私の好きな作家たち① 射手座27度 アリソン・アトリー

アリソン・アトリー(1884-1976)はイギリスの作家です。ダービシャーのクロムフォード村の農場に生まれ、自然の中で幼い日々を過ごしました。マンチェスター大学で物理を学び、ロンドンの女子中等学校で理科の先生になりました。でも突然結婚してロンドンを去り、小説を書き始めました。91歳まで書き続けた「グレイ・ラビット」シリーズは有名です。

短編「アンと 山のこびと」はこんなふうにはじまります。

「アン・サマーズは、九つのとき、山の牧場(まきば)で妖精の輪を見つけました。それは、まるで、誰かがコンパスでひいたのかと思われるほど、まんまるくて、はっきりとした輪でした。」

少女アンがある秋の一日、人気のない見晴らしのよい牧場にキノコを採りにきて地の精と思われる小びとと出会い、それからアンの家である農場で長く一緒に暮らし、そして小びとが山にかえるまでのお話です。

この童話の魅力の一つは、イギリスの百年以上前の田園地帯の人々の暮らしが生き生きと描かれていることです。そして五感と情感を刺激する独特の表現が心に残ります。

「小びとのおじいさんは、そのたてぶえに口をあてて、目は、あいかわらずアンにすえつけたまま、なにか歌をふきはじめました。それは、とてもあまく、とてもかなしい、とてもわびしくて、とてもあかるい曲で、まるで、木の葉むれで風がなきわらいをしているみたいでした。」 (「アンと山のこびと」学研 鈴木武樹訳)

訳者は解説でこのように書きます。

「アリソン=アトリー女史の物語は、どれもみな、この牧歌的な風景の中に、機械化の波がまだおしよせてこない時代を舞台にするものばかりです。しかし、アトリーの物語が、わたしたちの心をしずかに、しかし、いっそうおくぶかいところで、とらえてはなさないのは、そこにえがかれている世界が、ただ昔をなつかしむだけの気持ちから生まれたものではなくて、人間が、ほんとうに人間らしく生きることのできる世界だからでしょう。今では機械文明の下に深くうずもれて、わたしたちの目ばかりか心にまでも、もうほとんどふれることのない、昔の幸福な生活が、アトリーの筆の力で、もう一どわたしたちの目のまえにあらわれてきて、わたしたちの心をなぐさめてくれるからでしょう。わたしたちが、自然のあらゆるものと、ときには死んだ人たちとさえ、心をかよいあわすことのできる世界、人間たちが、なんのけがれもなく、純真に生きることの世界ーそういった理想の世界を、アトリーはさまざまなかたちで、私たちに語りかけてくるのです。」

1960年代に書かれた解説ではありますが、今読んでもあまり古くなってはいないかなあと思います。そしてここには、アトリー個人だけでなく、イギリスで19世紀後半から第二次世界大戦後にかけてなぜファンタジーの名作が生まれたかについて読み解く手がかりが多く書かれていて、それも参考になると思います。

アトリーは1884年12月17日に生まれました。正午でホロスコープを出すと太陽は射手座の27度に入ったばかりです。(午前生まれだと26度になります)

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射手座27度

「彫刻家の抱く未来像がゆっくりと、しかし確実に形を成しつつある  A sculptor. 」

ルディアのKEYNOTE:「自分のビジョンを投影し、素材を形にする能力。」

射手座26度で一度セルフレスになったあと、社会に自分を刻印していきます。対の射手座4度:「両親の励ましを受け、一人で歩き始める幼い子ども(A little child learning to walk.)」27度は「歩き始める子ども 」つまり「夢を見る側」でなく、「見させる側」になっていきます。アトリーは想像力と文章によって「壊れてもびくともしない仮想現実(ビジョン)」を描き出しました。それが「農場にくらして」のアトリーが幼年時代を過ごしたダービシャーの自然と生活であり、「時の旅人」で主人公ペネロピーが行き来する16世紀のダービシャーであり、アトリーが「時の旅人」を書くきっかけになった「四度見た夢」だったのだと思います。そして彼女の作品世界そのものでもありました。
彼女はたいへん優秀で、マンチェスター大学のあとはケンブリッジ大学で科学教育を学ぶことになりました。「こうして、ダービ州(シャー)の『深い森』の奥に生まれた一人の女性は、自分の能力で切り開いた道を進み、ついにイギリスの首都(世界一の都?)ロンドンで生活をはじめることになったのです。」と石井桃子訳「氷の花たば」のあとがきにはあります。このあたりは90度のサビアン双子座27度「森から出てくるジプシー」を彷彿とさせます。

アトリーはその四度見た夢についてこう書いています。「私は第二の夢世界へ旅をし、そこで、あらゆるものを、まるで明るい光に照らし出されているかのようにはっきりと見、空気の清澄さに目くるめく思いをしながら牧草地や森を歩きました。それは二つの世界にまたがっていることだと知りつつ、別の時代の日差しをあびて石垣にすわっていました。」「時の旅人」( 松野正子訳 岩波少年文庫 )どういう能力かわかりませんが、内的世界を五感で構築する力にとても優れていたのだと思います。まるで石から像を彫り出すように、過去や歴史の中からもうひとつの世界を取り出してみせたのです。

度数についての記述はサビアン研究会のSUGARさんの音声教材に依っています。ルディアのキーノートなどはTAZNさんの投稿からお借りしています。いつもありがとうございます。

アトリーの作品は、過去や理想の世界に没入しきっているものは少なくて、現実や生活がきちんと描かれているものが多いと思います。絵本「むぎばたけ」にもハリネズミが歩く草むらの小道の横の大きな道をトラックがけたたましいスピードで走り去っていく場面があります。

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「むぎばたけ」福音館書店 矢川澄子訳

アトリーは理想の世界が現実や未来にどのように生かされたらいいと思っていたのか。どんな環境が世界に実現されていったらいいと思っていたのか。そのヒントは射手座28度にあるのかな、と思います。ここでは、少し違うかもしれませんが、「時の旅人」のラストを引きます。

「五百年のあいだサッカーズの四季をつつんできた安らかさが、私の中を流れていきました。それは、あの人たちにしたと同じように私に強さを勇気を与え、私をあの人たちに結びつけました。生きているうちにあの人たちに会うのは、これが最後だとわかりました。でも、いつの日か、私はあの勇敢な影の人々たちのところへ戻り、あの人々といっしょになるでしょう。」

「アンと山のこびと」では、こびとがいつも歌っていた歌をアンが自分の子どもたちに聞かせるところで終わります。
「ちょっとでいいから、なにかいってよ、/どんなみじかい詩でもかまわないから。/でも、そのはじまりは、いつでも、/「むかしむかし」にしておくれ。」


付記 アトリーはおそらく午後生まれ、月は太陽の度数を超えていたと推測します。牡牛座海王星と蠍座の金星のオポジションは作風にとても影響を与えていると思います。伝記を買いましたがまだ読んでいないので読んだら加筆します。たいへん個性的な人だったそうで読むのが楽しみです。月が射手座か山羊座かも伝記を読んだら見当がつくかもしれません。



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