見出し画像

C62と紅蓮の炎

のんびり余生を過ごしているおじいちゃんだが‥‥

今は、梅小路鉄道博物館で、のんびりトロッコを引いているC62が
複々線の東海道線をマジ本気で走った時のお話。


昭和47年 白鷺号

みんな線路に降りてお祭り騒ぎ
複々線を快走
あれから、もう50年経つのか。

昭和47年10月、梅小路機関車館の開館に伴い動態保存としてC62が北海道から呼び戻された。
いよいよお披露目ということで、C62の牽引で京都、姫路間を「白鷺号」として運転されたのだが、その後計画されている動態運転への試金石でもあった。
編成は、当時最新鋭の12系客車12両。
特急つばめ、急行ニセコを牽引したC62にとっては、久しぶりの晴れ舞台といったところか。
だが、その当時でも東海道線は秒単位で電車が行き交う、高速かつ高密度の路線だ。
故障や遅延は避けたい、が、問題は機関車よりも、線路に入って撮影している連中だった。

乗車

小雨の降る中、父親に連れられて京都駅に急いだ。
白鷺号は既に入線しており、C62周辺は黒山の人だかりだ。
あまりの人の多さに、そそくさと指定された5号車に乗車する。
レコードやTVでしか聞いた事のないC62の汽笛がナマで聞こえる。
京都を出て西大路、向日町と東海道線を下って行く。
線路に入り込む人を警戒してあまり速度が出せない様子だ。
徐行や臨時停車を繰り返しながら、大阪到着。
遅延の為、停車時間を切り詰めて神戸へ。
思い描いていた、豪快な走りとは裏腹に、山陰線のドン行並の走りだ。
それでも、お昼頃、無事に姫路に到着した。

帰りは最後尾

復路は姫路発15:00頃だったと思う。
指定券は1号車だが、復路なので12両目の最後尾だ。
秋の夕暮れは早い。神戸に着く頃は、まだ薄明るかったが、大阪到着時には遅延も相まって、とっぷり日が暮れていた。
暗くなると、カメラ小僧は少なくなる、逆に警備の人員は増員された様だ。

回復運転

大阪を出発して新大阪あたりまで高架も相まって、順調に走り出した。
この辺りは複々線だから、内側線は通勤電車や新快速が走っている。
貨物や特急、この白鷺号は外側の列車線を走る。
乗客は、前の方の車両に行っているのか、最後尾の車両はガラガラだ。C62のドラフトは聞こえないが時折汽笛が聞こえる。
新大阪を過ぎてから、遅延を取り戻すべく、回復運転に入ったのだろう、俄然ダッシュし始めた。

追い抜きバトル

心地良いレールジョイント音に釣られ、窓を開けてみる。
エアサス台車の12系だが、結構速度が出ているのか、長編成の客車達が車体を揺らしながら気忙しそうに引っ張られている。
前方から二つの赤い光がゆっくり近付いて来る。内側線を走る電車のテールランプだ。
12系客車の室内灯に照らされ、それがカボチャ色の113系快速電車だと解る。
電車も目一杯走っているのだろう、ビイィーン、ビイィーンMT54のモーター音がドップラー効果を伴って、後ろに消し飛んで行く。
「これが本気の走りだ」とばかりに、容赦なく電車を追い上げる。
右カーブに差し掛かったせいで、電車の先頭はまだ見えない。
時折、パッパッと空が光る。雷?、隣の電車のパンタグラフ?、いや違う。
やけに赤黒い光だ。
追い抜きざま、113系の大きなヘッドライトが悔しそうに12系客車の青いボディを照らしていた。

C62と紅蓮の炎

豪快なバトルを見終わった後、前方に目をやると、驚いた!
なんと、C62の煙突から、紅蓮の炎が吹き上がっている。
天空に広がる、赤黒くて雷の様な光は、これだった。
煙突から噴き出す大量の煙、と同時に吹き出した炎がこの煙を内側から照らして、雲の間を貫く稲光、幕電の様に見えていたのだ。
その光景は、天を裂く地獄の業火の様で、空恐ろしく思えた。

C62の本気の走り。もう見る事は、出来ないだろうなァ‥あんな光景。

大きな動輪と太いボイラー

炎の正体

じゃあ、その炎の正体は何かという話だが。
石炭の燃焼ガスと、大半は莫大な量の火の粉である。
これらが、強烈な蒸気の排気によって煙突からジェットの如く噴き上げられ、オレンジ色の火柱に見えたのである。

原理

蒸気機関車は、燃料を燃やして湯を沸かし、蒸気を作る。
その蒸気は、シリンダーに送られ、ピストンを往復運動させる。
ピストンの往復運動は、太いロッドを経て、動輪を回して機関車が進む。
一方、ピストンを往復運動させてエネルギーを失った蒸気は、左右のシリンダーの中央に集められ、煙突に向かって放出される。
この時、蒸気を作る為に使われた燃料も煙となって使用済みの蒸気と一緒に煙突から排出される。

ドラフトと煙の関係

蒸気機関車の発車を見ていると、動輪が1/4回転した所で「ボッ」という音がする。
これはシリンダーでピストンを動かし終わった蒸気が排出される音だ。
この時、煙突に目をやると「ボッ」という音と同時に黒煙が「モクッ」と湧き上がる。
蒸気の排出に伴って、黒煙も一緒に連れ出される感じだ。
蒸気機関車が「ポッポッポッ」というリズミカルな排気音を奏でる時、それと同期して、煙突から、「モクッモクッモクッ」と疎密を繰り返しながら煙が排出される。
これがいわゆる「ドラフト」だ。
遠くから見れば、煙は一本調子ではなく、コブが連なった様な形になる。
といっても、これは低速で走っている時の話である。
上記のC62の様に、100㎞/h近い高速で走った場合、蒸気の排気音は「バアァーッ」という連続音になる。

石炭が燃える時

蒸気の排出が増えると、それに引っ張られるように石炭を燃やした煙も盛大に煙突から排出される。
更に、出力全開で蒸気の排出が強烈になると、石炭が燃えた燃焼ガスが燃え尽きて煙になる前に煙突から排出される。
これも煙突から出る炎なのだが、もっと目立つのは火の粉だ。

大量の火の粉

石炭を焚く時、埃の様な微粉炭が発生する。
燃えずに粒子状の物は、機関車の前方の煙室という場所に集められるのだが、中には着火したまま煙突から排出される事もある。これが火の粉だ。

特にC62は自動給炭装置で、石炭を粉砕、燃焼する仕組みもあるから、C57やD51よりも圧倒的に微粉炭の発生が多い。

蒸気による燃焼ガスの排出が強烈だと、大量の火の粉はもとより、未燃焼の微粉炭までもが一緒に煙突から噴き上がる。
紅蓮の炎の正体はこれだったのである。

幕雷

また、新鮮な空気中に放出された微粉炭は同時に排出された高温の燃焼ガスや火の粉により爆発的に発火してしまう。
いわゆる、フラッシュオーバーが起こって、夜空がパッパッと光る。赤黒い幕雷の様に見えた訳である。

つばめマークは、伊達じゃない。
この線路は、本線に繋がっている。

追記 白鷺号の読み方

「白鷺」読み方は、「はくろ」「しらさぎ」どっちだろう?
実際に乗車した時は、往時の車掌は「はくろ」と案内していたが、復時の車掌は「しらさぎ」と案内していた。
国鉄内部でも徹底していなかった様だ。

個人的には、姫路城、別名「白鷺城(はくろじょう)」にちなんだものだから、「白鷺号(はくろごう)」で良いんじゃないかと思う。

ちょっと注意

各地の保存蒸気に乗車される場合、目にゴミが入る事があります。
大抵は、微粉炭だと思いますが、決して目をこすったりしないで下さい。
微粉炭は意外と尖っていて無理に取ろうとすると、眼球に刺さったりします。
水で洗い流せれば良いのですが、十分に濡らしたウエットティッシュで、目頭を押さえる程度にしておくのが無難です。
いつまでも目がゴロゴロするなら、眼科の受診をお勧めします。

かつての僚機C62-3

拙作、おすすめ読み物





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?