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(序)臆病なAD、街へ出る。 -文月悠光さんの「詩をつくる教室 言葉のレッスン」

 ことばを書こうとする手が動かないのは久しぶりだった。生まれて初めて<詩>を書こうとしていた。何を詩にするか、そもそも何を持って詩とするのか。その両方が分からない。ペンを握りしめるだけの思考停止状態に入っていた。

 なぜ詩を書こうと思ったか。それは詩の講座を受けることにしたから。なぜ講座を受けるに至ったかは、詩人・文月悠光さんのエッセイ『臆病な詩人、街へ出る。』が面白かったから。本を読み終えた1週間後に文月さん本人による詩の講座があると知り、直感的に申し込んだ。ただ、届いた確認メールに思わぬことが書かれていた。

 講座開始時間までに自由題の作品を会場のBOXに提出して下さい。

 ここで勘違いに気づく。てっきり講座を受けながら詩作に励むものと思っていた。案内をしっかり見ずに応募した結果、白紙をひたすら見つめることになってしまった。それにしても、自由題とは……。優柔不断、無味無臭な私にとってこれほど難しいものはない。

 『臆病な詩人〜』はタイトルの通り“臆病”な文月さんがあえて初めてのことに挑戦しながら<社会>や<人>と向き合っていくエッセイ。無趣味でことなかれ主義というか……読めば読むほど自分のことかと思った。十代で現代詩手帖賞と中原中也賞を受賞したプロの詩人と自分を重ねること自体おこがましい。ただ、<未知>に立ち向かう文月さんの姿が恰好良く、自分もそうありたいと思った。詩を学べば、今までの景色が違って見えるかもしれない。

 講座の前日、つくった詩を提出しに行った。教室は入ったこともないような都心の高層ビルの中、まさに<街>のど真ん中にある。しかし受付カウンターに行っても肝心のBOXが見当たらない。フロントを3周ほどうろちょろして不審者と化したころ、職員に訊いた。

「あの……講座の作品を提出しにきたのですが」
(詩だと言えなかった)

「何の講座ですか?」
「これです」と、また<詩>と口にできずにスマホの確認メールを見せた。noteに投稿しておいて何だが、詩を書いたこと、詩の講座を受けようとしていることへの気恥ずかしさをどうしても拭えなかった。「詩の講座? お前が?」という自意識が作動する。

 職員Aが職員Bに「の講座のBOXって……」と声を掛ける。首を傾げる職員Bが職員Cに「の講座のことでお問い合わせが」「え、?」。し、し、し……。目の前で展開される、今もっとも聞きたくない一文字のリレー。

「作品は当日用意されるBOXに入れていただきます」。ここで、もう一つの勘違いに気づく。

講座の直前に出すと講師が作品に目を通す時間がない→なるべく早く提出しなきゃ→前日に出そう!

 職員3人を巻き込んだ勘違い野郎。張り切りすぎたイタい奴になっていた。

「あした来ます」

 臆病なAD、街を出る……。

×     ×     ×

 当日は1日中そわそわしていた。詩の講座とはどんなものなのか。教室の広さ、人数、年齢層、男女比、そしてレベル。1週間前に文月さんのエッセイを読み、それから18歳で中原中也賞を受賞された詩集を読んだ。数日前に初めて詩集を買うような圧倒的初心者がいていい場所なのか。

 緊張するからギリギリに行こうと思ったのに、30分前に着いてしまった。フロントに行くと、きのうはなかったBOX(というかトレイ)が。A4用紙一枚にしたためたことばを、そこに託す。ただ、先に提出された紙が目に入ってしまった。裏返しで何が書かれているかは見えないものの、びっしり詰め込まれたことばが透けていた。自分はその三分の一ぐらい。この、文字数に物怖じする臆病さ。

 早く教室に行けば沈黙に耐えられなくなる。フロントで時間を潰して5分前に入ると、もうほどんどの席が埋まっていた。19人が申し込んだらしい。20代から中年ぐらい、男女もばらばら。失礼ながら、カルチャースクールはお年寄りが多いと思っていた。でもそれは偏見で、特にこの詩の講座からは若い人こそ発したい言葉を持っているのだと感じた。

 最後に、女性が一人恐る恐る入ってきた。時間ギリギリに着いて気まずそうにしているのかと思いきや、その方こそ文月先生だった。

つづく


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こだい

何かをする理由は「好きだから」で充分/エッセイと詩と短歌

臆病なAD、街へ出る。

ハイパーことなかれ主義の私でも、ときどき何かに立ち向かう。
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