魔法少年もとくん☆マギカ       第2話「大切な人を守りたい」

 夢と同じ。

白くてつるりとしてる。柔らかそうで、赤い目の生き物に、魔法少年になってよ。って。。

気付いたのは、鉄格子の使い魔に一発で吹っ飛ばされた時だった。

「痛い!なんでだ。あの子のように、戦えないじゃないか。どうなってるんだよ。」

「それは僕にもわからないよ。」白い生き物が隣で表情を変えることなく呟いた。

「だって、魔法少年になれば戦えるって。」

「確かに戦うためには、魔法少年になるしかない。とは言ったけど、勝てるとは言ってないよ。それに、今まさに戦いに参加してるじゃないか。」

なんだこいつ。

そう思ったが、今は目の前のことに集中しないといけなかった。

ガチャン、ガチャン、ガチガチ。相変わらず鉄格子の使い魔は、異様な音を鳴らしている。

「たくっ。役に立たないじゃない。」

倒れていた魔法少女が、戦闘態勢に入っていた。

「いい加減にしなさい。とりゃあぁぁぁ!」

彼女の手甲が光り、ガチガチと鳴らす鎖を粉砕する様が目に映った。

「すげぇ。」もとくんは見とれている。

「ちょっとあんた、突っ立ってないで手伝いなさいよ。何のために契約したのよ!」

そうだった。目の前の人を傷つけたくない。その祈りで魔法少年になったんだ。戦っている彼女も傷つけない。

本を片手に突っ込んでいく。

パン!本で鉄格子を殴る。びくともしない。ゴーン。背表紙で殴る。ダメージを与えている気配はない。一発で吹っ飛ばされるのがオチだった。

「何の役にも立ってない。傷つく人をただ見ることしか。」

「もう!ソウルジェムさえ、濁ってなければこんな奴!」

魔法少女も苦戦している。あくまで使い魔。こいつを倒したところで、ソウルジェムの濁りを吸収するグリーフシードには変化しない。

魔法少女にも、戦う理由はあった。

「こうなったら、使うしかないわね。」。

「ナナ、だめだよ。君のソウルジェムはもう濁っている。使えば君は、どうなるかわからない。」

「いいのよ、キュウベェ。私は自分で自分を守りたいために、魔法少女になったの。私の祈りがあれば、使っても大丈夫なはず。行くわよ、使い魔!」

そう、彼女は自分で自分を守りたい。という祈りで魔法少女になった。両親から大切に何不自由なく育てられてきた。友達もでき、すくすくと育ってきたのだが、大切に、大切にされ過ぎて、関わる全ての人を両親から決定され続けていた。

いつも危険から守ってくれるガキ大将。言い寄ってくる男子から守ってくれる女友達。困ったことがあれば、すぐにでも助けてくれる先生。

みんな、ナナを守ってくれる。自分を守る術を知らずに、生きてきた。

ある日、彼女は苦しんでいる一人の女の子と出会う。ナナは思った。なんで誰もまわりにいないんだろう?なんで誰も、この子を守ってあげないんだろう。守ってくれたり、助けてくれることが当たり前なのに。

「大丈夫?」ナナは問いかけた。

「大丈夫だよ、ありがとう。」その子は笑って答えた。

初めての経験だった。苦しんでいるのに笑っている、誰にも守ってもらってないのに笑っている。ナナは、この子に興味を持った。

だが、その子と話をしようとすると決まっていつも一緒にいる友達から、今日はあっちで遊ぼうよ。とお誘いがはいる。断ろうとしても、危ないからこっちが安全だからと、促される。今までずっとその流れで遊んできたから、何の疑問も持たずについていった。

両親からは「今日も楽しかったでしょう。はい、ナナの好きなハンバーグ。」と、おいしい食事をする。

あくる日、どうしてもナナは興味を持った子と遊びたかった。初めての両親、そして友達への反抗。

「ねぇ、今日いっしょに帰ろう。内緒で見つからないように。」。

「うん。」

見つからないように。とは言ったもの、こそこそするのはよくないと彼女が言ったので、帰りの会が終わるやダッシュで2人は駆け出した。今まで知らない道を通り、たくさん寄り道をした。

「ここの犬、すぐに追いかけてくるんだ。怖いんだよー。」

「?」ナナにはわからなかった。

「おーい、コロー、出ておいでー!」

「ワン!」

猛烈な勢いで、こちらに向かってくる犬。ナナは理解した。これが怖いってものなんだ。こういう時、いつも守ってくれる人はいない。ただ、この子が守ってくれると信じていた。だが、目の前の子は何もしようともしない。ナナは逃げた。そして、転び、人生で初めて膝に怪我を負った。痛かった、とても痛かった、

「どうして守ってくれなかったの!」ナナは叫んだ。

キョトンとした顔で、その子は言った。

「守るって何を?」向かってきた犬は、彼女の足元でクルクル回っている。

「驚かせちゃったね。まさか知らなかったとは。この犬ね、とっても人に懐いているから安心なんだよ。かわいいでしょ。」ナナは大きく首を振った。

膝から流れた血は、ハンカチでぬぐってもらった。公園で濡らしたハンカチで。まだチクチクと痛むが血も止まって、これで大丈夫。と、ばんそうこも貼ってくれた。可愛いらしい花柄のやつ。それを見ると痛みが和らいだ。

「大丈夫、ナナちゃんもそのうち慣れるから。じゃ、私はこっちだから。ナナちゃんはあっちだったよね。またね、ばいばい。」

「ちょっと待って!」

「ん?どうしたの?」

「一人にするの?」

「いや、一人で帰れるでしょ。ナナちゃんち見えてるし。」

「いつもはね、みんなで帰るの、みんな私のおうちの前まで来てくれて、バイバイするの。」

「そうなんだ。」

「だから、あなたも来てくれるでしょ?」

「何言ってるの?行かないよ、私こっちだし。そろそろ帰らないと怒られちゃう、じゃあね。」

ナナは恐怖を感じた。犬のときとは比べられないほどの恐怖。守ってくれる人は一人もいない。初めての一人ぼっち。

「大丈夫、大丈夫よね。」家まで50m。肩を震わせて家に着いた。玄関にたどり着いた時、言葉には表せられない達成感と安堵感が心を満たし、今までで一番楽しい帰り道だった、と心から思うのであった。

「ただいまー。」

両親が慌てて玄関先までやってきて、

「ナナ、大丈夫?どこも怪我してない?」

「膝、怪我しちゃったけど、大丈夫。今日ね、すっごく楽し・・・。」

「大変!すぐお医者様へ行きましょう。全く何してるの、あの子たちは!あなた!ナナが・・・。」

それから数日、帰りの会が終わると2人急いで、逃げるように帰った。いろいろなことを教えてくれる。おいしいケーキ屋さんのこと、縁側に潜む変な虫のこと、怖いお兄さんがたむろしているコンビニ、そのお兄さんが逆らえないお店の店長さん、たくさんの野良猫が集まる小さな公園のこと。

虫に刺されたり、猫にひっかかれたり、友達は守ってくれないけど、少しずつ「守られる」ということがどういうことなのかを理解し始めていた。

ある日「ごめんね、一緒に帰れなくて。」と、友達から謝られた。自分が反抗して帰っているのになぜ謝れているのか、全く分からなかった。

「今日もあの子と帰るんだ!」ここ数日の帰り道が楽しかったせいで、今日もあの子との帰りが待ち遠しく、ワクワクしていた。

「あさみちゃん、今日も一緒に。」

「ごめん、今日はダメなんだ。」

「なんで!一緒に帰ろうよ!」

「ごめん。」

「なんで!」

「あなたのお母さんに言われたの!一緒に帰らないでって。あなたはナナの友達じゃないって。」

涙を浮かべて叫ぶあさみは、そのままこちらを振り向きもせず帰っていった。


「どういうこと、お母さん?あさみちゃんとは友達じゃないって。」

母に初めて疑問をぶつける。

「どういうことって、ナナを守ってないんでしょ、その子。そんなの友達じゃないわ。」

「違うのよ、お母さん!私が知らなかっただけで。」

「いいのよ、ナナ。あなたは何も知らなくていいの。お母さんとお父さんが守ってあげる。友達も選んであげる。あなたは何にもしなくていいの。」

「友達を選ぶ?みんな、やさし・・・!」

そう、ナナは自分から誰かに話しかけたことがない。いつも誰かから話しかけてくれて、知らず知らずのうちに全てから守られていた。それが友達だと思っていた。それが今、母の一言により、友達すらも両親が選び、自分と引き合わせたのだと理解した。

「あさみちゃんは友達だよ。私の初めての友達なの!」

「ナナ、いいの無理しなくて。あの子はあなたを傷つけた、それのどこが友達なの?」

「友達は、いっぱいいろんなことを教えてくれる。今までで一番楽しかったもん!」そういうと、ナナは家を飛び出した。

50mで恐怖していたナナは、そこにはいない。

あさみちゃんに謝りたい。

その一心で走っていた。

息を切らせながら着いたのは学校。途中、何か生き物の影を見た気がする。なぜ学校かというと、まだ家から学校への道しか知らないからだ。

「あさみちゃんに、今度教えてもらわないと。」

誰もいない校舎。物音一つしない教室。自分の机に座って、涙を流す。浮かぶのは、最初に会ったあさみの顔。今、ナナは同じ顔をしていた。

「大丈夫?」声がした。

ビックリして、顔をあげて声のする方へ顔を向ける。

「大丈夫だよ。ありがとう。」ナナは笑顔になった。

「友達」だった。

そして、友達がこちらへと飛んできた。

ナナと重なり、そして椅子ごと2人は倒れた。

扉の方を見ると、今までナナを守ってくれていた人たちが、笑顔で立っていた。

「ナナちゃん、みーつけた。」

「ナナちゃん、一緒に帰ろう。」

「私たちと一緒にいれば、安全だよー。」

「僕がナナちゃんのこと、守ってあげるよ。」

「帰ろ。帰ろー。帰ろうよー。帰ろー。帰・・・かえ・・・。」

ナナは、今までにない恐怖を感じた。犬が来たときにも、一人で帰った時にも、感じない恐怖。人の恐怖。

「きゃあああああああああああああ」叫んだ。

「ナナちゃん、私がナナちゃんを守ってあげる。だから、逃げて。」ぎゅっと抱きしめ、そのままナナに背中を向けるあさみ。

「なんで、今まで守ってくれてなかったじゃん。」

「ナナちゃん、誰かを守るって、大切な時にしかしちゃいけない気がするの。それまでは自分で自分を守らなきゃって思うんだ。そうしないと、大切な時に大切な人を守れない気がするから。あの日、声をかけてくれて嬉しかった。ナナちゃん、私はナナちゃんに救ってもらったんだよ。」

駆け出すあさみの背中を見て、どこか遠くへ行ってしまう。そんな気がした。

あさみを中心に世界が変わる。いや、もっと奥から世界が変わる。今まで一緒にいた人たちを中心に、世界が変わっていった。たくさんのリボンが飾られた扉の中へ、あさみが入るのが見えた。

ナナも駆け出す。

間に合わなかった。

みんな消えてしまった。

「あさみちゃん!あさみちゃん!」

ナナの声だけが響いた。

「私どうしたらいいの。あさみちゃんがいなくなっちゃった。嫌だよ。あさみちゃんともっと仲良くしたい。」

「どうしたんだい?」声がした。

白くて、つるりとしてて、柔らかそうで、赤い目をした生き物が目の前にいた。

「あー、これは魔女の世界に入っていってしまったみたいだね。」

魔女の世界?何を言っているかわからない。それにこの生き物、今まで見たどんな生き物とも違う、恐怖を感じない。それに喋ってる。

「僕はキュウベェ。僕と契約して魔法少女になってよ。」

魔法少女?

「君の友達は、魔女の世界に入ってしまったようだ。救うには魔法少女になるしかない。ひとつ願いを叶える代わりに、君は魔法少女となり、魔女と戦うんだ。」

「あさみちゃんを救えるの?」

「ああ、もちろん。君が魔法少女になれば、君の友達あさみちゃんを救えるだろう。君にはその素質がある。」

「どうしたらいいの?どうしたら、魔法少女になれるの?」

「願い事を叶える代わりに、魔法少女になってもらう。それが僕と契約する方法さ。」

「わかった。なる。あさみちゃんを救えるなら、魔法少女になる。」

「了解した。さて、君はどんな祈りをするんだい?」

ナナは思い出す、あさみの言葉を。

誰かを守るって、大切な時にしかしちゃいけない気がするの。それまでは自分で自分を守らなきゃって思うんだ。そうしないと、大切な時に大切な人を守れない気がするから。

「自分を守る。それが私の願い。」

「契約は成立した。今日から君は魔法少女だ。」

ナナの胸のところが光り、濃く深い青のソウルジェムが現れた。

「これは?」

「それはソウルジェム、魔法少女にとって大切なものさ。絶対に手放しちゃダメだよ。」

「わかった。」

ソウルジェムを手に取り、形でぎゅっと握りしめた。

瞬く間に濃く深い青に包まれたナナは、自分を守る祈りがそのまま反映された、大きな手甲を付けた姿へと変えた。

魔法少女になり、今まで目に見えなかったものが見えた。

たくさんのリボンが飾られた扉。

あさみが入っていった扉。

バチン!

目の前で手甲を打ち付け、中へと入っていくナナ。

小さな円盤、ターバンが巻かれ誰かの顔が描かれたノコギリ。たくさんの生き物がそこにはいたが、全てを薙ぎ払うように前へと進むナナ。

ひときわ大きな扉の前まで来るのに、それほど時間はかからなかった。

「あさみちゃんはどこ!あさみちゃーん!」

扉に入ってからずっと叫んではいるが、返事が返ってこない。

「無事でいて、あさみちゃん。」

扉を開ける。

とても広い部屋に来た。どうやらここが最奥らしい。

辺りを見回した。

コインが積み重なった大きな生き物が、身体のコインをすり合わせる音を響かせながら、こちらを振り向いた。

それに向かう少女が一人。

「あさみちゃん!」

ここの魔女の世界と現実世界は、それぞれ異なった時間の中にあるようだ。

しかも、異なった部屋であればさらに時間軸は変わる。という厄介な場所。どうやらこの場所は、魔法少女になり、ここまで来るのに使った時間とは関係なく、あさみが扉へ向かった瞬間、その時間に魔法少女ナナが入った。

コインの生き物たち。

その人数は、偶然にもこの魔女の世界に入る前にナナを探しに来た人数と一緒、だった。

叫びながら、震えながら、コインの生き物たちに向かうあさみの前に、ナナが背中を受け立ちふさがる。

「あさみちゃん、ここはまかせて。」

「ナ・・ナ・・・ちゃん?」

両手の手甲をバチンと打ち付け、気合を入れるナナ。

ガゴン!1人。

ギーン!2人。

ギリギリ、ガン!3人

次々に、コインの生き物たちを倒していくナナ。

「これで、最後!」

泡となって消えていく最後のコインを倒し、あさみのほうへ向かうナナに対し、

「後ろ!」あさみが叫んだ。

そこには、豚の貯金箱の頭がなく、そこから大きな腕が生えている、巨大な「なにか」が立っていた。

「魔女だ。」いつの間にか一緒に来ていたらしい、キュウベェが話す。

「この世界は、こいつが作り出した世界だ。魔女は、人間をたぶらかして、いくつもの事件や事故で誰にも気づかれずに人を殺してしまう。こいつを倒さなければ、もとの世界に戻れないよ。」

「わかった、倒す。」

「とぉりゃあああああああああ」向かっていくナナ。

手甲が光る。まばゆい光を放つ。

光が収まるころには、目の前の魔女を凌駕する大きさのガントレット。それはもう、ナナ自身をも守るよう姿でもあった。

「うわ!何このでっかいの!」

「君の武器、魔女を倒すために君が生み出した技だよ。さあ、それで魔女を倒そう。」とキュウベェ。

狙いを定める必要などなく、拳を全力で前に押し出す。肘のところから、ジョット噴射のような炎が上がり、目にもとまらぬ速さで前に押し出された拳は、魔女を粉砕していた。

「最初から、これ使えばよかったじゃない。」

「まだ、魔法少女になったばかりなのだからしょうがないさ。」

世界が歪む。ナナたちは、元の世界に帰ってきた。

ナナも魔法少女の姿から、制服に戻っていた。

「あさみちゃん!」

ナナはあさみのほうに駆け寄り、「大丈夫?」と声をかけた。

「大丈夫だよ、ありがとう。」

カラン。音がした。そこには黒い種のようなものが残っていた。

「それはグリーフシード。ナナ、ソウルジェムを見てごらん。」

変身した時の透き通るような色とは違い、少し濁っていた。

「魔法を使うのは無限じゃない、ソウルジェムが濁ると魔法が使えなくなってしまうんだ。それを元に戻すのが、このグリーフシード。あと3回は使えそうだから、1度試すといい。」

言われるがままに、ソウルジェムにグリーフシードを重ねる。濁りが吸いこまれていくように、グリーフシードのほうへ移っていき、また透き通るような濃い青のソウルジェムに戻っていた。

辺りは夕暮れ。あれだけのいろいろなことをしていたのに現実の時間は、わずかしか経過してなかった。

「あさみちゃんが無事でよかった。」

「私もナナちゃんが無事でよかった。でも、いいのそれ。」

ソウルジェムが変化した指輪を指した。

「うん、いいの。だって、あさみちゃんを守りたかったから。それに自分自身を守る。という願いだから、私も大丈夫になったし。」

「大丈夫って?」

「私、家に帰らない。ううん、帰れなくなっちゃった。」

「え?何があったの?」

あさみに話した。あったこと全部。

「ごめんなさいしても、ダメ?」あさみが聞く。

「うん。それに、自分で自分を守るって願いは、私自身も変えたんだよ。わかるの、あそこにいたらダメだって。」

あさみの家まで送り返して、どうしようか。と悩む。

野宿などしたことがない。魔法を使うこともできるが、それをするには自分の良心が許さなかった。

途方に暮れていると、「ナナ」と声をかけられた。

「お父さん。」会社帰りなのだろう、少し疲れた表情をしていた。

ナナは、安心していた。そこは家族だからだろう。でも、家には帰りたくなった。意を決して「ねぇ、お父さん。」

「家には帰りたくないんだろう。すごい剣幕でお母さんから連絡があったよ。」

「ごめんなさい。」

「いや、謝るのはお父さんだ。ナナ。仕事が忙しいのをいいことに、お母さんにナナを押し付けてしまった。君を守る一心で、あんな風になってしまった。お父さんも一緒にいてあげられたら。」

「遅いよ。」

「そうだな。」

沈黙が続く。

決意したかのように、ナナのお父さんが口を開ける「ナナ、ほんの少しだけ我慢してくれないか。そしたら明日、お父さんが唯一できることをしよう。君を傷つけてしまった償いをさせてほしい。」

ナナは、お父さんの言葉に頷くしかなかった。それしかできないほどの気持ちが、伝わってきたから。

家着いてからは、散々だった。喚き散らすお母さんの言葉。聞くに堪えなかったが、ナナはちょっとだけ魔法を使った。音を聞こえなくする魔法を。

翌日、お父さんと出かけたナナは、一人暮らしを始めることとなった。お父さんは「お母さんになんとか言っておく。」と一言言い、書類を整理していた。


「えー、ナナちゃんが引越しすることになりました。」

学校の先生が朝の会で話す。事前に、あさみには伝えていた。自分は魔法少女。自分がここにいたら、またあさみちゃんが襲われるかもしれない。だから、離れる。そう伝えた。悲しそうな顔をした「立川あさみ」だったが、素直にうなずいた。



「とりゃあああああああああ」

大きなガントレットに形を変えた手甲が、使い魔に向かって振り下ろされた。

ガギーン!!!!!!!

鉄が潰される大きな音が、辺り一面を包み込んだ。

巨大な鉄格子は潰された。紙のように薄く、引き伸ばされた鉄格子。土煙をあげながら。

「はぁ、はぁ。くっ、はぁはぁ。」

疲れ果てているナナ。かろうじて立っているその顔は、苦痛にゆがんでいた。

「戻らない。世界が戻らない。どういうこと!」

土煙の向こうから、ドスン!ドスン!ガギーン!ガギーン!

巨大な何かが歩く音、鉄が地面に叩きつけられる音、その両方が聞こえてきた。

「う、嘘。」

そう、鉄格子は単なる鎧でしかなかった。

ナナはもちろん・キュウベェでさえ見向けなかった魔女。

巨大な筋肉の腕。そこに繋がる手錠。図太い脚。繋がる鉄球。

身体はあるかどうかも分からない。

ナナの目の前に、悠然と立っているのだった。