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1年ぶりにあのスター俳優が劇場へ!『ベルモンド傑作選3』映画評論家・江戸木純さんインタビュー

 2022 年 9 月2日(金)から、『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3』の上映が開始されます。9月末で 閉館してしまうテアトル梅田の最後の上映作品の1つでもあります。今回映画チア部では、配給プロデュースを手掛けた映画評論家の江戸木純さんから、世代的に知らない俳優であるベルモンドについてお話を伺いました。何年も日本で上映したいと熱心に交渉し続 けた結果、上映と DVD 化することができるようになりました。本記事はそのインタビュ ー内容をまとめたものになります。

■傑作選という企画上映について

 『傑作選1』は2020 年10月から上映を開始しました。ベルモンドは 60年代から70年代にかけて活躍した、アラン・ドロンと並ぶフランスの国民的スター俳優です。毎日のようにテレビで放送されていたので、男子はベルモンド、女子はアラン・ドロンといった感じで人気がありました。CG がない時代に、生身のアクションを自らこなすことで有名でした。しかし『スターウォーズ』などの VFX 満載のSF大作で日本での人気は下がっていってしまいました。一方フランスでは一番有名な俳優であり、日本でいう黒澤明やゴジラのような存在です。それにより権利の交渉が難しく、日本では主要作品が40年ほど上映もされず、ビデオにもならなかった空白の時代があり、いわば「忘れられた存在」でした。しかしたくさんの作品に影響を与えた彼を、このまま忘れさせてはいけないと思い、ベルモンド企画上映をしたいとずっと思っていました。 

■苦労したこと、嬉しかったこと

 新型コロナウイルス感染症の影響により、『傑作選 1 』が 2020 年 5 月から10月に公開が延期されました。多くの劇場で満席になったのは嬉しかったです。もう一度映画館で観たかったという人たちが観に来てくれたのだと思います。フランスではゴダールのような映画作家よりも、ベルモンドは遥かに知名度の高い、娯楽映画の大スターです。しかし日本ではそうではなかったので、宣伝には苦労しました。特に若い人へのアピールが大変でした。1本観てもらえると面白くて次も観てくれるのですが、なかなか最初の1本を観てもらうまでが大変でした。

■傑作選 3 への道

 『傑作選1』での満席を受け、『傑作選2』が決定しました。ベルモンド映画のアンケートを実施し、視聴者が選んだベスト10 の中から、5本をセレクトしました。『傑作選1』のときにベルモンドの息子さんを通してらベルモンド本人にインタビューを実施しました。日本での再上映が満席であることを伝えると、非常に喜んでいました。『傑作選2』に向けてコメントをもらおうとしたのですが、その頃から連絡が途絶え、『傑作選2』が全国で上映されている最中、2021 年 9 月に亡くなってしまいました。『傑作選3』に関しては追悼上映のようにはしたくなかったので、敢えて1年ほど期間を空けました。『傑作選3』は、これ以上ないというくらいの決定版です。今の時代に映画館で観るべき7本を厳選しています。

■ベルモンド作品が映画界に残した爪痕

『ラ・スクムーン』で二丁拳銃を構えるベルモンド

『華麗なる大泥棒』は実写版『ルパン三世』と言って良いくらいに影響を与えています。泥棒チームが金庫破りをしたり、カーチェイスをしたりする構成はもちろん、ザカリア警部は 銭形警部ととらえることも可能です。バスのアクションシーンはジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー』でリスペクトされています。

『ラ・スクムーン』では二丁拳銃を使っていますが、これは今年4Kリマスターで再上映されていました『男たちの挽歌』のチョウ・ユンファそっくりです。

『勝負をつけろ』

『ラ・スクムーン』の前に映画化された『勝負(かた)をつけろ』 では二丁拳銃は登場しません。『ラ・スクムーン』が 80 年代の香港ノワールの原点のひとつなのは確実です。また、命をかけてエンタテインメントを作るという精神は『トップガン/ マーヴェリック』にも共通しています。 

■ノースタントアクションについて

『パリ警視J』でもアクションを披露するベルモンド


 俳優は保険に入って映画撮影に臨んでいます。無声映画の時代を除けば、危険なアクション はスタントマンが代わりにすることが一般的になったのはその保険が理由です。しかしベルモンドは、出演だけでなくプロデューサーとしても作品に関わっていました。これはトム・クルーズやジャッキー・チェンと同じです。自らアクションシーンを演じたくても、許可が下りずにできなかったこともあるそうなのです。ベルモンドの主演作は多くの作品で彼が体を張り、全身を使ったアクションを体感できます。

■ベルモンドが考える「映画」とは?

お金を払って観に来てくれた人たちに現実を忘れさせ、楽しんでもらうというのが核にあります。当時は何十万人などではなく、500 万人というレベルで人気があった名優で、観れば観るほど面白さは増します。それは作品同士の間接的なつながりも垣間見えるからです。 例えば『薔薇のスタビスキー』と『ベルモンドの怪盗二十面相』はまったくテイストも方向 性も違う作品ですが、どちらも詐欺師というキャラクターを魅力的に演じています。

男の魅力に溢れた『薔薇のスタビスキー』のベルモンド


本当にいたら嫌かもしれないけれど、映画なら愛せてしまう。そのような、ちょっと変わったアウトローの魅力を持った人です。ヘリコプターにぶら下がるアクションがパロディ化される ほど有名ですが、表情や身のこなしも整っています。作りこんだ本物のアクションのすごさ をフィルムに命がけで焼き付けています。 

コミカルな一面も垣間見ることができる『ベルモンドの怪盗二十面相』のベルモンド


■傑作選 3 のイチオシ作品は?

『華麗なる大泥棒』ですね!

江戸木さんイチオシ『華麗なる大泥棒』でのベルモンド(左)

権利的に今後配信や DVD になる予定はないので、今回の上映が最後のチャンスかもしれません。今作は英語版とフランス語版があり、ベルモンドが二か国語で演技をし、別々に二度 撮影されました。アクションシーンなどは同じなのですが、ラストシーンなど少し違う部分もあります。英語版は世界に売り出すために作られており、DVDにもなっています。しかしベルモンドが母国語で演技しているフランス語版は、51 年ぶりに観ることができる貴重 な機会です。車で階段を駆け下りたり、砂山から転がり落ちたりする、一歩間違えたら命を 落としてしまうようなことを、本当にしていることの凄さが良く分かります。

 『華麗なる大泥棒』で興味を持ってもらえたら『ラ・スクムーン』『冬の猿』も観ていただきたいです。『ラ・スクムーン』は『勝負(かた)をつけろ』の 11 年後に同じ原作をもとに映画化されました。監督の違いや、年齢を重ねたベルモンドの変化を楽しむことができます。 

ジャン・ギャバン(左)とベルモンド(右)
『冬の猿』にて

『冬の猿』は『華麗なる大泥棒』と同じ監督の作品ですが、アクションシーンのない落ち着いた映画です。ジャン・ギャバンとの共演や、監督の作風の違いを楽しむことができます。 ベルモンド最高傑作という人も少なくない、人生に触れてくる映画です。この『華麗なる大泥棒』『ラ・スクムーン』『冬の猿』の三本を観たら、全作品観に行きたくなると思います!

■劇場へ足を運んでくれた人たちへ

是非DVDになっている他のベルモンド作品も併せて観ていただきたいです。「映画とは、 2 時間面白い要素で楽しめるものだ」とベルモンドは考えていました。ベルモンド作品を観ることで、彼の影響を受けている他の映画をより楽しむことができると思います。SNSで 感想などを発信していただけると、楽しく拝見しますのでよろしくお願いします。公開初日 の 9 月 2 日とベルモンドの命日である 9 月 6 日には、入場者プレゼントがあります。劇場でお待ちしております!


■予告編


■公式サイト

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