本と僕と彼女(2)

彼女と、久し振りに会ったのは、生徒会でだった。

僕は、特にそのような仕事をしたいと思ったことはなかったのだけれど、ある日、担任教師から熱心に生徒会に入ることを勧められたのだった。頼まれると断れない僕の性格を、その中年女性教師は見透かしたかのように、「あなたしかいないのよ!」とやや強引に説得してきた。いや、他にも適任者がごろごろいるだろうと思ったけれど、これは大学入試で有利に働くかもしれない。週一回のパソコン部に入っていた僕には、時間が有り余っていた。僕はこの申し出を了承した。

初めて生徒会の役員会議に参加する日、僕は少し緊張しながら生徒会室のドアを開けた。中にいたのは眼鏡をかけた長身の男子と、背の低いおかっぱ頭の女子。彼らは僕の方を見ると、興味深そうな目を向けた。

 「あ、君は新しく入る人?」と男子の方が僕に尋ねる。 

「はい、よろしくお願いします」僕は頭を下げた。 

「もっと気楽にしてて良いからね」メガネを掛けた男子が笑いながら言った。

改めて顔を見て、確か彼が生徒会長だったと思い立った。

「もう少し待っててね・・・・・・あともう一人来るはずだから」真面目そうなおかっぱ頭の女子が僕を見て言う。

「はい、分かりました」僕は頷きながら、多少、居心地の悪さを感じていた。

初めて入る空間というのは、いつもどこか落ち着かない気分になる。しばらく沈黙が流れた。やっぱり生徒会に入るのはやめようかという気持ちが僕の心の中を満たしていく。そんな気持ちを見透かしたかのように、生徒会長は部活についてなど簡単なことを僕に尋ねた。そして、自分自身の生徒会長としての失敗談を面白おかしく語った。

「そうそう・・・・・・ホント会長はおっちょこちょいだからねぇ」と、おかっぱ頭の女子が半分冗談交じりで笑いながら言う。

二人のやり取りを見ていたら、なんだか緊張していた自分が馬鹿らしくなってきた。思ったよりも気楽な感じがして、これなら何とかやっていけそうだと思った。

昼休みが五分程過ぎた頃、ゆっくりとドアが開かれた。 

「すみません、遅くなりました。」そう言って、小柄な女子が入ってきた。 

僕はその女子の顔を見て、驚いた。彼女は特段、僕に気付いた様子はなかった。その後、各自簡単な自己紹介があって、生徒会長からそれぞれの役割について説明を受けた。僕は庶務という言ってみれば雑務全般を任された。彼女は書記になった。

生徒会を通して僕たちは少しずつ話すようになっていった。でも、そこには恋愛感情は無くて、もっとさらりとした友情があるだけだった。くだらない冗談を言ったり、テレビの内容について話したり。元々、彼女も僕も友人が多い方ではなかったから、良い話し相手が出来て良かった、という感じだったのだと思う。でも何故か彼女に対してだけは、自分の本心を話すことが出来ている自分がいた。

異性ということを意識することが無かったといえば嘘になる。けれど、当時はお互いに一定の距離感を心地良く思っていた。だから、あえて、僕たちはいつまでもくだらない話ばかりした。お互いに、恋人がいない状況を皮肉りあったりさえしていた。この時、不思議と僕は、あの時彼女が読んでいた本について話をしなかった。いつか話そう話そうと思っていて、けれど、遂にしなかった。でも、そんなことはきっと日常生活を送る上で星の数ほどもあるのだろう。


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