サキュバス_1

「Succubus」MVの制作でeillのミュージシャンの枠に収まり切らない表現力を感じた。

eillは去年の春先にも撮影している。
知り合いのレーベルの友人が次にデビューさせるアーティストを撮ってほしいということで紹介された。その時は、監督に佐津川愛美さんがスタッフィングされていた。女優としての活躍は聞いていたので、被写体としてではなく監督として初めて会ったのが良かったのか、そういった先入観無しにコミニケーション出来た。既に何本かショートフィルムを演出してて、出演者として多くの現場を経験してるだけに女性らしい細やかな配慮が行き届いた美しい繊細な作品に仕上がった。それが「Shoujo」という曲だ。

そのMVの発表から1年経った頃に、また、その友人から連絡がきた。
6/6空いてないかという事だった。連絡もらったのがなんと** 6/3!撮影まで3日しかない状況だ。まあ、6/6は予定が無かったので、連絡もらった夜に三軒茶屋の近所の飲み屋でそのまま打ち合わせすることに。
そして今回はeill自身がディレクションすることになっていて、eillが描いたイメージコンテ的な物を数枚見せられた。(アーティト本人がコンテ描いてきたのはトータス松本が描いた「やぶれかぶれ」以来である)そのイメージ絵は守秘義務があるので見せられないが、かなりの読解力を要するものだった。でも、仕上がったMVを見ると意外とそのイメージ通りになってるから不思議だ。前回の「20」という曲のMVがオフショットをeill自ら編集して仕上げたので、今回も「フューチャー曲では無いのでそんな感じで」的な雰囲気で進んで来たのだと思うが、曲が「20」とは違って世界観が強いので、ちゃんした素材を撮らないと成立しないジャンルの曲に感じた。直前とはいえ相談してもらって良かったと思ってる。(貧乏籤を引いてしまった感は否めないが、、、)
**撮影3日前のその段階で決まっていた事といえば、千葉の海で撮影。ダンサーを呼んでいる。花とベールを用意している。とそのぐらいだった。

実は1か月前のnote「結論から言うと、FUJIFILM X-T3を買ってしまいました!」でも書いたのだが、購入したばかりのX-T3を実戦投入したい想いがあったので、そういった意味では良いタイミングだった。

当日は晴天に恵まれ撮影日和。アーティスト事務所のワゴンにeill、ダンサーのアサリさん、俺を引っ張り込んだ友人とプロモーションに協力してもらっているトモタカさん、俺の5人で一路千葉方向へ!
水面煌めきをバックに狙いたかったので、九十九里ではなく内房方向に向かうという事になり、富津から見はじめて最終的には富浦で落ち着いた。あんまり陽の高いうちに撮っても暑さで消耗するだけなんで、道の駅で昼食とりつつヘアメイクして2時過ぎくらいに海岸に向かった。

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先ずは岩場でeillのリップシンクから撮り始めて、プレイバックを本人に見てもらいながらイメージをすり合わせていった。やはり本人が企画してるだけあって、自分の動きのイメージもしっかりしてるので試行錯誤が少なくて済む。「shoujo」の頃と比べると段違いに表現力が上がっていた。デビューから周りの評価も安定してきて自信がついた事もあるだろうが、色々撮られることによって自分の魅せ方も分かってきたようだ。

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現場に来てる他の男性陣二人も手伝ってくれるとはいえ、撮影部は俺一人なんでこのピーカンの晴天の下、モニター見ながらフォーカス送るなんて到底できなかった。そんな時、こういったアップショットではオートフォーカスが味方になってくれた。ムービーのカメラマンとしてAF使ってます、なんて、なかなかいえた台詞ではないが、コンティニュアスAFが顔の前をベールが横切ったり、花が遮ったりする難易度の高いカットをかなり頑張ってくれていた。撮影終了間際になってブーストモードにしとけば良かった(カメラ内処理がノーマル状態の30〜60%アップする)と気付いたが、ノーマルのままでも十分使用に耐えれる性能だった。

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その後、砂浜でのアサリさんのダンスシーンとイメージショット、eillのシルエットのリップシンクと天候にも恵まれ順調に進み、日没後に桟橋でラップのカットも撮ったのだが、それはほかのカットとのバランス上、ボツになった。なにわともあれ、こんな急拵えの現場だったが無事終了した。
こんな前例を作ってしまうと「これで出来るじゃん」と思われてしまうのが問題だが、本来、保険に保険をかけて万全を期するのが撮影。もし、問題があったら無しにしても良いという今回のような案件じゃないと怖くてこんなハンドリングは出来ない。

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撮影から数日後に自分の所属事務所のグレーディングルームで編集した。DaVinci Resolveで編集からカラーグレーディング、仕上げまでこなすのが最近の自分のスタイルだ。eillの立ち会いのもと作業を進めて行ってしばらくして「わたしが繋いでも良いですか?」という言葉で、作業しやすいようにリップシンクのカットをタイムラインに並べてあげてバトンタッチ。
これがディレクターやエディターが本業なら、席を受け渡すのにプライドが邪魔するのかも知れないが、撮影が本来の仕事なのでそこらへんは抵抗無く受け入れられる。

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eillも自分でPremiereでは編集してるとはいえ、この短時間で後ろで見てるだけで違うアプリケーションを自分で手で作業できるとは驚きだ。そして、ものの数時間でカット割りが出来上がった。なにしろ音も自分で作ってるのでフレーム単位の繋ぎの気持ち良さは的確だ。

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それから全カット、カラーグレーディングを施して完成した。もともと夕日で撮影していた素材をeillの希望で月明りにも見えるくらいのダークブルートーンに変えて歌詞にも出て来る「Summer Moon」な雰囲気に仕上がった。

今回はかなりMVの制作工程としてはイレギュラーな進みかただったが、eill本人の意向がストレートに反映された少人数&小規模の制作体制だった。こんな事できるのはeillにとっては今しかないかもしれないので、それに関われたのは幸運だと思っている。ただ、こんな音楽みたいに映像を作るのも、たまには良いかもしれない。

くれぐれも「たまには」ですよ。。。

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