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2024年のレギュレーション変更点とその影響について。メーカー毎の考察その2

前回に続き、今回はBMWとドゥカティ、ホンダについて取り上げます。

BMW


 昨年、トプラク・ラズガットリオグルがBMWへの移籍を発表したことは驚きをもって受け止められました。BMWは2019年にワークス参戦を再開して以来、5年間でわずか1勝しかできておらず、ホンダとともに「負け組」の印象が強いメーカーで、なぜわざわざ勝てないメーカーに移籍するのかとその判断を疑問視する意見が多く見られました。
 ラズガットリオグルがヤマハを離れたのはやはり、ドゥカティのバウティスタに対して車両の動力性能で負けるのが我慢ならなかったからではないでしょうか。ラズガットリオグルはおそらく、ライディングスキルでバウティスタに負けたなどとはこれっぽっちも思っておらず、乗っているバイクの性能、特にエンジン出力が劣っているから勝てないのだと思っていたのでしょう。ヤマハは先日、今後YZF-R1のモデルチェンジを行わないことを公表していますが、契約交渉をしていた時期にはすでにモデルチェンジが行われないことが明らかになっていたはずで、それがラズガットリオグルを失望させたのは想像に難くありません。
 昨年までのBMWは勝利はもちろん表彰台も遠かったものの、最高速に限ってはドゥカティにも引けを取らない物がありました。今年のレブリミットは昨年と同じ15,500rpmですが、これはすでにこれ以上レブリミットを追加する必要が無いだけの出力があるということでもあります。問題は、フレームの剛性が高すぎるためピレリタイヤとの相性が良くない事だと言われていますが、これについてはBMWはスーパーコンセッションの対象になっており、剛性を落としたフレームを使用できるので解決できなくもありません。ただ、現時点においてBMWが剛性を落としたフレームを投入しているかどうかは不明です。
 BMWのタイトル獲得に向けた意気込みはかなりのもので、テストチームを新設し元GPライダーでもあるシルバン・ギュントーリとブラッドリー・スミスをテストライダーに起用するなど、並々ならぬ物があります。BMWの体制強化が早くも成果を見せたのか、テストの段階からラズガットリオグルはタイムシートの上位に名を連ねており、一番時計を記録することもありました。そのため、テストの時点では移籍早々の勝利に期待が高まっていましたが、現実は少し厳しかったようです。
 開幕戦、ラズガットリオグルはレース1が5位、スーパーポールレースで3位表彰台を獲得しています。移籍後最初の大会で表彰台に立てたのは幸先良く、ラズガットリオグルはレース1ではヤマハ在籍時に散々苦杯を嘗めて来たストレート勝負でバウティスタをパスできたことを喜んでいましたが、レース2ではエンジンブローによりリタイヤに終わりました。エンジンを早くも1基失ったのは痛いところです。今季は全12戦なので使用可能なエンジンは全6基、内1基が失われたので残り11戦を5基のエンジンで乗り切らねばなりません。エンジンブローの原因次第ではパワーダウンを強いられるかもしれないので不安の残る所です。また、ラズガットリオグル以外のライダーの成績は、昨年に比べそこまで改善されているようには見えません。スーパーポールレースでの表彰台も、ラズガットリオグルという極めて非凡なライダーの能力によるところが大きかったでしょう。また、ラズガットリオグル自身最も得意とするはずのブレーキングでオーバーテイクされる場面が何度もあったので、車体の仕上がり具合はまだまだ課題が多いように見えます。タイヤライフについても課題が多そうで、開幕戦では最もタイヤに厳しいメーカーだったと言われています。フィリップアイランドは近年主に使用されている柔らかいSCXタイヤではなく、固いSC1タイヤが供給されていたので次戦以降同じ結果になるとは限りませんが、タイヤライフを解決できなければまだまだ勝利は厳しいかもしれません。
 BMWはスーパーコンセッション対象のチームなので、優遇措置として通常の10日に加えて6日、合計16日のテストが可能です。この6日間のアドバンテージをどう活かせるかが今後のBMWの躍進の鍵を握っているのではないでしょうか。

ドゥカティ

 ドゥカティは今回のレギュレーション変更の恩恵を最も受けていないメーカーだと言えるでしょう。今回のレギュレーション変更はドゥカティのアドバンテージを削るのが目的とも言えるので当然といえば当然なのですが。唯一、恩恵があったとすれば、昨年性能調整で課せられたレブリミット500rpm減が帳消しになった事でしょうか。昨年、バウティスタはこのレブリミット削減の影響はほとんど無いと言っていましたが、他のドゥカティ勢からはレース中レブリミットに当たることが多くなったとの声も聞かれたのでむしろバウティスタ以外のライダーに影響が大きかったのかもしれません。ただ、これはマイナスだったものがゼロに戻っただけなので恩恵とは言えないかもしれません。
 ドゥカティは昨年ライダーとマニュファクチャラーの両タイトルを獲得したメーカーなので、当然の事ながらコンセッションの対象ではなく、オフシーズン中のコンセッションパーツのアップデート権はありません。なので、エンジンについてはほぼ昨年と同仕様のものだと思われます。ただ、噂されていたように、燃費が厳しいのであればそれに対する何らかの変更が加えられている可能性はあります。
 クランクシャフトの重量変更範囲拡大はドゥカティにはあまり意味が無い様に思えます。2019年型パニガーレV4RのクランクシャフトはベースとなったV4Sのものより1,100gも軽量なものでした。クランクシャフト単体の写真を見る限り、市販車の状態ですでにカウンターウエイトがかなり薄く、あらかじめレースで使うことを想定した軽量化がなされているように思えます。昨年行われたモデルチェンジでクランクシャフトに変更があったかどうかは不明ですが、2019年型より重くしている可能性は低いのではないでしょうか。市販車のクランクシャフトは公道走行のためにアイドリングや低速域がギクシャクしないように敢えて重くしている場合が多いのですが、元々サーキット志向の強いパニガーレV4Rは敢えてそのようにはしていないのでしょう。それが昨年までの国産勢との大きな差の一つだったのかもしれません。
 昨年までのドゥカティは最高速もさることながら、特に加速力において大きなアドバンテージがあった印象があります。カタルニアやポルティマオでは、スピードトラップで記録されている最高速では互角だったり逆にヤマハやカワサキが上回ることすらありましたが、レースの映像から受ける印象はまるで異なるものでした。ドゥカティのコーナーの立ち上がりからみるみる後続を引き離す加速力にはこのクランクシャフトの軽さが効いていたのかもしれません。今年、クランクシャフトの重量変更範囲が大きく緩和され、±20%まで認められるようになったのはドゥカティが他社より圧倒的に軽いクランクシャフトを採用していたことの裏返しで、今年は他社がクランクシャフトを大きく軽量化したことで、昨年までにあったアドバンテージが無くなったと考えられます。
 ドゥカティが合計重量制導入の影響を最も受けたメーカーであることに異論を挟む人はいないのではないでしょうか。昨年までのタイトルを連覇したアルバロ・バウティスタはグリッド上最も軽量なライダーです。開幕戦でバウティスタは5kgのバラストを積んでいたと言われています。この5kgが車体のどこに積まれていたかは不明ですが、ドゥカティはバウティスタのライディングに影響を与えないようかなりの努力をしていおり、エンジンのカバー類など、変更可能な部品をわざと市販車の物よりも重い物に交換するなどしていたと言われています。
 開幕戦はレース1で新人のニッコロ・ブレガがポールtoウィン。バウティスタは転倒を喫し15位に終わりましたが、日曜は一転してバウティスタが復調、スーパーポールレースでは4位、レース2では僅差で勝利を逃すも2位表彰台に登りました。バウティスタはバラストを積んだバイクへの適応で大きく前進しており、日曜は表彰台を逃したブレガも将来を期待させるに十分です。さらにドゥカティはプライベーターも粒ぞろいでレース2は勝利こそ逃しましたが2位から7位までをドゥカティが占めましたし、開幕戦の3つのレースで最も多くの表彰台を獲得したのもドゥカティでした。ライダーズタイトルは誰が取るのかは現時点で全く予想がつきませんが、マニュファクチャラーズタイトルの候補はドゥカティが最右翼ではないでしょうか。

ホンダ

 ホンダはスーパーコンセッションの対象ですが、今年は新型を投入しているのでどの程度その恩恵を受けているかは判断が難しいところがあります。新型がFIMにより「新しい設計のエンジン」と認定されていれば新型用に新たにコンセッションパーツを登録することができますが、ホンダは元からコンセッションとスーパーコンセッションの対象であるためあまり意味はありません。ただ、テスト日数の優遇は受けられるので通常より6日多い16日のテストを行えます。
 CBR1000RR-Rのエンジンは旧型の頃から定評があり、ドゥカティ以上のパワーがあるとも言われていますが、いかんせん車体に問題があったようで、これまでそのパワーが活かされることは殆どありませんでした。ホンダはスーパーコンセッションの対象となり、対策のフレームを投入しましたがその成果もあったようには見えず、何をやっても結果が出ない状態が続いていました。この状況を打破すべく、ホンダは今年、参戦車両であるCBR1000RR-Rをモデルチェンジ、エンジン、車体共に大幅に見直され、特に車体に関しては従来のブリヂストンタイヤに替えてピレリタイヤを装着して開発したと言われています。新型の投入はこれまでの低迷からの脱出に大きな期待が寄せられていたはずです。しかし、その期待は早くも裏切られてしまいました。開幕戦の表彰台には5社中4社が登壇していますが、この表彰台に登壇できなかった唯一のメーカー、それがホンダでした。更に付け加えると、表彰台はおろかTop10にも食い込むことができませんでした。新型のデビューレースからいきなり大きく躓いた格好です。
 イケル・レクオナもチャビ・ビエルゲも、揃ってリアの深刻なトラクション不足を訴えていますが、問題の原因としてフレームの剛性不足が指摘されています。旧型はフレームが固すぎてピレリタイヤの特性に合わないと言われていましたが、新型ではこれに懲りて逆に剛性を下げすぎてしまったのかもしれません。ただ、WSBKのレギュレーションでは、フレームの補強は許可されており、コンセッションに関係無くアップデートできるので昨年までに比べれば対策はし易いのが救いでしょうか。いずれにせよ、このトラクション不足を解決しない限りホンダが上位争いに加わるのは無理でしょう。
 開幕戦でHRCはレクオナが公式テストで負った怪我により欠場、ビエルゲ一人のみが参戦しました。そのため新型の実戦での走行データはビエルゲの1台分しか取れていない事になります。まさに泣きっ面に蜂ですが、これについてはホンダの参戦体制に疑問を抱かずにはおれません。今年、参戦している5社中、サテライトチームにワークスと同仕様の車両を供給していないのはホンダだけです。ホンダにはサテライトチームとしてMIEペトロナスがありますが、装着されている部品はHRCの車両とは全くと言っていいほど異なる物です。リザルトを見るとHRCに比べMIEは最高速が10km/h以上遅いのでエンジンの仕様にも少なからぬ差があるように見えます。車両開発においては参戦台数が多い方が有利なのはMotoGPのドゥカティを見れば明らかです。WSBKではヤマハはGRT、BMWはボノボアクションの各サテライトチームにワークスと同仕様の車両を供給しています。カワサキも今年からプセッティにワークスと同仕様の車両を供給するようになりました。資金的には余裕があるであろうホンダがこれをやらないでいる理由がわかりません。
 MIEは前身のアルテアMIEとしての2018年の参戦開始から今年で6年目を迎えますが、成績はずっと低迷しています。2023年からはペトロナスという大スポンサーを獲得しましたが成績が上向く事はなく、常にリザルトの最底辺に位置しています。MIEはレース用部品の販売も行っているのでその絡みもあるのかもしれませんが、独自参戦にこだわっている様に見えます。それが悪いとは思いませんが、ホンダ全体で見れば今のMIEの存在は何ら資するものが無いように見えます。自社の車両を走らせているチームが常にリザルトの最下位を占めているのはマーケティング上もマイナスイメージしか無いのではないでしょうか。他社と同じ様にワークスと同仕様の車両を供給するのが長らく遠ざかっていた勝利への近道だと思うのですが。
 ホンダが最後に勝利したのは2016年の第10戦、今は亡きニッキー・ヘイデンによるセパン、雨のレース2でした。以後丸7年、ホンダは勝利から遠ざかっています。これはWSBKの連続未勝利年数において1990年〜1996年のスズキと2014年〜2020年のBMWの7年間に並ぶワースト記録(Wikiで調べたので間違っているかもしれませんが)で、もし今年も未勝利に終わるとホンダは単独でワースト記録を更新することになります。これは実に不名誉なことだと言えるでしょう。
 ここ数年、ホンダがWSBK参戦でやっていることには首をひねらざるを得ない事があまりにも多すぎるのですが、これについてはまた機会を改めて取り扱いたいと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。
次回は3月14日から2日間カタルニア・サーキットで行われるWSBK公式テストについて取り上げたいと思います。

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