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戸籍をもたない日本人。映画「市子」

公  開:2023年
監  督:戸田 彬弘
上映時間:126分
ジャンル:スリラー/ミステリー

いるのに、いないのメェ~?

当たり前すぎて、それが無い、という人のことを考えたこともないものの一つとして、戸籍があります。

自分自身が何者であるか、ということに対して、公的な証明と言うのは、極々当たり前に存在していると思うところでしょうが、様々な理由で戸籍に入ることができなかった場合、とんでもなく大変な人生が待ち構えています。

別の国の話でいいますと、中国において実施されていた、一人っ子政策

二人目以降を生んでしまったときに、どうすればいいのか。

男の子が欲しい農村部の人に、女の子が生まれてしまったなら、その一人っ子を届けることができるのか。

様々な理由から、正規の届けが出せない人もいたりします。

そして、実在はしているにも関わらず、戸籍に存在しない子供たちのことを、黒孩子と呼びますが、それは、海の向こうの話なんだろうと思っていたら、間違いです。

日本にもいる。

NHKの番組「ねぽりんはぽりん」においても、戸籍をもたない人の特集がされたことがあります。

学校に行くこともできず、結婚することもできない。
部屋から出ることも許されず、病院に行くこともできない。車の免許もとれなければ、住民票すら取得できません

「ねぽりんはぽりん」では、そんな中でも力強く生活している人を紹介してましたが、現実は想像以上の難しさがあったに違いありません。

さて、日本にも800人以上はいるとされている無戸籍児を扱った作品「市子」について、極々簡単に紹介してみたいと思います。

映画「市子」は、市子という女性にプロポーズした男性が、市子を探すという物語になっています。

冒頭においては、結婚を申し込まれて幸せなはずの女性が、荷物を全部おいて逃げるところからはじまります。

調べていくほどに、彼女の謎が深まっていくというのが、本作の面白いところです。

「嫌われ松子の一生」を思い出させるつくりではありますが、物語は、日本においても存在している、戸籍をもたない人の不幸を描いていくことになります。

誰も知らない。

突然ですが、是枝裕和監督の代表作の一つといえば、「誰も知らない」です。

若かりし日の柳楽優弥が主演し、母親役をYOUが演じたのですが、子供よりも自分の恋愛を優先するあまり、子供たちを放っておく奔放な母親が印象的でした。

やがて、子供たちは、自分達だけで生活するようになりますが、当然うまくいくはずもありません。

戸籍がないから学校にはいけない
学校に行かない自分と、周りの子供たちとのギャップと成長と混乱など、問題提起の詰まった作品となっています。

最終的には、子供たちだけの家族がつくられていくことになるのですが、カンヌ国際映画祭においてパルム・ドールを獲得した「万引き家族」に通じる内容が描かれた作品となっています。

「市子」の場合は、そんな戸籍はもっていないけれど、他人として生きることになった少女と、それを追う恋人を通じて、市子という女性の、苦悩が描かれていきます。

それでも生きていく。

実は、本作品は、ヤングケアラー問題も取り扱っていて、非常に幅広く現代日本の闇をついた作品になっています。

ヤングケアラーとは、大人が本来やるような介護であるとか家事を日常にやっている子供のことを言います。

見れば見るほど、見てみないフリをしておきたい日本の闇がはがれていく感覚であるとかが楽しめてしまうところです。

救いというのも、もちろんありまして、母親の鼻歌であるとか、そんな不幸のどん底みたいなところにいる主人公が、ふとした時に出会った恋人など、ふとしたことの幸せを感じ取ることもできるところです。

ちなみに、無戸籍であったとしても、やれる方法は存在します。

映画「市子」の中でも、無戸籍の人を支援する会がでてきまして、戸籍を取得することができる道もありはします。

しかし、本作品の主人公である市子は、それすらも閉ざされてしまったりしていまして、救いというのは非常に少ない物語かもしれません。

ですが、一人でも多くの人が、このような境遇の人もいる、ということを知ることだけでも、本作品の大きな意義になると思われるところです。























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