“名古屋のモーター”田口泰士は、“磐田の心臓”川辺駿の穴を埋めて余りあるか

 今オフのJリーグ移籍市場の話題は川崎の大久保嘉人や齋藤学、鹿島の内田篤人、あるいはプレーオフを制して一年でのJ1復帰を果たした名古屋のジョーに集まっていましたね。

 その一方で磐田サポーターは世間的には大きく取り上げられていない一人の選手の去就に注目していたはず。広島からレンタル3年目、飛躍のシーズンを終えた川辺駿です。

 昨季最終節の鹿島戦、途中交代でベンチに退がる際の名波監督との熱い抱擁に、彼の決意を感じて今オフに起きる“別れ”を覚悟していたサポーターは少なくなかったのではないでしょうか。僕もその一人だったわけですが、いよいよ川辺駿が広島にレンタルバックすることが決まりました。 

 昨季6位に躍進したチームにおいて、メディアの注目度の高さでいえば圧倒的に中村俊輔、あるいは14ゴールでE1選手権で代表に選出された川又堅碁だったかと思います。加入1年目の彼らが磐田にもたらしたものは計り知れないものでした。

 ただ、個人的には躍進していくクラブの象徴は川辺駿だったと思っています。13年に広島ユースから昇格、プロデビューを果たすも、トップチームに定着出来なかった川辺は、名波監督が就任後に初めて開幕から指揮した15年、磐田にレンタル移籍して来ました。J2からの昇格を果たしたこの年にプロA契約を締結した川辺のプロキャリアは、J1復帰、残留、そして上位進出を果たした名波ジュビロの歴史の中心にありました。

 名波監督も「僕らクラブにとっては息子みたいなもの。」と語る彼が、中村俊輔や川又堅碁といった新加入の選手との化学反応で大きく成長したからこそ、6位躍進に繋がったと思っています。

背番号10よりも勝ち星を持っていた背番号40

 出場試合数3位、ゴール数5位、アシスト数3位、パス交換数にいたっては中村俊輔とのコンビでトップ、これだけでも背番号40の川辺駿が昨季の磐田にとってどれだけ重要な存在だったかは伝わるかと思います。

 また川辺が欠場した2試合は契約上出場出来ない広島戦のみで、しかもその2試合は1分1敗と負け越しています。ちなみに30試合出場した中村俊輔が不在の試合は2勝2分。一概に言えるものではありませんし、俊輔不在の4試合が負けはないものの、苦戦した試合だったことは間違いありません。

 ただメディアが常に注目していた“俊輔不在の磐田”よりも、“川辺不在の磐田”の方が結果を得られなかったという事実からも、彼がいかに重要な選手だったかは伝わるかと思います。


数値から解き明かす“磐田の心臓”川辺駿の万能性

 上記は昨季上位5チームの主力を担った日本人ボランチに、ベストイレブンの井手口陽介を加えて、各スタッツを比較した表です。チームスタイルの影響によって差異が拡がらぬよう、「各スタッツのチーム総数に占める該当選手の数値の割合」で比較してみました。各スタッツの割合を比較して、最高値を赤太字で、2位と3位を赤字で記すことで、それぞれのプレーの特徴とチームから求められた役割を可視化しています。つまり赤字が多いほどプレーの特徴、求められる役割、ともに幅がある選手であると仮定出来るかと思いますが、川辺はこの中で最も赤字が多い選手でした。
 唯一最低値となった「インターセプト」は相棒ムサエフ(リーグ5位の16本)に託していたとして、その他については同じボランチでプレーする代表クラスと比較しても、幅広く数字を残していた川辺は、やはり攻守において“磐田の心臓”だったと言って良いかと思います。


“名古屋のモーター”田口泰士がもたらす【パスで主導権を握るサッカー】と【ゴール前のパンチ力】

 16年にクラブ初のJ2降格を喫した名古屋グランパス。闘莉王はじめ多くの中心選手がクラブを去る中、複数オファーを断りクラブに残留、34試合9ゴール7アシストを記録し一年でのJ1復帰に貢献、風間監督を持ってして「泰士は我々のモーター」と称された、生え抜きの主将選手だった田口泰士

 正直このタイミングでの移籍には驚きましたが、川辺駿が抜けて不安な磐田サポーターの気持ちを和らげるのには、これ以上ない人選でした。

 “磐田の心臓”の持ち味が【攻守に幅広く貢献しながら、機を見てスルスルと攻め上がり決定機に絡めること】とすれば、“名古屋のエンジン”は【パサーとして攻守を繋ぎながら、鋭い状況判断でボールの奪いどころから決定機まで絡めるところ】が持ち味でしょうか。 

 J2だったことで走行距離とスプリント回数についてデータ抽出が出来ませんでしたが、それ以外は同様に算出しています。異なるカテゴリーのため単純比較は厳しいですが、田口選手の数値をJ1で記録したものだったとすれば何位になるかということで、最高値なら赤太字、2、3位なら赤字で記しました。結果「ゴール」、「シュート」がともに最高値、J2リーグ2位を記録した「パス」、リーグ3位を記録した「インターセプト」がそれぞれ山口蛍選手に次ぐ2位でした。攻守両面において、まさに名古屋の中心“エンジン”だった数字ですが、川辺との比較をすると「アシスト」、「ドリブル」が低く、「シュート」、「インターセプト」の割合が高いという差が見られました。
 川辺の場合は中盤でムサエフが奪ったボールを受けて自ら攻め上がる、もしくは前にいる中村俊輔に一旦預けて前線のスペースでもらい直すといった、【攻守を自らの脚で繋ぎながらチャンスに絡むこと】が多かったため、最終局面での「アシスト」やボールを運ぶ「ドリブル」が多かったのでしょう。

 田口の場合は中盤でボールを奪う役割を担いながら、ガブリエル・シャビエルに繋ぐという「アシストの前のアシスト」役になることが多く【攻守をパスで繋ぎチャンスを創ること】が多かったです。

 そして、バイタルエリアに侵入した時に「ミドルシュート」という武器があることで、創り出したチャンスに自ら「フィニッシャー」として絡むことが出来ました。またセットプレー時には高い身体能力を武器に、シャビエルのボールにニアサイドで合わせてゴールを奪うという場面もあり、川辺にはない【パンチ力】で「シュート」を増やしていました。

 相手ボールを奪ってから効率良い速攻でゴールを奪う昨季の名波ジュビロにとって川辺はまさに“心臓”を担うに適任でした。
が、ボールを繋いで主導権を握る時間帯を増やすことも狙う名波ジュビロにとって、田口もまた、新たな“磐田の心臓”を担うに適任といえるでしょう。加えて昨季の磐田には無かった「ミドルシュート」という新たな武器、そしてセットプレーのターゲットにもなれるという点は、中村俊輔という絶対的なキッカーがいる磐田にとって、今ある武器を更にアップデートすることになります。
 J1復帰から上位進出までを果たした磐田の象徴だった川辺に代わって、更なる高みを目指す磐田の新たな象徴として、背番号7を継ぐ者として、今季の田口泰士に期待しています。

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スポーツアナライター見習いのジュビロ日記

スポーツアナリスト育成講座を経て、スポーツアナライターという新ジャンルを産み出すために試行錯誤しながら、黄金時代に魅了されたジュビロ磐田を独断と愛情を持って見守るマガジンです。
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