POLICE in 2117 2-12

 2-12、行員の追跡①

 警察本部に着いて3人と共に管理室に出向いた。

「おはようございます。今日は山田さんですか」

「おはよう。何をしてほしいんだ?」

「はい。車の追跡です。ここにポリスが残りますから“R”と連携して行き先を突き止めます」

「ああ、おれは何もすることないってことか」

「まぁお目付役ってことで」

「自由に使ってくれ」

「はい。じゃ“R”今日はよろしく頼むな」

「はい。かしこまりました」

9時前にクリスタルバンクの通用口から半ブロックのところに梶原と2人で待機した。金塊とはいえ2kg。かさ張るもんでもない。誰が持って出るのかわからない。ジリジリとした時間が過ぎていく。

10時10分。1人の行員が通用口から出てきた。

「よし、おれが行く」

「フォン、ポリス」

「はい」

「来たぞ。追跡を頼む」

「了解です」

行員のボックスはシティの中心から離れて西へ西へと向かっていく。10分ほどのところで停止した。目的地は銀行のATMだ。

「これは違うか」

どうやらコインの補充らしい。さすがにコインは電気では送れないか。ここは見切りをつけてクリスタルバンクに戻った。

梶原はいなかった。次に出たの後を追っている。

梶原からフォンだ。

「どうした?」

「雑居ビルに入って行きました。どうしましょう」

「そこにはどんな会社が入ってる?」

「はい。なにやら宗教団体らしいものや、ダンススタジオ、カフェ、雀荘もあって・・・」

「よし、とりあえず鼻歌を歌いながら入っていけ」

「はい」

昼になった。行員がちらほら出てくるが特に使命を帯びている感じはない。だいたい銀行を訪れるのは借金にくる人に限られている。お昼もゆっくり取れるわけだ。それに混じって黒いバッグを大事そうに抱えた男が出てきた。こいつだ。

「フォン、ポリス」

「はい」

「追跡を頼む」

行員のボックスはシティの中心部に向かっている。細かく右折左折を繰り返し、大通りに出るとボックス専用のカフェに停まった。そのすぐ後に女性が乗ったボックスが現れ、行員のボックスに接続した。何やら二言三言交わして、行員は女に何かを渡した。すると行員はすぐにボックスを離して動き出した。

「フォン、ポリス」

「はい」

「今、行員のボックスが動き始めた。銀行に帰るかどうか追ってくれ。おれは会った女を追う。こっちも追跡を頼む」

「梶原が建物から出てきません」

「そうか、ここが片付いたら向かう」

女は西へと向かっている。そして住宅街の中の病院に入った。病院でなにがある?病気ではなさそうだが。

女はどうやらここの職員らしい。表に回って職員名簿を閲覧するか。

こじんまりとしたこの病院はどうやら再生医療専門病院らしい。

病気やケガでダメージを受けた臓器やその他組織をiPS技術を使って自己細胞の再生を施す病院だ。

「すみません。警察です。職員名簿を閲覧したいのですが」

綾香がいる。

「あ・・」

そこに親しげに近づく40才くらいの男が綾香と思しき女の肩に手を置いた。あれは綾香じゃないのか。右眼と口しか出ていない、緑色の遮光カバーが顔中を覆っている。しかし、綾香にしか見えない。

彼女の右目がおれを捉えたがそのまま素通りしてしまった。違うのか。おれを忘れるはずはない。

「すみません。あの患者さんは?」

「はい。大澤しずかさんです」

「どんな治療を?」

「交通事故に遭われて身体の左側、両腕、左上半身を再生しています。経過は順調です。総合医の君島先生のお連れ様です」

「そうか、大澤しずか」

やはり別人なのか。いや、あれは綾香に違いない。

「綾香、待ってくれ」

綾香はこちらを向いたが特に驚いた様子もない。しかし側にいる男は明らかに動揺している。

「おい、待ってくれ」

男は綾香をボックスに乗せると急いで走り去った。

「いったい、どうなってるんだ」

しかし今日は仕事に専念しよう。病院に戻って職員名簿を見ると女は松浦聡美医師とあった。

「松浦聡美医師に面会したいのだが」

「少々お待ちください」

なにやら連絡をとっているらしいがここまで聞こえてこない。

「松浦先生は午後の診察がありますので10分だけならお目にかかると申しております。美容整形の相談室にどうぞ」

そこは廊下の突き当たりを右に曲がった更に突き当たりにあった。

「失礼します」

「はい。あら、やけに美形の警察の方ね。ご用は?」

「それでは手短に。クリスタルバンクの行員とお会いになった理由と、受け取った物は何かをお聞きしたい」

全く動揺した様子はない。

「あら、よくご存知ね。彼は私の夫でした。私が家を出ましたので権利関係を確認しているところです」

「で、何を受け取られました?」

「私の私物の貴金属です。指輪とかピアスとかね。ご覧になりますか?」

「それなら結構です。権利関係の確認とは?」

「彼、私のクリスタルバンクの口座から勝手に流用してたのよ。それを元に戻させるってことね」

「はい。筋が通ってますね。ありがとうございます。ひとつ伺ってもよろしいですか?」

「はい。なんでしょう」

「君島医師はどんな方ですか?」

「君島先生ね、優秀な医師ですよ。ずっと1人でいらしたけど、最近はお二人でいらっしゃるみたいね。特に悪い噂はありません」

「そうですか、ありがとうございます」

「あなたは誰かいらっしゃるの?パートナー」

なんとも微妙な質問だ。

「はい。私は」

「そうよね、いい男はだいたい誰かのものよね」

「君島医師のお連れの方のことはご存知ですか?」

「はい。大澤さんは私の患者さんよ。私が再生のお手伝いをしたの。すっかり元通りになるわよ」

「彼女の記憶に問題は?」

「よくご存知ね、記憶と言語障害があるの。脳は触れませんからね」

「やはりそうですか。わかりました。ありがとうございます」

「彼女にフラれたらまた来てね」

「はぁ、その節は。ではこれで失礼します。お忙しい時に申し訳ありませんでした」

「いえ、いいのよ。ああやってもったいぶってるだけだから。またいらっしゃいね」

「はい。ありがとうございます」

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