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【ライブ配信③】

【ライブ配信】マガジン

 あのハゲめ!

 本人が喜ぶのでもう一回言っておこうと思う。ところでなんだったかな、あぁ、ライブ配信事務所には自社のライバーにギフトを投げるための予算ってのがちゃんとあって、たぶんそれをハッと思い出しての悪ふざけだったのだろう。特殊ギフトの効果とかよく分かってない人だから、視聴者数が跳ね上がったときには素でびっくりしてたと思う。
 連日昼過ぎのおすすめランキングトップに表示されるピザ野郎。しかもだいたい配信開始2時間目の終了間際に『ラッキー袋』を投げてくるから正直すごく迷惑だった。視聴者とフォロワーが増えてくのは嬉しかったけどね、配信を止めたいタイミングで悪ふざけするからタチが悪い。
 そんなこんなでバタバタにも慣れてきた頃、ライブ配信の本社から重要な連絡があったと事務所から連絡が来た。
 なんでも一斉通知だかの実験対象に選ばれたとかなんとかって。よく分からなかったけど金曜日の18時以降に配信をスタートしたらそのお知らせが全ての利用者に通知されるみたいな、確かそんな内容。ピザとDJとドラマーが選ばれたから、その日はすごいことになるって話だった。
 それなら派手なことをやろうと思って、前々からやってみたかった映像に合わせてパフォーマンスするみたいなネタを用意して、わざわざカラオケボックスのパーティールームを予約して、何度かセッティング確認やリハもやったりして、本番に向けて準備万端、どのくらいパズるのか想像もできなくて、正直ドキドキしてたよ。

 結果どうなったかって?何も起きなかったんだ、全くね。なぜかというと18時ちょうどに配信をスタートして、それに合わせて本社が通知を流す設定だったらしく、配信開始したら自動で通知が流れるシステムではなかったから。
 そんなこと知らなかったから、18時の頃はまだ配信するのダルいなー気分じゃないなーってダラダラしてた。あ、でもそろそろ急がなきゃって準備をしてた。18時以降ならいつでもOKだと思ってたからね、仕方ない。

 「なんで配信してないの?って怒られた」

 事務所の先輩から電話があったのはさぁやろうかと気合を入れているようなそんな時だった。どうやら先輩も内容をちゃんと理解していなかったらしく、同じような勘違いをしていたから、本社からの電話でやっと理解したらしくひどく落ち込んでいた。

 「俺のミスだ……すまん」
 「完全にそうだけどドンマイ」

 その日の配信は、微妙な人数の視聴者の前で、テンションの上がりきってないままおろしたての派手なパフォーマンスを淡々と涙を堪えながら演じるという、悲しいモノだった。大袈裟に言ってみたけど本当に泣きたいぐらい切なかったのは確かだ。
 ちなみに他の2人、DJとドラマーの配信はリスナーが集中しすぎて配信がオチるぐらいにバズっていたらしく、2人の知名度とフォロワーは一気に増えた。どっちのライバーとも交流があって仲が良かったんだけど、ちょっと敬語にしようかなって引くレベルで。

 あのハゲめ!

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