魔法少年もとくん☆マギカ       第4話「キャパシティ」

「さ!今日も特訓するわよ!」

高架橋がある河川敷で、今日もナナの叫び声が聞こえる。

「はい!」

元気のいい声がした。

 「それじゃあ、まずは変身から。」

そう言うと間もなく、ナナの体が光り、両腕にガントレットを付けた魔法少女スタイルに変わった。

 「よし。」両方の拳を合わせ、ガチンと音を鳴らせる。

「それじゃ、もとくんも。」

「うん。」

もとくんも同じように、先ほどのナナと同じように光り、魔法少年状態へ。

 本を開き、

「おいで!」とひと声かけると「メェー」

一匹のひつじが、飛び出した。

 「それがあなたの『力』ほかに何か呼び出せたりする?」

ナナが質問すると、ページをぱらぱらとめくり、首を横に振るもとくん。

「だめみたい、このひつじだけっぽいね。」

 「そう。何かひつじを使ってできそうなことは?」

「ちょっとやってみる」

そう言うとひつじの横に立ち、河川敷の放置されているドラム缶に向かって指を指した。

 「さあ、モトナ!あれを攻撃するんだ!」

「・・・・・・メェ?」

「ん?行け!モトナ!」

「メェ・・・。」

「あ、あれ?」

「モト・・・」

「ちょっ、ちょっと待って!」ナナが間に入った。

「ねぇ?もとくん。その『モトナ』ってなに?」

ナナが質問をすると、不思議そうな顔をしたもとくんが答える。

「え?名前だけど?このひつじの。」

「名前なの?もっと他になかったの?あんた男の子でしょ。もっとかっこいい名前に。」

「えー、いいじゃん。僕とナナの名前を取ったんだよ。」

少し照れた表情のナナ。

頭の上に大きなハテナが見えるくらい、不思議そうにするもとくん。

「まあ、いいわ。それで。で、モトナは何かしてくれそう?」話題を変えようと、話を促すナナ。

「めーぇ」大きな欠伸をするひつじ。

「なんにもしてくれなさそうだね。」残念そうにするもとくん。ナナの戦闘を見てから、自分も!と思ったのだけど、助けになれないことが何だか悔しかった。

 この特訓は、一週間前にナナの手紙から始まったことだ。

「もとくん宛に、手紙来てるわよー。」もとくんの母ちゃんが、手渡してきた手紙。

 「もとくんへ」と書かれた手紙には、こう書かれていた。

『もとくんへ。

手紙では、はじめまして。ナナと言います。先日は、挨拶もなしに帰ってしまってごめんなさい。それに気が立っていたのもあって、少し厳しめの言葉を使ったかもしれません。まずは、謝らせてください。本題なのですが、私はあなたと同じ、厳密にはあなたは男の子の魔法使いなわけですが、私は魔法少女です。知ってますよね?で、この世界には魔女と呼ばれる悪いものがいます。魔法少女はそれと戦い、世界を守る必要があります。あなたには魔法少女・・・いや、魔法少年となって、私と同じように魔女と戦う使命が与えられました。それが祈りの結果です。まだ、あなたは魔法少年になりたてで、わからないことがあると思います。一緒に特訓したり、魔女と戦ったりしませんか?返事はキュウベェに渡してください。お願いします。PS・あなたの名前は、あさみちゃんが言っていたのを聞きました。あさみちゃんと仲良くしてくれてありがとう。』

  その手紙を読み、魔法少年になったのはいいけれど、これからどうしようか迷っていたこともあって、お願いしようとした時、

 「やあ、もとくん。ナナの手紙を読んだみたいだね。」

どこからともなく、キュウベェが現れた。

「急に出てこないでよ!びっくりするじゃん!」

「もとくんは、どうするんだい?ナナの申し入れを受け入れるのかい?」もとくんの意見などなかったように、質問をする。

「これからどうしていいかも分かんないから、ナナさんの申し入れは嬉しい。お願いしますって伝えといてくれるかな?」

「うん、わかった。じゃあ、行ってくる。」

早いなー。と、唖然としながら、もとくんはキュウベェを見送った。

「もとくん。」

布団で横になってたもとくんは飛び起きた。辺りをきょろきょろ。誰もいない。

「何やってるの?窓から外、見なさいよ。」どこかで聞いたことのある口調と声。恐る恐る窓からのぞいてみると、そこには、女の子がいた。

「やっと見てくれたわね。今テレパシーってやつ使ってるから、頭の中で私の声が聞こえるはずよ。びっくりしているようだけど、すぐに慣れるわ。早速特訓行くわよ。」と、ナナが誘ってきた。

急いで準備をして「ちょっと出てくるね。」と、もとくんは母ちゃんに言い、ナナと練習へ向かった。

「ところで、ナナさん?」

「ナナでいいわ。私、堅苦しいの嫌いだし、手紙ではちゃんと書いたけど話し方こんなんだし、気軽でいいわよ。もとくん。」

「そっか、わかった。でね、ナナ。一つ質問なのだけど・・・。」

「ええ。なに。」

「手紙でね、あさみちゃんと仲良くしてくれてって、書いてあったのだけど、どういうこと?立川さんとは、昔からの知り合い?」

「んー、まあいいわ。もとくんにだったら、話してあげる。」

そう言うとナナは、自分が魔法少女になった経緯について話した。

 「そんなことがあったんだ。」立川あさみからは、何も聞いてこなかったし、幼馴染でもあるのに、全く知らなかったことがちょっぴり悔しかった。今度会った時にでも、その時のこと聞いてみよう。と思う、もとくん。

 「ええ。まあ、あさみちゃんはどう思っているかはわからないけど、私は元気そうな彼女を見て、嬉しくなった。その隣にもとくんがいたからだと思うと、感謝だわ。」

 「普通に遊んでただけで、話していただけだけど?」

 「それでいいのよ、普通が一番だわ。こんな魔法少女にならないほうが、ね。そんなことより、今日から特訓してあげるから、付き合いなさい。強くなってもらわないと困るの。」

「わかったよ。」

そんなやりとりがあり、現在に至る。

 攻撃をするわけじゃなく、自分を守ってくれるわけでもない。このひつじにできることは、ソウルジェムの穢れを吸収できる能力。グリーフシードと同じことができる。この能力は他の誰にも知られてはいけない。さらには、もとくんのソウルジェムの輝きと交換。と言ったところだ。穢れを吸収できるとは言っても、無限ではない。吸収した穢れは、もとくんのソウルジェムへと流れ、もとくんのソウルジェムが濁る。そして、限界がある。もとくんのソウルジェムが完全に穢れてしまったらどうなるかは2人にはわからなかったが、そうなる前にグリーフシードでもとくんのソウルジェムを戻さなければならない。

と、ナナは分析した。

 「ねぇ、どうしてみんなに知られちゃいけないの?」と、休憩の合間に、もとくんは、疑問をナナに投げかけた。

 「そんなこともわからないの?あのね、もとくんの能力はグリーフシードと一緒なのよ。穢れが溜まれば、魔女と戦えなくなる。魔法を使えば、穢れるからね。グリーフシードは魔女しか落とさないから貴重なのよ。その貴重なものが、何度も使える能力として目の前にあったら、喉から手が出るくらいほしいはず。使い捨てにされるわ。」

 「そうなんだー。」

 「そっ、だから誰にも知られちゃいけないの。」

 「だったら、ナナも同じように使い捨てに・・・。」

 「あんたね、私のことを信じてないっていうの?」

ナナは少し、怒った。

「いや、そういうことじゃなくて・・・。」

 「じゃあ、どういうことなのよ。私は、あんたに感謝をしてる、あさみちゃんの件でね。だから、秘密にしといてあげる。誰にも言わないであげる。」

 「ありがとう。」ともとくんは、ナナに感謝した。

 「いいわよ、別に。当たり前のことなんだから。」ナナの怒りは収まったようだ。

 安心したもとくんは、一言。

「ナナのソウルジェムが濁ったら、その時は僕が浄化するね。秘密にしてくれるお返しに。何度でもいいから。」

少し照れるナナ。

「馬鹿じゃないの!でもまあ、その気持ちはありがたく受け取っておくわ。さ、休憩終わり、続きするわよ。」

「うん!」