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映画「バリー・シール/アメリカをはめた男」の予告編と映画本編が全く違うトーンだった!

押しも押されぬ大物俳優トム・クルーズ。彼が主演の「バリー・シール」をAmazonプライムビデオで観た。

実は期待していなかったのだが、冒頭から映像がもの凄いカッコいいのである。当時のニュース映像がコラージュされて違和感なく本編へと移行して行く。クラシカルながらもかなり魅力的なトーンで、カメラワークも俺好みの絶妙なハンディワーク!

でも、こんな冒険的なトーンは冒頭だけでタイトル後にはいわゆるトムクルーズらしいトーンに戻るんだろうなと思っていたら、、、そのまんま突き進んで行くではないの!
ついつい惹きこまれてしまった。

とりあえず簡単にストーリーを!

タイトルの通り、実在の人物バリー・シールを題材に造られた今作は、舞台は70年代後半から80年代のアメリカ。元々旅客機のパイロットだったバリー・シールが自分の立場を利用して密輸に手を染めていたことから、CIAに目を付けられ極秘の偵察任務もさせられる事になる。というトンデモ実話をベースにした痛快な作品に仕上がっている。特に最初の副操縦士時代のシーンで、天才的な操縦テクニックと今の仕事に退屈してる様子、破天荒な性格などを一気に説明してしまう監督ダグ・リーマンの手腕は流石ですね。

本編観た後に予告を観たらびっくり!

内容については他のレビューでも参考にしてもらうとして、こんな一目見て良いなと思うようなトーンの映画だったら絶対、予告編で目に留まってるはずなのに、なんで見過ごしてしまったのだろう?と気になって、予告編を検索してみたんです。そしたら、、、

これが実際の映画本編と全くちがうトーンの予告編だったんです!

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こうやって同じカットを並べて見てみると一目瞭然ですね。
予告編はまさしくトム・クルーズの王道エンタテイメント映画丸出しの仕上がりになっているのです。(これ日本版だけではなく海外の予告も探して見たら同じでした)
映画本編は全体的にアンバー調のヌケは悪く彩度高めアグファ的なフィルムルックに仕上がっていました。

実際の映画本編の一部の映像がYouTubeに上っていたのでリンクしておきます。70年代テイスト溢れ出るトーンに仕上がっていて作品のリアリティを高めてる。ただ、トム・クルーズが出ているハリウッドメジャーの作品とは思えないインディーズ感。(しかし当初の予想を上回る全世界で1億3000万ドルの興業収益上げ、週末興業収益ランキング3位を記録している)

で、これが予告編!悪いわけじゃないですよ。メリハリ効いたトーンに抜けのいい白。キリッと締まった黒。階調もFilmLookでありながら現代的、ただ「またトム・クルーズ主演のメジャー映画ね。」という印象はぬぐえない。
でも、そこが宣伝部の狙いなんでしょうね。映画のタイミング(色調)のまま予告編つないだらアート作品的な見え方になって観客が二の足を踏むのを製作者側が嫌ってのことでしょう。

映画に関しては劇場に足を運んでさえもらえれば、製作者は御の字ですからね。
「ボーン・アイデンティティー」の監督だし「M:I」的なノリで見に行ったら意外と骨太な映画だった。ということでも観客は納得してくれる出来には仕上がっています。ま、それ以上楽しめる事は確かですが、期待と違う方向にベクトルが向かってると理解できないという結果に終わることもありますからね。

ダグ・リーマンの気概とトムの信念。

さて、このトーンで行くと押し通したダグ・リーマンの気概も評価しますが、トム・クルーズも後押ししたのではないかと思われるトムのツイートが去年末にありました。

「M:Iフォールアウト」(またはあなたの愛するどんな映画でも)を家庭で観るときにベストな方法を教えます。”と題されたこの動画は、監督であるクリストファー・マッカリーと共に映画を観るときはTVのモーションスムーズ効果を切って下さい。という呼びかけである。TV業界に一石を投じ、撮影業界からは賞賛の嵐がおこった。確かにモーションスムーズ(フレーム保管)効果が入るとバラエティの様な安っぽい映像になり下がる。
(実は私自身、最近4k60pで倉木麻衣さんの「花言葉」というMVを三菱REALというTVのデモ用に撮りおろした経緯もあり、どんな風に違うかとか映画とTVの文化の違いについては話が長くなりそうなので後でゆっくり書きます。)

「シティ・オブ・ゴット」のカメラマンが撮っていた!

トーンの話ばかりしてきたが、それを強調しているのが特徴的なカメラワークである。ステディやジンバル撮影のスムーズな移動撮影が主流の昨今、無骨な手持ちで荒っぽいズームワークもストーリーを後押ししている!
手持ちに関しては、そのオペレーターのセンスが如実に表れるが、これが絶妙にしっくり来るのである。クレジットを見ると撮影監督がセザール・シャローン!そう、あの「シティ・オブ・ゴット」と一緒なのである。衝撃的なカメラワークと共にアカデミー賞監督賞ノミネートなど数々の偉業を残したブラジル映画である。俺自身もこの映画の公開当時は、カメラワークに痺れてしばらく影響が抜けなかった。こんな撮影監督が寡作という映画業界の状況が納得いかないが、久しぶりにセザールらしい映像を見れたのは嬉しい。

エンドクレジットのメッセージ

そしてエンドクレジットで何故こんなにも、このトーンに惹かれたのかが、画質で説明してくれる。カラーバックにCooperっぽい書体で並ぶ文字はエッジが滲み、ダビングを重ねたVHSのようなノイズが乗っているのである。
そう、自分が中高生の時期、映画館以上に一番身近な映画体験を与えてくれたTV放送を録画したビデオの質感を彷彿とさせるのである。
ちなみにタグ・リーマンは俺より2歳年上。まさしく青春時代の映画体験へのオマージュが「バリー・シール」のトーンワークに表現されてるのかもしれない!



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