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言語はどこまで思考に影響を与えるのか。映画「メッセージ」

公  開:2017年
監  督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
上映時間:116分
ジャンル:SF

ボディランゲージが一番メェ~

外国の言葉を学んでみたい、と思ったことのある人は、多いことでしょう。

ただ、日本人の多くは、義務教育含めて長年の勉強を続けているにも関わらず、英語をしゃべることができる人は少数と言わざる得ないでしょう。

それもそのはずで、日本語話者の場合、言葉の大系が異なるインド・ヨーロッパ語族の語派を理解するのは、感覚と異なるということは、多少なりとも影響があるのではないでしょうか。

面倒なことはさておいて、言語というのは、大なり小なり考え方にも影響が及ぶのではないか、ということをサピア=フォーフの仮説として言われていたりします。

蛾と蝶が区別されていないフランス語。
水とお湯が区別されていない英語。

雪の表現が多彩な日本語。

何がいいとか悪いとかではなく、言葉があることによって感覚がかわる、ということもあるのではないか、というぐらいに捉えてもらえればと思います。

さて、それでは、映画「メッセージ」の簡単な紹介をしてみたいと思います。

宇宙人の言語

お菓子のばかうけのような形の巨大な何かが現れます。

ただ、演出として、宇宙船のようなものがテレビニュースで映し出されていても、視聴者にはなかなかみせませんし、宇宙人の姿も見せてくれないのですが、周りの雰囲気でその異様さがわかるのが、わくわくさせられます。

そして、現れた宇宙人とのファーストコンタクト。

映画「コンタクト」というのもあったわけですが、こちらは、宇宙人とのコンタクトそのものよりも、その影響を受けた人間の話になっているのがポイントです。

そして、宇宙人の言語が、人間のそれとはかけ離れているところが面白いです。

3次元的な我々が、未来も過去もない、時間間隔のない言語を教えられた場合、その人間は、宇宙人の感覚で物事を思考するようになるのか、という、冒頭で書きましたサピア=フォーフの仮説と併せて考えると、面白みが感じられるところです。

ちなみに、原作は、テッド・チャン「あなたの人生の物語」となっております。

邦題は「メッセージ」ですが、現代は「arrival(到着)」となっていまして、タイトルそのものに大きな内容はありませんが、タイトルの方向性で、見え方もかわる気がするから不思議なものです。

さて、本作品は、非常に静かな作品となっています。

意図的にループされる音と、暗い画面。

言語によって変わる感覚

本作品は、宇宙人の言語を知ることによって、感覚がかわっていく主人公の苦悩と、物事を受け入れる姿勢を見せてくれる作品となっています。

不幸なことが待ち受けているとわかっていても、その選択をするのか、というところもあったりまして、宇宙人がでてくるわりには、地味な内容の作品でもあるのですが、非常に深い内容となっています。

しかし、結局、何が起こっているのかよくわからなかった、という方がいましたら、是非みてみてもらいたい作品があります。

本作品を理解する補助線として有益なものとなっています。

スローターハウス5

それは、カート・ヴォネガット・ジュニアによる「スローターハウス5」です。

第二次世界大戦において、ドレスデンの爆撃にあった主人公が、トラルファマドール星人なる宇宙人に誘拐されてしまうという話になっています。

あらすじの時点でぶっ飛んでいるところですが、トラルファマドール星人もまた、「メッセージ」でいうところのヘプタポットと似たような感覚だと思われます。

時間の概念がなく、過去も未来も彼らにとっては同一のものとなっています。

観客である我々は、未来や過去をいったりきたりするような感覚を追体験させられることになるのです。

ふとした拍子で爆撃されていた過去にもどってみたりするのですが、状況をよく知らない人間からしてみますと、事故の後遺症で頭の状態がよくないだけのようにみえるところもポイントです。

時間感覚がおかしくなっていたり、感覚が信用できなくなってくるところが、強く押し出される作品として、オススメなものがあります。

それは、アンソニー・ホプキンスが主演の映画「ファーザー」です。

認知症によって、自分の娘のことがわからなくなったり、突然、若い頃に戻ってみたり、現実に気づいてみたりと、我が身に起こったらどうなるだろうかという恐怖とともに教えてくれる作品となっています。

そんな感覚的なつなぎ方をされている作品としては「ア・ゴースト・ストーリー」なんかもオススメです。

いずれにしても、過去も未来も、同一に存在している、という感覚が、映画「メッセージ」においては、宇宙人によって与えられた言語である、というところがポイントの作品になっているのです。

人類がわかりあうための必要なことは何か、であったり、結末を知りながら進むことをどう受け止めるか、といったところも含めて考えさせられる作品ではありますが、何よりも、宇宙人との対話や、それによって、受ける影響というところが面白い作品となっています。


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