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最後の一行

ふと毎年聴いている年末のラジオ番組で、沢木耕太郎さんが「最後の一行を書くと幸せになる」と語っていたのを思い出した。
彼は25年間手をつけられずにいた本を書き終えて、その境地にいた。その本は『天路の旅人』である。チベットに密偵として潜入し、旅を続けた西川一三について描いたこの本は、西川からの聞き取りの後も、彼の死後も、どう書いたらいいかで悩んで25年間が過ぎたという。無論その間も色々な著作を沢木さんは書いている。だが、確かにこの本を読んで、この本こそ沢木さんでなければ書けなかったと思うものであった。
私も最後の一行を書きたいと思う。
だが焦るまい。
季節の変わり目と相まって体がまだ疲れやすく万全ではないことがもどかしい。けれど、最後の一行はいつか書ける。
旅が終わることを目指して旅をするわけではない。
旅は私を変える。そして、旅路こそ、旅をする目的なのだと思うからだ。


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