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二つの世界観を行き来する残虐過ぎる爽快感「ポーラー-狙われた暗殺者-」

Netflixオリジナル映画「ポーラー-狙われた暗殺者-」を鑑賞。ある暗殺組織は従業員である暗殺者の為に年金システムが存在する。50歳を迎えると引退し莫大な現金が手に入るという仕組み。
ただ、この受取人が死亡してしまった場合は、その年金の受取人は会社へ移行する。というシステムを会社側が逆手にとって、引退間近のエリート暗殺者に通常能力者版スーサイドスクワッドのような個性派暗殺チームを仕掛けて、負債を抱えてる会社の立て直しを図るというコミック原作らしい超娯楽エンタテインメント!

この映画、豪邸のプールサイドでブルジョアな隠居生活を堪能している一人の中年男性が、見事に殺されるシーンで始まる。セクシー担当が色仕掛けで標的を油断させ、遠くからスナイパーが狙い、近くの物影からも武器をもった殺し屋が控えている。ここまで念を入れなくても良いだろうと思うような周到さだが、相手は元凄腕ヒットマンだ。下品なジョークも交えながら見事に個性派暗殺チームが標的を仕留めて迎えに来たヘリで颯爽と去って行く。

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目に痛いくらいの原色とコントラストが高めの映像。吹き飛ぶ血吹雪も鮮やかだ。ヘリの中でも上機嫌な暗殺チームはアースウインドファイヤーの「セプテンバー」をみんなで大合唱。字幕にもカラオケさながらの歌詞が飛び出す。
そう、この冒頭で「この映画はポップなアメリカンコミックの映画です。いっぱい人が死にますが気にしないで下さい。そういうのが苦手な人はここでやめてくださいね。」と観客にアナウンスしてるのである。

場面変わってシアトルの病院、パンツ一丁で傷跡だらけの身体をさらしている中年男が健康診断を受けている。この男こそマッツ・ミケルセン扮する主人公。勿論、殺しやグループの次の標的になる、通称ブラック・カイザーことダンカン・ヴィズラである。
ふと気付くとコントラストは冒頭の斬れ味そのままだが、色調はグッと抑えたシックなトーンになっているのだ。

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このダンカンという男、渋すぎる。マッツ・ミケルセンという役者は注目していなかったのだが何をやってもサマになる、これから出演作を気にして見ていこうと思うほど。途中トボけたシーンもいくつかあるのだが、それも無骨なダンカンのチャーミングさを引き立てている。
そして、ダンカンがひっそりと雪の中の山小屋で過ごしている時に出会うのが野暮ったさ全開のカミーユという女性である。二人は何故か惹かれ合い、親子のような恋人のような関係性になっていく。

このダンカンカミーユの色調を抑えたハードボイルド全開の物語と、総天然色カラフルでクレイジーな殺戮劇が交互に展開され徐々にふたつの距離が縮まっていく。

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この二つの写真を見る限り、同じ映画に存在するシーンには見えないのだが、意外にも違和感なく移行していくのである。


ここからはちょっとネタバレあるので未見でこれから楽しもうとする人は観てから読んでほしい。

ダンカンを狙う暗殺チームは居場所を突き止めるため、ダンカンに関係のある場所を次々と襲っていく。かたやダンカンは奇妙なフラッシュバックにうなされながらも、これからのセカンドライフを満喫する為の準備を淡々と進めていく。
このダンカン、硬派のように見えて以外と流されやすい性格というのが可愛い。飼わないと言った犬を次のシーンでは車に一緒に載せていたり、カミーユの勧めで子供達の講師になるも教えることは世界各地の埋葬の仕方だったり、暗殺チームの色仕掛けにもちゃんと乗ってくるのである。
しかし、それをもろともしないのがダンカンの強さ!男は五十過ぎてもこうありたいね。(ダンカンと同世代だけに親身に感じるのです。)
そしてとうとう暗殺チームがダンカンに辿り着き、いつものように計画を実行に移す。しかし流石は経験値では彼らに勝るダンカンだけあって暗殺チームの一歩先を読み一網打尽にするのだが、カミーユが拐われてしまう。

カミーユを取り戻す為に昔から馴染みのポーターに相談に行く。これがリチャード・ドレイファスが演じているもんだから絶対良いヤツに違いないと観客も思ってしまうが、あっさり裏切られて組織にとらわれてしまうことに。

部下を殺された組織のボス、プルートの執拗な拷問が始まる。それが目ために痛い!痛すぎるのだ。銃で撃たれたり、刃物で切られたりしても、実際の痛さを想像しにくいけど、ニッパーで肉を引きちぎられるのはリアルに想像できるんですよね。(オールドボーイビューティフルのハンマーを凶器にするのもその類)そんなボロボロになりながらも僅かなチャンスを見極め一矢報いて逃走するのだ。そっからの反撃がカッコよすぎる。50代の肉体とは思えない鍛えっぷりで一人一人なぎ倒していく。織のアジトを抜け出し、武器を調達して組織の総攻撃を一人で待ち構える。中盤のアクションが鍛え上げられた肉体を魅せる肉弾戦の綿密なカットを積み重ねているのに対して、一瞬で一網打尽にする爽快感!

そしてカミーユを取り返すべく、ボス、プルートのいる組織のアジトへと向かうのである。
どうして、そこまでダンカンカミーユというさえない女に拘るのか?それは時折インサートされるダンカンのフラッシュバックとも関係してくる。ダンカンはかつて依頼主の間違いで罪無き家族を死に至らしめてしまう。そこで一人だけ見逃したのがカミーユだった。カミーユも家族を殺した男を探し求めて、いつか復讐しようとダンカンの近くにいたのでは?とも思える。もちろん、カフェで初めてカミーユを見かけた時もダンカンは気付いていたのでは?それを思うとカミーユに銃の使い方をレクチャーするところも二人の想いの入り交じった緊張感溢れるシーンへと変ぼうする殺される。

無事、カミーユを取り戻し、めでたしめでたしというラストかと思いきや、ダンカンのトラウマとなっているカミーユの家族の殺害を命じた者へと二人の標的が移っていくところで幕を閉じる。

この次回作を思わせる終わりかただが、総天然色チームが全滅してしまった今、渋いダンカン側のトーンで押し切る次回作になるのかが気になる!
一般視聴者の評価はまんざらでも無いのに評論家の評判が悪いというのも次回作があるのか無いのか気になるところである。個人的にはフラッシュバックにインサートされるカットで解決してないもの(次回作への布石か)もあるので、これで知ったマッツ・ミケルセンの魅力を前面に出したハードボイルドな2作目に期待している。

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