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携帯電話会社が飲食店の無料クーポンを配るワケー花咲くパクリズム

・携帯電話会社と無料クーポン
・無料クーポンは「輸入」された?
・T-mobile Tuesdaysとは?
・T-Mobile Tuesdaysの狙いとは?
・日本では?
・実際の効果は?
・各社の無料クーポンへの思惑は?

携帯電話会社と無料クーポン

ソフトバンクSUPER FRIDAY、auの三太郎の日、ドコモのハピチャン、これらは全て携帯電話キャリアが提供している飲食やサービスなどの無料クーポンです。
携帯電話契約者に無関係の飲食店やサービスの無料クーポンを渡す、という一見不合理なことを携帯キャリアはなぜ行うのでしょうか?

無料クーポンは「輸入」された?

実はこの無料クーポンというもの、日本独自のものではなくアメリカから輸入した(パクった)ものなのです。
この無料クーポンの元祖はアメリカのT-Mobileと言う携帯キャリアが打ち出した「T-Mobile Tuesdays」という施策です。
このT-Mobileという会社、携帯電話業界では風雲児と呼ばれるほど他のキャリアと異なることをしています。T-MobileのCEOであるジョン・レジャー氏は、これらの施策の総称をアンキャリア(脱キャリア)と呼んでいます。アンキャリアにおいては、これまでの携帯キャリアにあった風習や習慣を排除し、「脱携帯キャリア」を目指しているのです。
ちなみに、国内のMVNOでも導入されている、カウントフリー(特定のサイトなどを閲覧する際のギガ数を消費しないシステム)などもアンキャリアの一つとして実施されました(T-MobileではMusic Freedom/Binge Onの名称で実施)。T-Mobileでは、YoutubeやNetflixなどの動画サイトやSpotifyやApple Musicなどの音楽配信サービスまでカウントフリーになる大盤振る舞いです。

T-mobile Tuesdaysとは?

このT-Mobile Tuesdays施策はその名の通り、火曜日にアプリを経由して、火曜・水曜・木曜に利用可能なクーポンを配布するいうサービスです。
T-Mobile Tuesdaysで火曜日にクーポン配る理由は、各種サービス業にとって火曜日が1番儲からない曜日だからです。 

火曜日にフットボール場を埋める人数を集められるほどすごいことはない

これは、A Thousand Words (邦題:ジャックはしゃべれま1000)というコメディ映画でエディー・マーフィー演じる主人公のジャックが言った言葉がです。この言葉からわかるように、飲食店やサービス業にとって火曜日はお客さんが入らないオフピークなのです。

T-Mobile Tuesdaysの狙い

このことを考えると、この施策は、T-Mobileにとっては販売促進策や顧客還元施策として有効であり、お店にとっては、広告宣伝等での利用以外にも、オフピークの時間帯を有効利用できると互いにウィンウィンの関係にあります。

日本では?

しかし日本に目を向けると、ソフトバンクは毎週金曜日、Auは3のつく日、ドコモにいたっては1ヶ月のどの日でも利用可能であるように、本来のT-Mobile Tuesdaysの狙い(飲食店やサービス業にとってのオフピーク時間帯の有効利用)は薄れています。
日本ではむしろ、携帯キャリアの自社顧客優待やチェーンの広告宣伝につなげるといった側面が強いのです。

ここで、これらの無料クーポンの中でも特に話題になった、ソフトバンクによる吉野家の牛丼並盛無料施策について、全体のコストと1ユーザーあたりのコストを試算してみしょう。
このソフトバンクによるSUPER FRIDAY施策では、ソフトバンクスマホユーザー製品にクーポンが配信されました。そして全国にある吉野家のほとんどが満員となり、店の外まで長蛇の行列ができたと報道されています。

これを踏まえて、変数を仮定し、試算を行ってみたいと思います。


2017年12月末現在の、ソフトバンクモバイルの合計の携帯電話の契約数は、約4000万回線とされています。

しかし、この回線数は、Softbank Airやフォトフレームなどの副商材、そしてワイモバイルのユーザーも含んでおり、全体のうちソフトバンクブランドにおけるスマホ・従来型端末を含む音声端末の割合を約60%、2400万回線と仮定します。

また、日本全体における2017年7月現在のスマートフォン利用率は、77パーセントとなっており、ここから、ソフトバンクのスマホ回線は約1850万回線と仮定できます。

そして、使用者が25歳以下の場合、2杯もらえるという特典があり、25歳以下のスマホユーザーはスマホユーザー全体の約40%とされています。
これらのデータから、合計の配布杯数が約2500万杯と予想されます。
また吉野家全体の売上高は約1500億円で、これを想定平均客単価である600円で割ると年間のべ2億5000万人の来客があると想定されます。

これを1日あたりの全国合計に換算すると、のべ約70万人の来客があることになります。

オペレーションが追いつかなかったとの報道から、日本全体で、通常来客の5倍の人数来店したと仮定すると、350万人、かつ、2杯配信ユーザーを含めて約490万杯です。

ここで、吉野家の牛丼並盛り一杯の価格が380円のため、490万杯は約20億円分となります。

これを、ソフトバンク・吉野家で費用負担を2分するとすると、約10億円です。

この10億円をはじめに求めた配信数の2500万で割ると40円となります。

つまり、1杯あたり40円のクーポン費用で全国津々浦々のソフトバンクユーザーに宣伝、優待できているわけなのです。
1ヶ月4週間と考えても1人160円、全体で40億円。このコストでソフトバンクに新規顧客を誘導したり、既存顧客の解約を阻止できると考えれば、とても安いですよね。
さらに今回は、ソフトバンクと吉野家が等分に費用を負担すると考えましたが、ソフトバンクの負担割合が減るとより安く施策を行えるわけです。
この少額の投資で、多くの便益を得られる、この無料クーポン施策はかなり合理的なのです。

なおかつ、今回に関しては店舗のオペレーションが追いつかず、「吉野家渋滞」ができるなど報道で(ある意味)話題となり、これも、「ソフトバンクにはこんなサービスがあるんだ」という宣伝効果になるかと思います。

実際の効果は?

ただし、注意事項があります。この施策は現在では国内全3キャリアともが行なっている施策となっています。(ドコモは最近始まったばかりですが…)
ということは、3キャリアをまたぐ転出(MNP)抑止としての効果は弱いと考えられます。

ここで、3キャリア共通での思惑で「格安スマホへの流出を阻止したい」ということがあります。
確かに、格安スマホでも、UQ MobileやYMobileといった、キャリアの「サブブランド」と呼ばれるものが存在しますし、接続料として収入を得ることも、回線数の見積もりに入れることもできます。
しかし、キャリアの収入の中心は、依然としてメインブランドの収入であり、格安スマホの1人あたりの収入(APRU)はメインブランドのそれに劣ります。(最頻プランがYM/UQの2980円プランvsSB/AUの6480円プラン)
しかし、サブブランドとメインブランドでは通信の質の面ではほとんど変わりありません。
つまり、原価もほぼ同じであり、サブブランドはただ、利益を削っているだけなのです。

各社の無料クーポンへの思惑は?

このことから、どうにかして格安スマホとメインブランドの差別化を図り、メインブランドに引き止めたいというのが各社の思惑の正体だったのです。

こうして、無料クーポン施策は、大手キャリアからサブブランドへの乗り換えを阻止し、また、サブブランドとメインブランドで月額料金が大きな乖離があることを説明するための手段となり得るのです。

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