方ないかね、と思っていたら、
千秋楽で前日までと全く別人のようなしっかりとした歌を聴かされたので、私は客席で思わず笑ってしまったwだってあまりにも違いすぎる!
初日は正直50%くらいだと思ったのが、千秋楽は120%だったw
うん、リアルタイムの成長を見られて嬉しいのだけれども、でもやっぱり、最初からもうちょっと安定した歌声を出せるようにならないといけないね……^^;
リズムに乗って歌う曲はバッチリ決まっていたので、マタ・ハリ終わってから不徳の伴侶までの間に猛練習した成果はちゃんと出ていたと思う。

千秋楽のカーテンコール。
木内さんとまさかのw藤岡さんまで涙してしまうという中、百名さんは清々しい顔で静かに先輩たちの挨拶を聞いていた。
私はステージ上で好きな人にはあまり泣いて欲しくない、という思いがあるのだけれども、「10年前に見てからずっと出たいと思っていた舞台に出演出来て本当に嬉しい」という木内さんの喜びの涙は美しいと思ったし、藤岡さんの泣き笑いしながら「俳優として苦しんだ時期があって、そんな時に鈴木裕美さんに出会って…」という言葉にはすごく重みがあると思った。
あの涙には、それなりの長い年月の間ずっと抱えて来た思いが溢れているんだよね。
だからやっぱりまだまだ泣けないね、今は。
ずっと清々しい顔をしていた百名さんが、過去に二度ほどこの世界での仕事を諦めようとしたことがある、という言葉から始まった良知さんの挨拶の時には、凄く真剣な顔つきで良知さんの横顔をじっと見つめていたのもまた印象的だった。
あまり良知さんと親しくしているような様子は伝わって来なかったが、きっと裏では何かしら話はしているだろう。

木内さん演じるハセさんの台詞で、「ここにいた時間を宝物だと思える時がいつか来るのだろうか」。
私はこれがすごくずっしり来たのだけれども(また木内さんの台詞回しがしみじみと上手い)、奇しくも宝塚男子部結成から解散まで9年というのは、彼が仲田くんとしてジャニーズに在籍していた9年と同じではないか。
もちろん彼が良い青春時代を仲間たちと共に過ごしていたであろうことは私でも何となく分かるし、ちゃんと宝物として大事にしまってあるのかもしれないけど。
しかし正直なところ、大半が誰かのバックダンサーの仕事で9年というのはちょっと長かったような気がしないでもない。
もう少し早く新しい道を選べば良かったと思ったことはないのだろうか?
あるいは逆に、自分も一度くらいは横アリで歌ってみたかったなぁとか。
あの9年を本当に宝物に出来るかどうかは、やっぱりこれからにかかっているのじゃないかな。
でももし彼がもっと早くにあの世界から離れていたら、私はきっと彼のことを見つけられなかったので、そこは何とも言えないところなんだけれども。

宝塚BOYSのラストは、7人が晴れやかな顔で稽古場を去って行くが、あれはあくまで舞台としての演出で実際の宝塚男子部の方たちはもっとひっそりと去って行ったのじゃないかと思っている。
あの最後のレビュー、私は最初、あれはBOYS達が想像した夢の中の話だったのではないかと思ったが、そうではなく、あの舞台の世界ではきっと最後に大劇場に立てたのではないか。
解散が決まって、でも今まで必死に稽古して来た成果を何とか彼らに披露させてやりたくて、池田さんが何とか頑張ってその機会を作って。
男と女のレビューは実現しなかったが、客席には池田さんとおばちゃんの他に彼らを応援してくれたごくわずかの女子生徒や(幹夫ちゃんの元カノも)家族が見に来ていたのだろう。こーちゃんのお母さんとお兄さんも。入場料は取っていないだろうけど、興味があった一般客も見ていたのかもしれない。プレイハウスに足を運んだ人達はその一般客の中の1人になっていたのだ。
だから彼らは最後にありがとうございましたと大階段に頭を下げ、稽古場の扇に頭を下げ、宝塚という場所を大切に思ったまま去って行くことが出来たのではないかと思っている。

幹夫ちゃんのその後を少し想像してみると、幹夫ちゃんは二枚目のモテ男だしきっと別の場所で芸能の道を続けただろうな。歌手か、ダンサーか、あるいは俳優か。
新しい彼女も出来てブイブイ言わせてw
でもやっぱり時々寂しさを覗かせたり、ブラックな言葉を囁いたりしてるんだろうな。
あれ、これは幹夫ちゃんの話か、あるいは百名さんの話か?w

さよなら、竹田幹夫ちゃん。
平成最後の夏に百名さんと出会ってくれてありがとう。

あなたの夢が、いつまでも消えませんように


#百名ヒロキ #宝塚BOYS #沼の深淵

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