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いきなりステーキ 栄光と凋落の軌跡

日経トレンディーに掲載されていた「いきなり!ステーキ」創業者のインタビュー記事。貴重なドキュメンタリー資料としてご紹介します。

■沿革

  • 1985年:有限会社くに(現ペッパーフードサービス)設立

  • 1994年:ペッパーランチ開店

  • 2013年:いきなり!ステーキ開店(店名は炭焼ステーキくに)

  • 2016年:いきなり!ステーキ100店舗達成

  • 2018年:最高売上635億円達成。全都道府県への出店達成

  • 2018年:米ナスダックに上場。2019年に上場廃止

  • 2019年:500号店開店

  • 2020年:39億円の純損失

  • 2022年:創業者一瀬邦夫氏、退任

■成功要因

  • 厚切りステーキをリーズナブルに食べられるという圧倒的な価値提供

  • 原価率が高く(肉の原価率70%。通常は30%程度)コスパが良い

  • 熱効率の優れた特殊鉄板使用。最後までアツアツを楽しめる

  • 立ち席中心で高い回転率(薄利多売)

  • 少人数で回せる店舗→フランチャイズに適した店舗

  • 肉マイレージ等のユニークな販促施策

  • 頻繁なメディア露出→更なる集客に繋がった

こちら、業績絶好調の2017年に公開された記事。

熱効率の優れた特殊鉄板を最新の電磁調理器を使い約1分で急加熱。その鉄板に肉や野菜、ご飯をのせ、2~3分で客に提供する。鉄板は20分たっても約80度に保たれ、最後までアツアツの状態に料理を保つことができる。

週に何度も食べてもらえるよう、標準メニューの価格を約700円に設定。原価率が上がる分、人件費を抑えるため券売機を設置。シンプルなオペレーションで多くの客に対応できるよう、20~24席のU字型カウンター方式を基本とした。

「いきなり!ステーキ」ではオーダーを受けた後、グラム単位の量り売りで客の目の前で肉をカットする。「ステーキは厚切りでないと美味しくない」という一瀬氏のこだわりで、カットの基本は300g。グラム単価は肉の仕入れ価格により変動するが、現在は6.5円。300gのステーキが1950円で食べられる計算となる。

カットした肉は炭火で焼き、5分程度でスピーディに提供。カウンターの立ち食い方式で、前菜なしでビールやワインと一緒に、分厚いステーキをいきなり味わう。

これまでにない強烈な体験と、ステーキの美味しさが評判となり、人気は口コミで一気に広まった。

■肉マイレージという発明

個人的には、ポイントカードよりも、こちらのランキングが衝撃的でした。店内に掲載してあり、ランキング1位は3か月で163kg。1日1.8kgを毎日食べ続けた計算となります。

ランキングとして掲載されると、少しでも上を目指したいと野心が芽生えるもの。よく出来ているなと当時、感心したことを今でも覚えています。

「食べた肉の量と順位を可視化して、お客様にゲーム性を楽しんでもらった。自分で言うのも何だが大発明だったと思う」と一瀬氏。実際、この肉マイレージと、それに対応した顧客管理システムは唯一無二性を評価され、18年に特許を取得している。

■積極的な出店攻勢が仇に

成長性そのものに大きな疑問符が付いたのが、19年12月期の決算。いきなり!ステーキ事業のセグメント利益が前期を初めて下回ったのだ。しかも63.8%減と大幅なダウン。これは大量出店が招いた自店競合による結果だ。「結果的には、社長である私の判断ミス。とにかく出店し過ぎた。素晴らしいビジネスモデルを開発できたので全国に広げたい、ただその一心だった」。

「あれだけの勢いでお客様が店に来れば、その流れに乗らない手はなかった」。そう話す一瀬氏のビジネスモデルを広げたいという強い思いは、自身の視界を曇らせた。18年11月には全都道府県への出店を達成していて、当時は金融機関からの融資話や出店候補先の案内が一瀬氏の元にどんどん持ち込まれた。出店先の立地条件が適切かどうかを厳しく見極める目は、おのずと甘くなったという。

■米国進出の失敗

進出した米国では18年9月に米ナスダック上場を果たしたが、こちらも出店スピードを加速したものの業績が振るわず、19年6月に上場廃止を申請。「フランチャイズビジネスの本場である米国で、ニューヨークを中心にフランチャイズ店を集めたかった。ナスダックに上場できるなんて誰も思っていない中でのチャレンジだったが、振り返れば無駄だったとは思う」。一瀬氏はそう語る。

この米国では、提供するサービスの質を保つのにも苦戦した。現地に管理者を置いてはいるものの、一瀬氏が求めるレベルに達していなかったのだ。かといって、日本で経営のかじを取る一瀬氏が米国へ頻繁に訪れるのは難しかった。

私、実は2018年9月に、いきなり!ステーキのNY店に行ったことがあります。当時、日本では飛ぶ鳥落とす勢いでしたが、NY店は閑古鳥が鳴いていました。クオリティも見劣りするし、そもそも立ってステーキ食べたくないよという感じでしょうか。今となっては、貴重な写真を共有します。

■かつての強みが一転、逆回転

手ごろな価格で良質なステーキを提供することが可能になる一方で、客1人当たりの利益が少ない分、回転率を良くしてトータルの利益を稼ぐことが求められる。実際、オープンから数年はうまくいった。しかしその“方程式”が自店競合で崩れると、毎月のテナント料や人件費が重荷に。メニューの値上げで利益向上を図るも、客数ダウンは想定以上だった。

集客力を強めていた肉マイレージも、一転してあだになった。ランクに応じてソフトドリンクなどを無料で提供するといった特典が、利益を稼ぐ力を弱めたのだ。例えば誕生月に好きな肉を無料で食べられる特典では、こちらの想像通り、「価格が一番高いメニューを注文されるケースが多かった」(一瀬氏)。肉マイレージの会員数は最多で1000万人を優に超えていたとされる。逆風下において大きなダメージになるのは当然だ。

■本事例から得られる示唆

人口減少、VUCAの時代、嗜好の細分化、メディアのトライブ化、将来不安に対する節約マインド等々。

これらを考えると、成長志向の均一化した薄利多売のビジネスは、どんどん成立が難しくなる。

ターゲットを絞り込み、高単価で少人数でも採算が成り立つ事業。また、環境は常に変わる、将来は予測不能という前提に立ち、いつでも方向転換が可能な身軽さも求められることになるかと思います。

まさに、エフェクチュエーション的発想が求められるということ。


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