やさしくて、沢山の楽しいことで囲んでいきたい。

千穂ちゃんは霊感が強い。
近所に建った新築の家の前に、おじちゃんが立っていて、目を細めて家を見上げている。
この家の主がおじちゃんの子どもで、立派な家を建てたことを誇らし気に見上げている。
いつもいつも見上げているおじちゃんの肉体はこの世に存在していない。
この家の主と知り合いではない千穂ちゃんは、それを伝えることはない。

千穂ちゃんに関わりある人の近しい存在が亡くなられてから、伝えて欲しいことがあると千穂ちゃんを毎晩訪ねてくることもある。
直接メッセージを伝えられることはなく、千穂ちゃんが読み取るしかない。訪問者の眼差しと、現実に起こることの辻褄が合わさることで、メッセージが浮き上がってくる。
それをどう本人に伝えようか考えていると言っていた千穂ちゃんと、最近会っていない。


恋愛が成長に不可欠だと恋に恋して、ぼろ布同然に自分を扱うことから逃れようと転職した先で千穂ちゃんに出会った。
ほわほわ楽観主義の装いだけど、視野が広く、頭の回転が速く、非常事態を的確に対処して職場の平穏を維持する真のリーダー。
名ばかりの役職者より仕事が出来て、職場にいる誰よりも厚い信頼を寄せている。

楽観的な彼女の生い立ちは色が無く、所々抜け落ちている。
幼い兄妹を置いて家を出るわけにいかないと、色のない時間に身を置いて、家を出てから彼女の生活は荒れた。
いつ死んでもいいと、家を出る時は部屋を完璧な状態にして、身に着ける下着も綺麗なものにして、浴びるように酒を飲み、稼いだお金はその日の内に使い切る。
人生なんてチョロいもんよって、なめていた。

人生の転換期に出会う人がある。
物質だけでなく、持っているもの全てを彼女に注ぎこんでくれるクマのような男性と彼女は知り合った。
クマさんは彼女と知り合う前に、山梨県出身の女の子と出会って深い関係になると言われていた。
千穂ちゃんはその人に、結婚して子どもを3人授かると言われた。
結婚願望が皆無だった彼女は、結婚するならクマさんなんだろうと思ったが、相手はクマさんじゃないと言われ、全く信じなかった。

信じていなかったクマさんじゃない相手と結婚して、子どもを2人授かり、3人目を出産した。
あの人にはここまで見えていたのだろうか。

千穂ちゃんには色のない時期が二度ほどある。
一度目の無色時代の刷り込みの窪みに引き合うようにして、色を奪われていった。
色どりを取り戻すために、千穂ちゃんはお腹に宿った命を望んで選び、私もその選択を信じた。

千穂ちゃんの色を奪った相手を、千穂ちゃんは許していない。
けど見事に忘れている。
許すとか許さないじゃなく、要らないと言っていた。
限られた時間の中で、要らないものは捨てていく。それが母親だったとしても、と。

幼稚な私の発想や発言を、冷静に広い視野で眺めて、必要以上の言葉を発さない。
否定することも、必要以上に喜ばせようともしない。
汚い感情も、いいじゃないそれでと、そう思うことは自然で、そんなこと思ったらいけないと思うことの方が不自然だと、感情を否定しないでただただ、話を聴いて時間を作ってくれた。
そんな千穂ちゃんに甘えて、千穂ちゃんの背負っているものを忘れ、言い放った言葉の数々を振り返り、躊躇いながら出した名前を千穂ちゃんは忘れていた。

大丈夫、大丈夫。
反省も後悔もしなくて良し!!
前、向いてこっ!!

楽観的な彼女の過去は壮絶だ。
身を焼く怒りを繰り返すことに疲れたら、自分のために忘れる方へ身を入れていける。
それを彼女と自分を通して教えてもらったと思っている。

今苦しんでいる人がいる。
その人のそばに楽観的で、頼りになる人がついている。
私は、千穂ちゃんにしてもらったことを誰かに返していけたらと思っていて、苦しんでいる彼女をやさしくて、楽しいことで囲んでいけたらと思っている。











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