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【#23】偏愛かつ変態的フライパン購入記

僕は意外だった。ネットを徘徊した情報をざっとまとめると「フライパンは2〜3年が寿命だから買い換える」というもの。えええ。ふと自分の道具たちに目をやる。まじまじとフライパンの表面なんか見てなかったけど、うんうんたしかに。均一じゃなくて大きなまだら模様みたいにカサついている部分がある。そうなのかぁ。

もらい物のレミパン初号機


それこそ12年前。とある事情からレミパンの1stモデルをオカンからもらった。デザイン性もへったくれもない真っ黄っ黄の塗装のやつ。でも言っておくがレミパンは”塗装とデザイン以外”は素晴らしい。高く立ち上がった壁がフライパンにも鍋にもなり、料理初心者が調子に乗って焼飯をアオったところで無残にこぼすこともない。特に”おひとり様こそ小さめのレミパン”と言っておきたい。最低限の道具で最低限の洗い物、こういう視点ならば、レミパンでラーメンを作りそのまま食べてしまうのも余裕。
とはいえ僕はこの12年前にもらったレミパンを、腕も知識もないままに金属製のヘラでガシガシやったものだから使った当初から傷だらけ、北斗の拳の胸元のようにしてしまった。とはいえレミパンは平野レミさんのようなおおらかさで12年働き続けたのだった。

ビタクラフトとオハヨー乳業は裏切らない

鍋っぽく使っていたレミパンに加え、僕はフライパンを2つ、サイズ別で持っていた。その2つは同じブランドのサイズ違い。それがビタクラフトのSofia2だ。

オハヨー乳業の製品は何を買っても絶対に美味いのと同じく、僕はビタクラフトを全面的に信じている。
このSofia2、ぜひネットや店頭で見ていただきたいのだが、激烈に高いスペックのクセして衝撃的に安いのだ。これを安物だと侮ってはいけない。僕はこのフライパンの塗装についてちょっとワケがあって詳しいのだが、その話をしたい。よく言うテフロンとはデュポン社オリジナル塗料で、ミシュランみたく星の数でヒエラルキーが構成される。このSofia2の塗装、実はテフロンのスクラッチテスト30万回(だったっけ?)には及ばないがこれにはワケがある。擦っても擦っても塗装がヘタらなかったため、擦るたびにお金がかかるテストをやめてしまったのだ。
そんな訳で性能は抜群。これから料理を始めようという人には絶対にこれを勧めている。買って不満に思うことは1mmも無いことを僕が保証します。

買い替えの引き金は”ひーちゃんライス”

ここで話はレミパンに戻る。ある土曜日のお昼。たいした食材の入っていない冷蔵庫事情により、サクッとひーちゃんライス(【#9】伝説の「ひーちゃんライス」を知っているか をご参照)を作ることに。ま、焼飯みたいなものなのだけど、最後に落とした卵がガジガジにこびりつき、炒めたごはんの底に焦げ付いたガレットみたいになってしまったことから買い替えを決意。問題は何を手がかりに選ぶかだ。僕は当初からフライパンの”すべすべ具合”を重視しているわけではなかった。そんなの今どき大差ないと考えたから。じゃあどうする?フライパンには個性があって得意分野も別。最後まで悩んだ3本について書いてみたい。

ぐぬぬ!最後まで僕を悩ませたこの3本

★「ビタクラフト プロ 打ち出しフライパン」

心酔するビタクラフトが日本の山田工業所に外注をしたというストーリーにシビレる一本。要するにハンドルから先が山田工業所の仕事で、数千発ハンマーで打ち込んで作られているという泣く子も黙る一品だ。そして素材は鉄。昨今「男は黙ってカワサキ」的な鉄フライパン推しが男子ごはん界隈を闊歩しているがホントにいいのか。特に無骨すぎるTurkのクラシックフライパンなんぞを迂闊に買ってしまった初心者男子の涙は想像にたやすい。
Turkに代表されるプリミティブな鉄フライパンはコンディションの維持に割く愛と時間がキモになる。買ったらくず野菜でシーズニング、オイルを染み渡らせ酸化を防ぐ膜を決して切らさない。終わった後も空炒りとオイルは怠らずに。使うときは完全に焼きを入れた状態でなければこびりついてしまう。要するに使い方のスイートスポットが狭い。僕はゴルフをやらないけれどドライバーに例えるならどこに当てても飛ぶものではなく、中心でインパクトできた瞬間、恐るべき飛距離を叩き出すクラブ、それが鉄フライパンだろう。「鉄で焼いた肉半端ないってー」という記事も多い。
とはいえこのビタクラ×山田は進化版。叩きのめされた鉄は目が締まっているのに薄く仕上がり、軽くて鍋振りもラク。表面的にも油馴染みがとても良いのだとか。世界最強の呼び声も高いがここで僕は自分に問いかけ、あることに気づくのだった。

僕は料理で強火は使わない

僕は火力を数値で表現するようにしているが、10のうち6以上の火を使うことは限りなくゼロに近い。フライパンの素材も様々で熱伝導の効率化も進む中で乱暴に言えばおおよその料理って実は中火以上を必要とはしないのではないか。ならば生き様優先で鉄!じゃなくとも樹脂コーティングのフライパンでいい。直近1〜2年の自分の料理からそう思った僕の脳裏にもう一本、燦然と輝くフライパンが居座り続けた。


★「MEYER アナロン ヌーヴェルカッパー」

なんという耽美でまどろみのある名前なんだろう。
アナロン。ヌーヴェルカッパー。ヌーヴェルカッパー。
ああ、言いたい。口に出して言いたいヌーヴェルカッパー。スリットの入ったタイトスカートに真っ赤でRossoな口紅とルブタンのソールが似合う女性の気品とでも言おうか。醒めた気高さが佇まいからも伝わるこれはMEYERのハイエンドモデル。男を惹きつける薀蓄の詰まった多層構造など、これほどまでに物欲をサルベージするフライパンを僕は知らない。
僕は調べに調べた。その結果たどり着いたのは80年代の安いアメリカの通販番組のような商品紹介動画だった。「やぁマイク、今日はとんでもない商品を持ってきたぜ!」「おいおいまたかよニック!」(みたいな)。。。ルブタンが急にスタンスミスに見えた僕はその瞬間ちょっと冷めたのだけれど。きっといつか迎えに行くよ、アナロン。そのときには26cmもラインナップしてておくれ。

ダークホース登場!また鉄!?

★LODGE「スキレット 12」

「ニトスキ」が一時大流行したおかげでスキレットが認知され始めたがこの”12”、きっとあなたが想像しているサイズではない。あなたの家にある一般的なフライパンよりデカいのが分厚い鉄の塊になっちゃったサイズ感、なんと29.2cm。最近売れているリバーライト社の「極 JAPAN」の重さにも閉口したがコイツは比じゃない。その重さなんと3.69kg。そりゃそうだ。こんなもの片手で振り回すものじゃない。ところがふと思う。この贅沢で分厚い5mmの肉厚。たっぷりとしたサイズ。デカめのハンバーグが3つ同時に焼けるじゃん。♪ジュワァ〜というSEと共に脳内にシズルがほとばしる。この問答無用の存在感は理屈抜きの凄みを強烈に感じさせ、気がつけば”買う一歩手前”になっていた。恐るべしダークホース。ところがイヤイヤちょっと待て、僕はフライパン以外にコレを買おうとしていたことを忘れたか?

★「STAUB ブレイザー ソテーパン」

STAUBといえばココット・ロンドだが僕はル・クルーゼをよく使う。このブレイザーは「焼く」「煮る」「揚げる」「蒸す」をこなすいぶし銀のバイプレイヤーといえよう。「分厚い素材で焼く」のならこれでいいのだ。危ない危ない。我に返りLODGEを棚に戻した。

ついに決まった!僕的「ナウ・ベスト

★「ル・クルーゼ TNS 26cm DEEP」

…とかなんとか、どーでもいい人にとってはどーでもいい葛藤を続けたどり着いたのがル・クルーゼ。これは鉄でもアルミでもステンレスでもない、硬質アルマイトなる素材にデュポン社のテフロンではない独自のコーティングがなされている。そして、じつはちょっとこだわりたかった「金属製のハンドル」についても、熱が伝わらずに素手でつかめるのも◎。
極力キッチンには安っぽいプラスチック製品を置きたくない僕には無視できないポイントだった。コーティングは正直、どうなんだろう。そんなバカな!ってくらいに滑るわこびりつかないわで文句なし。、、、でもこれは昨今の新品のコーティングフライパンなら、そうなんだろうと思うけども。それに加え重視したのは軽さじゃなく重さだった。

最適重量論

タンスがいちいちズレないのはある程度重いからで、軽すぎるとカーペットがズレるたびに動いてしまう。クルマも軽けりゃスポーティーで低燃費とはいうけれど地球上のすべての物は重力の支配下にあるわけで、ある程度の重さでタイヤを押し付けなければブレーキも効かないって寸法だ。
このル・クルーゼTNSは正直、ちょっと重い。けれどフライパンを置きっぱなしにして片手で木べらを動かしたところでビクともしない絶妙さに加えアオることだって可能な重さ。分厚くて、ある程度重いという要素を上手くバランスさせた一本なのだ。
そして2タイプあるなかで深めのDEEPを選んだその訳は、あのレミパンの代わりになってもらうため。フラットタイプなら28cmのSofia2がまだ、ギリギリ現役を続けている。雪平で煮物を行っている間、同時並行で別の煮物をやるには深さが欲しい。そんなワケでこのDEEP版は煮る・炊くも含めた八面六臂の活躍を期待されているのである。


これから使い込んで、その感想はどうなることか。
少々ダメでも構わない。また買い物という素敵な悩ましい旅に出られるではないか。僕はいま、素敵な小説を読み終えた後のような、喜びと寂しさが同時にやってきた感じのアレになっている。
だからきっとまた、読むだろう。その物語にはアナロンという女性が出てくるはずだ。

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