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映画「ビューティフル・デイ」にラムジーが仕組んだ難問。

だいぶ前、松竹試写室で「ビューティフル・デイ」を観た。カンヌで脚本賞と男優賞を受賞した今作品。“21世紀のタクシードライバー”というコピーが示す通り、オジサン+少女+暴力という「レオン」にも通じる映画萌えアイテムを揃えている。

主演のホアキン・フェニックス扮するジョーは退役軍人で警察や探偵には頼めない厄介な案件を暴力的に解決する事で金を稼いで、老いた母親と暮らしている。そんな時、政治家の娘ニーナを捜してほしいとの依頼が舞い込む。このニーナが「レオン」の頃のナタリーポートマンを思いおこさせるほど繊細な表情をみせる。こんな子だったらジョーでなくても守ってあげたくなってしまう。

それに対するジョーの暴力性が見事なコントラストだ。映画「オールドボーイ」を彷彿とさせる金槌を武器に使う所などは、刃物や拳銃よりも映像的な痛みを伴い衝撃を与える。

因みに上記のリンクが日本版の予告篇。
その次に載せている原題「You Were Never Really Here」の本国予告編と見比べると面白い違いが見えてくる。
日本版はニーナ役のエカテリーナ・サムソノフの露出が多く「レオン」をイメージさせるのに対して、本国版は硬派一辺倒で現代版「タクシードライバー」にしか見えない。
お国変われば、宣伝アプローチも変わって来るのね。

さて、本題に戻りますが、助け出したニーナを依頼人に渡せばジョーの仕事は一件落着なのだが、その背後にある計略に気付いたジョーはニーナを救うためにどんどん深みへと嵌まって行く。これ、プロットだけ読むと完全エンタテインメントに成り得る要素を備えているのに、演出も撮影方法もキャストの演技もかなりストイック!そしてレディオヘッドジョニー・グリーンウッドの音楽がこれまたストイックである。

何しろジョーが超無口!保護するニーナもそれに輪をかけて無口!ジョーの過去のトラウマは断片的な映像でしか説明せず、周りのキャストも雄弁に教えてくれるわけでもない。
そこに監督であるリン・ラムジーは少しずつ映像的なヒントを与えてくれる。

そう、乱暴に言っちゃうと映画と観客はクイズと回答者の関係に近い。簡単過ぎる問題はつまらないし、難問過ぎると興味さえ示してもらえない。さしづめ「ビューティフル・デイ」は映画熟練者にむけた難問なのである。作品の随所に垣間みる思わせぶりのヒントを巡って回答者はあーだこーだ言い合う。
クイズと違うのは最後に答えを提示しなくても良いというところにある。(黒澤明とかは反対に最期に台詞で堂々と言いきっちゃうタイプの監督ですけどね)
答えが出ないお陰で観客はリン・ラムジーからの出題をずっと楽しむことができるわけである。
エンタメ性高いシンプルなプロットを主人公の心情を断片的にすることで品位を上げている匠の技の光る逸品といった感じですね。

実はこの映画勧めてくれた松原監督の元、私が撮影した「美しい椅子と女たち」#8数える女では、このラムジーの謎に囚われてしまった松原監督の「ビューティフル・デイ」へのオマージュが垣間みれます。良かったらご覧下さい。


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