道路

Medical Crime in 2117  プロローグ

 2117年。世界はひとつの国家となり、ここは日本District(日本地区)となった。経済は世界統一ルールで動いている。個人にはBI(ベーシックインカム)として通常暮らしていくに十分なクレジット(マネー)と電力、水の付与がある。しかし、政府は今なお地区それぞれにあって、地区ごとの政治が行われている。とは言え社会はIT(Information Technology)がほぼすべてを担っていると言っても過言ではない。

  日本地区の中心は50年前に新しく建設された都市でその中央部はシティと呼ばれ端から端まで40kmくらいの大きさがある。その外側に戸建て住宅地域が広がっている。このシティの中心から幹線道路は放射状に延びている。日本地区の人口約7,000万人のおよそ半分がこの巨大な都市に集まっている。シティの辺境部には農業地域、工業地域、港湾地域、飛行場、レクリエーション地域などが置かれ、ここへはシティからの地下高速がいち早く整備され、30分ほどで行くことができる。地下高速は基本有料である。

  電力はシティの地下及び東山丘陵地の地下約10,000mに造られた地熱発電所のいずれかが必要電力の8割を供給する。その他、風力、水力、太陽光、日本近海で採掘される固形ガス燃料による火力発電などの小規模発電所もある。世の中はユニバーサルデザインで統一され、通信は72基の通信Wi-Fi衛星が地球全体を網羅している。交通はリニアが主流となった。10才に達すると政府から個人用の移動用車両「VOCS(Vehicle of Cells)」通称ボックスが与えられる。幅は定められているがその長さはCellを繋げることによって伸ばすことができる。その年齢に達するまでは二人乗りが許されている。ボックスは並列に2台繋ぐことができる。地面には建物があるところ以外には基本的に電磁気シートが、幹線には電磁気ケーブルが敷かれている。幹線の最高移動速度は250km/h。リニアの完成形といわれる高温超電導による地下高速は500km/hに達する。移動用車両はボックスの他にもボックスを2台並べた幅のある荷物運搬用ボックス、緊急車両ボックス、また蓄電池、ガス燃料を用いたオフロード車両、ヘリコプターなど航空機もある。 

 シティ、ここにはあらゆる施設が集中し、高層ビル、共同住宅が立ち並ぶ。住宅はシティの外側にある戸建て住宅と、どちらにするかは選択できる。住宅は一人で暮らすには十分なキューブが単位とされ、必ず一人に1キューブが付与される。さらに人それそのグレードによってキューブの個数と地域が割りあてられる。これの売買はできない。一方、電力や水の売買は可能とされていて、日々相場が変化し活発な取引が行われている。住宅部分には地中深くにまで柔軟で強靭な杭(QUI)が埋められており、地震から命や財産を守ってくれる。その杭の一本一本はIDを持っている。一方キューブにもそれぞれIDがありボックスと同じシステムで任意の位置へ移動する。共同住宅は基本的に100から120階建てと定められている。キューブの移動は建物中央部に設けられたキューブ用エレベータによる。キューブはチューブと呼ばれるインフラと繋がれる。インフラのメンテナンス作業や運搬、清掃などはレプノイドと呼ばれるAIロボットが担っている。作業を行う多様なD3というロボットと家庭内で家事をこなしたり人間同様に働くものがある。後者は人間と見分けがつかないほど精巧である。これらのレプノイドはダイゴナスティックという自己修復システムを備えており、基本的に故障はしない。レプノイドは人を故意に殺すことはできない仕様になっている。 

 個人の情報はすべて、生まれた時に政府から付与されるリングに収められている。自己の証明、位置確認、通信、ヴァーチャルコンピュータの利用、買い物から家の鍵の解錠、写真、動画撮影などすべてこれひとつで行えるが、リングがなければ何もできないということでもできる。

  警察本部はこのシティの中央部にある。人事権はその部署の長に一任されており、補充は自由に行われる。基本的に仕事への就職、離職は自由だが1年以上離職の状態が続くとグレードが下げられ、住居が不便なところに定められたり、キューブが減らされるなどの不都合が生じてくる。しかしあくまでも個人のライフスタイルは自由で、働くことを強制されることはない。また病院、学校等を含む公共施設の利用は無料である。特捜班が解決した昨年のテロ事件で主要な役割を果たしていたのが警察に於いて犯罪捜査を行うはずの警護課で21名の逮捕者を出すという大失態だった。そもそも権限の大きい警察への世間の風当たりはキツくなった。大崎蔵人、通称クロードは政府、警察省直属の特捜班の班長で部下6名を率いている。特捜班の定員は30名。警察本部ビルは地下9階、地上120階建て。以前はインフラメンテナンスの会社が所有していたものだが、インフラのAI“R”への一元化に伴い廃止された。特捜班は63階の1フロア。犯罪捜査を行う警護課は30から35の6フロアを占めている。地下1階には医務室があり、検死解剖などはここで行われる。定員1名。地下2階には様々な科学的検査を行うラボがある。定員12名。この2フロアをまとめてラボと呼ばれることもある。警察本部が使用しているのは地下3階までで、そこから地下9階までは情報省の管轄となっている。地下7階にIT管理室があり、世界コンピュータ“R”によりすべてのITの中枢を担っている。定員2名。クロード刑事率いる特捜班は警察内部でも一目置かれる存在となっている。主要なメンバーはクロード以下ポリスこと山階逸郎とカジこと梶原一希。特捜班にまた新しい事件の捜査が命じられる。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?