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不徳の伴侶で見た百名ヒロキさんの話

2018年5月29(火)~6月3日(日) 赤坂レッドシアター
演出:荻田先生、作曲:福井小百合さん
共演者:彩乃かなみさん、藤岡正明さん、舘形比呂一さん、吉本真悟さん、シルビア・グラブさん

最初に発表された時、朗読ミュージカルとは??という点が全く想像出来なくて、初日直前にげきぴあさんの稽古場レポートを読んでもやっぱりよく分からなくて、でも写真を見る限り椅子に座るかもしくは立って本を持ちながら朗読しつつ歌を歌うんだろうなとぼんやり想像していた。
でも実際はもっと細かく色々なことが考えられていて、ステージほぼ中央に二つの木の椅子、両脇に二つの木の椅子と譜面台(左側の譜面台は固定だが右側の譜面台はセンターで歌う場合に移動してくる)、向かって左側に小さめの小高いステージ、それから左端に3つのパイプ椅子、ステージ右側のピアノの前に3つのパイプ椅子という配置で、ストーリーを進めるor歌う登場人物は木の椅子に座るか譜面台の前に立つかステージの上に立つ、それ以外の待機している人物はパイプ椅子に座っているという感じ。
パイプ椅子に座っていても、もちろん役が抜けている訳ではないのでそこでも地味に表情や座り方で演技はしている。
6人しかいないとは言え、裏から出て来たりどこかの椅子に座ったりまた移動したり譜面台動かしたり(百名さんはよく動かす係をやっていた)裏に下がったりという動きがめまぐるしく、この動きをちゃんと覚えるだけでも結構大変だろうなと思った。

最初に情報解禁された時に、シルビアさんと藤岡さんの名前をうっすら聞いたことがあったくらいで荻田先生の凄さも知らなかったし、とりあえず私が全幅の信頼を置いているジャニヲタ兼ミュヲタの友人に聞いてみた。
「オギー(荻田先生を親しみを込めてこう呼ぶらしいw)の話は暗いけど耽美な世界をやらせたらとても上手。あと出演者にハズレは無いから安心していい」
ということだったので、行けそうなところのチケは全て確保し、結果ほぼ全通することになってしまったが後悔どころか大正解だった。
W主演の彩乃さんと藤岡さんの次に名前があり、2人と一緒に取材を受けていて、かつ6人しかいなくて小劇場作品なら多少のチャレンジはさせて貰えるのだろうという確信があった訳だが、多少のチャレンジどころかこれはもう実質的に百名ヒロキを育てる為に書かれた話なのでは、と思っても良いような作品だった。
それはちょっと言い過ぎたけど、荻田先生は間違いなく彼の中に何かを見出してくれたのだろうと思えた。ありがとうございます。

初日はH列のセンターブロックの席を100naさんから頂戴していて、位置的にはあの会場だと多分1番の良席なのだろうと思う。演者の顔も肉眼で見えるし音響もいいし、何より目線がちょうど来る。彩乃さんにじっと見つめながら歌われてドキドキしたり、シルビアさんに睨まれながら熱唱されて背筋が伸びたり、百名さんも狂気に満ちた台詞を私に投げかけて来たので大して遠くもないのに双眼鏡使って目が合ってるか確認したりした。確かに合ってた、レッドシアターは狭いので勘違いではなく、目が合ってると思ったらちゃんと合ってる。狂気の想いありがとう、受け取りました。

本人は凄く緊張していたとブログに書いていたけど、私の目からはあまりそんな風に見えず、今までになく自信とやる気に満ちてステージに立っていたと思うし何より生き生きと楽しそうだった。一幕はまだ闇落ちしていないし、吉本リッチォとの和やかコンビはかわいいし、コミカルな部分もあったし、何より今までの作品と比べたら出番が多い、というよりもずっと出ている(GANTZはストプレなので除外)
これだけ出番がたくさんあったら嬉しいし頑張らないと、っていう気持ちにも自然となるだろうし、終わらない世界やマタ・ハリで見た時に感じた「どこか浮いている」感はすっかり無くて、ちゃんとその作品の中に足を付けて存在していた。この点は大事なのでのちほど詳しく。

最初の台詞はストーリーテラー的な説明台詞「1〇〇〇年、フランス王フランソワ二世は崩御された~」だったけど、私はなぜこんな大事なことに今まで気づかなかったのかと思うほど、百名さんは喋る声も美しい。
彩乃さんの関係者の方のブログに、澄み切った美という表現を見つけて大層嬉しくなったが、顔も綺麗だけど声も顔と同じく大変綺麗。
やっぱり声はその人自身をよく表すのだ。少し線は細いと思う時もあるけど、澄み切っていて何の雑味もなく、少しの切なさや哀愁も感じるような、意志の強さも垣間見えるような。
彼の声の美しさに気づいたのは大きな収穫だったけど、何だか歌うように喋るというか、おそらく1ヶ月の稽古期間だけでなく日々のトレーニングの成果も出たんだと思う。喋る時でも声の出し方は変わった気がする。

事前の振付情報流出により、多くのヲタクが期待していたダンスシーンは唐突に始まって唐突に終わったけれども、

うっわ久しぶりにジャニーズっぽい動き見た!!!

というのが率直な感想。うん、あれは間違いなくジャニーズの踊りや~。でも百名さんの卓越した身体能力やリズム感、関節の柔らかさはあの短い1曲でも十分感じられた。踊るのは本当に上手いね、そして悔しいけどやはりかっこいい。普段はかわいいとか美しいという感想が先に来るけど、踊っている時は間違いなくかっこよかった。顔つきが違うもん。最近は踊りを封印していたけれど、踊ったらやっぱり昔の血が騒ぐんでしょ?w
本当は吉本さんや舘形さんの踊りも見て比較したかったけど、それは目の前に推しがいたら目に入らないのは仕方ないのでDVDで後ほど確認します。
でもね、もうそれだけを武器にして生きていける訳じゃないから。超かっこいいのはみんな知ってるし、今まで10年近くも磨き上げて来たその技術は宝物として、大事に大事に出し惜しみして行こうな。私が言わなくても彼はそうしてるし、だから信頼できるんだけど。

一幕の生き生きとした彼の表情を見ただけでももう定価8000円は余裕で払えるな、と思ったのだけれども、二幕にはそれ以上のものが待っていた。
美!!!
狂気!!!
そして墓!!!(ヲタクが墓に入るの意味)

美しいのは一幕からずっと美しかったが、二幕の狂気、あの狂気が余計に美を際立たせるし、美しいことによって恐ろしさもまた際立たせる。
美と狂気の相乗効果。
多分荻田先生はそのへんを見抜いて下さったんでしょうね~!天才!!!
役とはいえ、女遊びしまくって性病にかかるというゲスな男設定も良かった。今までずっと童貞の役ばっかりやって来たしね。
メアリーに向かってクズな台詞をどんどん吐く場面、言い方が微妙に毎公演違ったので、どうやったら悪役っぽく聞こえるか日々研究していたのだと思う。

しかし、初日が終わってほぼ美と狂気のイメージしか残っていなかったというのは、やはり見る側に顔を第一に見てしまうというのがありそうだ。
何度か見たら一幕は確かにかわいい感じだし、ダーンリ卿が死んだ後には息子ジェームズとしての出番もあってそっちも良かったなぁと分かるんだけど、1回だけではあの美!!!狂気!!!だけで終わってしまう。
前に光一さんと井上芳雄さんが対談で語っていたらしい、「顔のいい人はなかなか中身を評価して貰えない」というのはこのことだなと良く分かった。

彼の歌についてだけど、本当に半年前とは全然別人のようになったと思う。
マタ・ハリは序盤の正直ヤバい状態から後半追い上げて何とかしてみせたのは彼の意地だったなぁと思うが、そもそもソロはほんの少しだけで大半が台詞調の歌、歌については求められていないというのがよく分かる感じだったし。
私は年始のバースデーイベントに行っていないので、1曲まるっと歌ったのを聴いたのは終わらない世界まで遡るけど、あの時は確か、一応音程やリズムは合ってるし音痴とかではないが全然上手くもないなぁって感じで、とにかく歌っているうちに声がブレていたのが気になった。そして、あの時は声が美しいというのも分からなかった。多分、声の軸みたいなものが全然まだ出来ていなかったんだと思う。
確か最初のソロ歌ったのはメアリーに向かって、「スコットラン↑ドへのご帰還、およろこ↑びを申し上げます」の一節だったと思うが、この↑印のところがファルセットなんだけれども、まぁ綺麗なファルセットだったしそれにしても全体的にめっっっちゃ高い。女声の音域みたい。
この後もファルセットは多用されるんだけれども、本当に綺麗だったので多分元から得意なのかも?中川アッキーさんが好きなら、真似て練習していたのかもw
いわゆる芝居歌、ワンフレーズだけの劇中歌もたくさんあって、本当に歌いっぱなしだったなと思うんだけどそれ以外にまるっと歌うソロがなんと3曲も!
一幕で2曲あって、メアリーを口説こうとしてるラブソング「無邪気に笑う君が好き~……幸せの気分味わうのは 当たり前の権利だと感じていて 欲しい~」のやつと、結婚を夢見る(?)ソング、「夢に見るのは結婚式 僕と君とのウェディングベル~…幸せは理性を 狂わせる~」のやつ。
どっちもハッピーでポップな曲で、楽しそうに歌ってるな~くらいのことしか覚えてなかったりするwいやだって、一番の見せ場は二幕だったしさ。
途中ちょっと聞こえない箇所もあって、それはやっぱりキーが低い箇所で、低音で声量をどうやって出して行くのかは今後の課題だなぁと思ったけど、動きながら歌っても声はブレなかったし、ちょっと最後の音伸ばすところがフラット気味になることが多いの気になるなぁくらいでそれ以外は良かったというか、ちゃんとミュージカルの歌として成立していたと思う。
一幕終わった後の私の感想。

しかし彼の歌の1番の見せ場は二幕のリッチォを暗殺するところのソロで、これは私が毎日毎日言及していたところだったんだけれども、間違いなく本人も1番力を入れていてここを何とかかっこよく歌い上げる為に試行錯誤していた。
友人を暗殺するところでポップな曲を歌わせるなんて本当にまじで狂気なんだけれどもw、最初は少しシルビアさんと舘形さんもコーラスに参加してくれて、「手は汚さない~♪」から始まって、途中でリッチォを弾劾する台詞を挟み、そこから曲調が変わって後半の一気にテンション上げて行くパートに入って行く。

この曲の中でも1番のポイントが最後の「天国へと~!」のところ。
と~の音を伸ばしながら最後わざと音を外してピッチを上げて行くということをやろうとしていた。
そういうアレンジを付ける歌い方にこだわるよりも全体の音程をもっと正確に取るとか、色んな課題があるのは事実なんだけれども、どこか1カ所くらい自分の歌の見せ場を作りたかったんだと思う。本人の希望か、福井さんからの提案だったのかは分からないけれど。
確か初日は明確に音が外れた箇所が1つあったなぁという記憶があって、それがここだったんだと思う。多分上手く行かなかった。
それからちょっとずつ進化していって、その後気が抜けて次のフレーズの音程が甘くなるとかそういうところも解決して行って、前楽の公演でついにこれが彼の100%だろうというのが聴けたので私は本当に嬉しかった。
ただ歌い方に成功したっていうだけじゃなくて、天国へと~!の最後の部分がもはや歌ではなく、ダーンリ卿の何かタガが外れたような、狂気の咆哮にちゃんと聴こえた。表現していた。表現者だったよ。

彼の歌の見せ場はこの暗殺の曲だったけれども、私が1番好きなところはジェームズとして歌う王族の子供の悲哀を歌う場面だった。わずか4小節の劇中歌。

関西弁のスペイン王子に扮した吉本さんが、僕パパに殺されたんだ…っていつもの調子で、でも今までのようなコミカルさではなく悲しそうにぶつぶつつぶやいている時、カットインして椅子に座った状態で百名さんが歌い出す。
すごく短いフレーズだけど、私はこれだ!と思った。彼の持つ、あんなに恵まれているように見えるのになぜかどこかが暗い、そう見せているだけで本当は何も無いのかもしれないけれど、でもやっぱり何かありそうなあの感じ、それを生かすにはこっちだろうと。
理想としては、一幕で歌うポップなソロ曲は1つにして、二幕で狂気のダーンリの曲、もう1曲がジェームズとして歌う哀しみの歌であれば良かったなぁと。でも多分、バラードを1曲歌って聴かせるにはまだまだ訓練が必要なんだろうなぁ。

歌が半年前とは別人のようだ、と書いたけれども、歌だけじゃなくて全てが変わっていた。
今までずっとステージ上で浮いているように見えていたのがなくなって、ちゃんと物語の登場人物の1人として生きていた。本人も千秋楽が終わった後に、
「ここからやっと始まるんだと やっとスタートに立てたんだと」
と言っていたけれども、私は、あぁ彼は本当に俳優として、自分の居場所をそこに見出すことがようやく出来たんだろうなと思った。
もちろん今までだって必死にやっていることは十分分かっていたけど、ただ頑張ってたし良かったよで祝福されるような世界に彼はいない。
私もジャニーズの世界は好きだし、これからもジャニヲタを辞めるつもりは無いけれども、なぜジャニーズタレントの多くは自分の初主演舞台をやった時、千秋楽のステージ上で泣くのか。
百名さんはすでに主演もやっているけど一度も涙なんか見せないし、多分今後も見せることは無いんじゃないかと思う。それは泣かない彼が偉いとかそういうことではなく、根本的に生きている世界が全然違うのだ。
いつかのブログで「結果を出します」と言い切っていたけれども、本当に結果を出した。荻田先生が彼が成長出来るような重要な役を与えてくれて、それをやり遂げてみせた。

いいことばかりなのかと言えばそういう訳でもなく、やっぱり歌はまだまだだし歌う為の声の出し方、そして声を出すための身体作り、そういうところからやって行かなければならないし、24歳という年齢からしても少し遅れているとは思う。今までずっと踊ってばかりだった訳だし。
でも少し遅れてると言っても遅すぎる訳でもないし、きっとこれから何とでもなる。元々素質がありそうなダンスと演技に比べたら、芸の神様は歌の才能までは最初から彼に授けてはくれなかったな、というのが正直なところだけれども、代わりに美しい声は授けてくれたので、あとは努力で何とかしろということなのではと。
そして私がいちいち言わなくても、彼はそういう仕事選びをしている。恵まれたルックスを武器に、演技の部分をどんどん伸ばしていってちょいちょいかっこよく踊ってみせる、それだけでも新しいファンを獲得して芸の世界で生きて行くことは可能だと思うんだけど、なぜ自分にとっては難しい歌にまで果敢に挑戦しようとするのか。
このへんはただの私の想像でしかないけれど、彼は自ら名乗る通り表現者で、自分の身体で常に何かを表現したいし、そうすることで自分の生きる意味を見出すというか、そうせずにはいられないタイプなのではないかと思っている。
そして表現する為には演技やダンスだけでなく、歌でも表現して行きたい、だからミュージカルの世界で頑張りたいと決めたのではないか。
私がただのヲタクにしてはやたらと歌にこだわる理由は個人的な話になるので割愛するけれど、私が彼の沼にここまで嵌りこんでしまったのは、やはり彼がミュージカルの世界を選んでくれたからだと思う。
ジャニーズのままでいても、もっとアイドル寄りのキラキラした若手俳優の世界に行ったとしても、こうはならなかったな。

ところで、私が2016年12月の帝劇でまだ仲田くんだった頃の彼を発見した時、こんな風に思っていた。

そして、GANTZのあたりでこんなことを考えていた。

この「内面から溢れ出るような輝き」、これが確かに戻って来たと思った。
戻って来たと言うよりか、新しい世界でまた輝き始めた、自分の居場所を見つけて、また自分の中にある炎を燃やし始めたように見えると言った方が正しいかな。私の目には確かにそう見えているのさ。

追記
内面から溢れ出るような輝き、まさに「拡輝」だね。

#百名ヒロキ #不徳の伴侶 #沼の底が見えない

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