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【ライブ配信⑥】

【ライブ配信】マガジン

 事務所の先輩は興奮気味だった。

 相手のトップライバーはその頃史上初の100万ポイントを達成したり、ライブ配信時代の寵児としてテレビの取材を受けたり、飛ぶ鳥を落とすというか、飛ぶ鳥そのものみたいな存在で、そういえばライブ配信に誘われた時に見た方が良いと勧められて初めて見た配信もその子だった。
 音楽に合わせてアプリのフィルタやカメラの機能を駆使してMVを作り出すようなパフォーマンスは実際新鮮で他とは一線を画すモノ。
時代の寵児とのバトルだ、そりゃ先輩も興奮するさ。

 イベントランキングのトップに立つといくつかの変化がある。必然的に総ポイント数のランキングでも上位に位置していたから、トップライバーと呼ばれるような人たちやそのリスナーたちが配信に興味を持つようになり、視聴者数がエグいぐらい上がる。
 そしてどこかの配信を見に行ってコメントしようものなら、リスナーたちに歓迎されその度にフォロワーも増えていく。有名人になった気分を味わえるってわけだ。
 こりゃ悪くないなと思ったが、これは世の中の縮図なんだなとも思った。

 イベント終了までの5日間は通常の朝の配信に加えて夜も配信するようにした。夜の方がリスナーの数が多く、時間帯的に激戦区なんだけど、スターを獲得したマリオ状態だったので、そんなの関係なく視聴者数が確保できるし、最終日のイベント終了時間が深夜0時だったから、それに向けての慣らしも必要だ。

 1度スイッチが入るとギフトは勝手に飛んでくる。いつも通りの配信をしていても遊びにきた知らない人まで応援ギフトを置いていく。これはこのアプリはそういうシステムなんだなという理解。

 そして最終日の最終配信時には見たことのない視聴者数になり、ラスト5分ぐらいはバカみたいな額のギフトがポンポン飛び交った。気がついたら70万ぐらい。もうどっちが勝つのか分からないくらい相手の方にもギフトが舞っていた。
 その日はたぶん2時間ぐらいずっとピザを回していたと思う。ピザアクロバットを多くの人に見てもらうチャンスだったし、まぁ、実際それ以外やることもないし。

 そして見事に敗れて散った。

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