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長生きしすぎた吸血鬼の末路。映画「伯爵」

公  開:2023年
監  督:パブロ・ラライン
上映時間:110分
ジャンル:コメディ/ホラー

長生きがいいこともあれば、そうでないこともあるメェ~

小説や漫画、その他もろもろの創作物において、吸血鬼というモチーフは星の数ほどつくられています。

血を吸う。
十字架に弱い。
心臓に杭を打つと倒せる。
発達した犬歯。
太陽光で焼ける。

外見や能力、その他もろもろありますが、その作品によって、吸血鬼の能力値というのは様々です。

ただ、その大半に共通するものとしては、不老というのがあげられるのではないでしょうか。

首を切断されたり、銀の弾丸で撃たれるなど、対処方法はあるにしても、基本的に、吸血鬼は不老のイメージです。

さて、様々な吸血鬼がいる中で、Netflixで配信している映画「伯爵」は、生きることに疲れてしまった独裁者の末路を描いています。

吸血鬼もつらいよ

200年以上生きた吸血鬼、アウグスト・ピノチェトは、死を迎えるために長く吸血行為をしていませんでした。

ちなみに、本記事をみているということは、アウグスト・ピノチェトが実在の人物であり、独裁者であった彼を皮肉ったブラック・コメディとなっているのが本作であるということをご存知かもしれません。

チリにおける独裁者であるピノチェトですが、本作品は、チリの歴史を知っている場合には、おそらく、何倍もユーモアがきいた作品に感じられるでしょうし、知らない場合でも、特に問題なく楽しむことはできます。

本作品で面白いのは、200年以上生きて、歴史上でも活躍した吸血鬼が、妻を娶り、5人の子供までつくった挙句、生きているのが嫌になって死のうとし、遺産を子供たちにあたえようとしているのに、なかなか死ねない、ということです。

吸血鬼の設定

吸血鬼をモチーフにした作品において、吸血鬼の設定というのは非常に重要です。

川を渡ることができない、とか、招かれなければ部屋に入ることができない、といった制約のようなものがある場合もありますし、陽の光に対しての強い弱いもあります。

映画「伯爵」における吸血鬼は、その制約がおそろしく緩いものとなっています。

長生きした独裁者を皮肉るためというのが主眼にあるから、吸血鬼設定自体に深いテーマ性があるかどうかはわからないため、重要な点ではない、ということなのかもしれません。

ただ、聖水に弱いとかそういうのも含めて、吸血鬼設定がキッチリしていないと、ソワソワしてしまうところではあります。

不老不死の悲しさ

映画「伯爵」をみて思い出すのは、やはり「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」でしょうか。

吸血鬼というのが噛まれたときから不老となるというのが、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」の肝といっていいところでしょう。

少女の姿のまま吸血鬼になった娘が、精神的と肉体とのギャップで気が狂っていくところなんかは、悠久を生きるものの悲しさを描いています。

その点、「伯爵」は、血を吸うと若返ってしまうので、なんでもあり感は否めないところはあります。

ただ、血を吸わないと老けていくというのは、斬新なところです。

歩行器をつかいながら、若い会計士の女性のところへ行ったにも関わらず、転んでしまって、何もできない、というシーンもあったりします。

ブラックユーモア

本作品は、人生に疲れた吸血鬼が、なかなか死ねなくて苦労する話ではありません。どちらかとそんな彼の人生をブラックユーモアで飾りつつ、人生を謳歌してしまっている姿も描いています。

今夜死ぬ、といっているところに、突然楽団がやってくるところなど、これは、コメディです、というのを言外に表しています。

このあたりの演出も含め、ユーゴスラビアの内戦を描く映画「アンダーグラウンド」が下敷きにあるのではないかと思ってしまうところです。

3時間をこえる「アンダーグラウンド」は、第二次世界大戦が終わったにも関わらず、地下に逃がした人たちに終戦の事実を伝えないでかくまいつづけた男を描いています。

吸血鬼がモチーフの作品は数多いですが、長い年月を生きるということは、人間の欲望や願いを具現化しやすくもします。

話しはそれますが、ジャンプで連載中の漫画「バンオウ」は、将棋をする吸血鬼が主人公です。

江戸時代から200年以上将棋を打ち続けた主人公が、将棋の才能こそ凡人であったとしても、積み重ねた年月によって、現代のプロ棋士たちと戦っていくというのが熱い物語となっています。

囲碁でいえば「ヒカルの碁」が有名ですが、そこででてくる、平安時代から生きて、霊として囲碁をうっている藤原佐為と、主人公が一体化しているキャラクターのようなものだと思ってもらえればわかりやすいでしょうか。

長い年月の積み重ねが必要な競技を、吸血鬼という不老不死の存在によって実現しているあたりが、創作物ならではの面白さを作り出しています。

話しは戻りますが「伯爵」は、吸血鬼なのに、生きるのに疲れてしまったという設定と、また、若返りもしますが、不老ではない、というところ、また、歴史上の人物と重ねることで、説得力を増しているつくりになっています。

歴史上のできごとを知らなければ、登場人物で驚くこともないので、衝撃が大きくはありませんが、この作品きっかけで、チリの歴史を学びたくなるかもしれません。

吸血鬼なのに、財産目当てで子供たちが集まってきてしまって、遺産分割の協議が行われてしまうなど、とにかく、ブラックユーモア満載の作品となっています。


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