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映画「彼方へ」から考える葬送のフリーレンや、異世界転生の物語

公  開:2023年
監  督:ミサン・ハリマン
上映時間:18分
ジャンル:ドラマ

何もかも終わっても、生きるしかないメェ~

「彼方へ」は、Netflixで配信中の、わずか18分の短編映画となっています。

短い時間の中で、一人の男の喪失と再生が描かれており、絵にかいたような幸福から、あまりに唐突な不幸へと転落していく様が描かれます。

タイトルは「彼方へ」となっていますが、邦題は「The After」となっていまして、一体、何の後の話なのか、というところを考えてみますと、物語の方向性がわかるような作品となっています。

エンディング後の人生

短い作品ですので、見ることができる人は是非、作品そのものを見ていただければ思いますが、本作品をみて思ったのは、バットエンディングを迎えた後の、生き方について、でしょうか。

話しは全然異なりますが、漫画・アニメともに人気である「葬送のフリーレン」を引き合いにだしてみたいと思います。

「葬送のフリーレン」は、いわゆるファンタジー世界において、剣や魔法で魔物を倒していく物語となっています。

しかし、他の作品と異なるのは、長命の存在であるエルフが主人公であり、勇者一行とともに魔王を倒した後に、始まる物語という点です。

エンディングを迎えてしまった後に、どのように生きるのか。

これこそが、ここ最近の作品にみられる面白さの一つです。

葬送フリーレン

我々が生きている現実というのは、かつてでいえば、よい学校に行き、よい就職先に入り、結婚し、家庭を持ち、家族を増やし、穏やかに死んでいくというのが、かつての人生のゴールだったといえるでしょう。

遠回しな言い方をさせてもらうのであれば、フランスの哲学者であるジャン=フランソワ・リオタールが提唱した、『大きな物語』が機能しなくなったセカイの物語といっていいのではないでしょうか。

「葬送のフリーレン」における主人公フリーレンは、勇者ヒンメルのことをを知る為に、仲間たちとともに北を目指します。

また、共に旅をするフェルンという女の子もまた、若くして一人前の魔法使いという目標を達成してしまい、目標を失った人物として描かれています。

エンディングを迎えたあとも、フリーレンは楽しく過ごしています。いったい、彼らはエンディング後をどう過ごすのか、というのが一つのポイントとなっています。

誰しもが考える、攻略ルートがなくなってしまった現代の我々の人生、いわゆるいい人生というものが、多様化によって失われた現代の我々にこそ、意味のある問いかけになっており、だからこそ、心に刺さるのでしょう。

異世界転生

このあたりは蛇足かもしれませんが、異世界転生ものもまた、そんなイメージでみることができるのではないでしょうか。

異世界転生ものも様々ではありますが、理由はどうあれ、異世界に転生した上で、スローライフを過ごしてみたりするのは、現世の物語や義務から離れて、人生のエンドロール後の人生を生きている、生きたいという願望が作り出したものだとすれば、昨今の異世界ブームというのも納得がいくところです。

かつては、そんなに現世から逃げていきたいのか、という風にも見えるところではありましたが、その本質にあるのは、エンディングを迎えたあとに、どうするのか、というところだったりするのでしょう。

The After

話しは戻しますが、「彼方へ」は、まさに、そんな考えのもと見ることで、一人の男の人生が凝縮して感じられるのではないでしょうか。

会社の重役であり、可愛い娘と、美しい妻。

仕事は忙しいとは言っても、なんとか家族の為に時間をつくって過ごそうとする男は、一つの到達点にいたといっても過言ではありません。

そんな中、不条理な通り魔の存在によって、全てが崩壊してしまいます。

現実の場合、死が訪れるまではエンディングでもなんでもないかもしれませんが、少なくとも、主人公の人生は一度終わってしまったといって過言ではないでしょう。

ソーシャルワーカーや、友人たちの言葉を聞くこともせず、彼は、ひたすら、娘や妻の映像をみたりして、逃げています。

ライドシェアサービスの運転手として生活をしている主人公は、まさに、バットエンディングを迎えてしまった状態といえるでしょう。

そんな中、お客さんの娘に抱き着かれたことで、再び、自分の過去と立ち向かって、エンディングの先に進もうとするというのが、本作品の流れではないでしょうか。

大きな物語と呼ばれる、誰しもが納得するような共通の物語というのは、失われてしまった昨今だからこそ、どう生きるべきかを問うている作品として重要なのです。

これからも、この手の物語がでてくるに違いありません。


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