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The musician to the musician vol.3 AIKA OHNO

 皆さん、普段よく聴くお気に入りの音楽やミュージシャンがあると思いますが、ミュージシャン自身は一体どんな音楽を聴き、どんなプレイに憧れ、プロの音楽家への道に繋がっていったのか、興味ありませんか? このコーナーでは、新たなアーティストはもとより、過去にmusic freak magazineが取材した記事なども掘り起こしながら、ミュージシャン自身の音楽ルーツを紹介していきます♪
 第3回目は、2013年1月号で取材した大野愛果さんをピックアップ!
大野さんは、GIZA studioを代表する専属作曲家であり、これまでに3枚のセルフカバーアルバムを発表しています。ZARD、倉木麻衣はもとよりあらゆるタイプのアーティストに楽曲を提供、その数は優に200曲を越えています。そんな彼女が作曲家デビュー15周年を迎えたアニバーサリーイヤーに、このインタビューは行われました。数多くの名曲を世に送り出してきたヒットメイカーの音楽との出会い、学生時代の音楽との関わり合い方とは? まずは簡単に生い立ちから……。


■大野愛果プチストーリー(音楽に目覚めたきっかけ)

 大野:(音楽に)目覚める?って何ですかね(笑)。基本的に小さい頃から音楽には自由に触れていました。音楽を聴かせるとじっとしてる子供だったらしいので、母が用事をする間はずっと音楽が流れていたんですね。母はよく童謡やクラシックを、 兄弟が当時流行っていた曲をたくさん買っていて、私はそれを勝手に聴いている感じ(笑)。小さい頃はアニメの主題歌が好きでしたね。
 
音楽を演奏するようになったのは4歳の頃、音楽教室に通い始めて。グループ・レッスンでみんなと合奏するのはとても楽しかったけど、逆に個人レッスンが苦手な子でしたね(笑)。その頃、初めて聴いたsus4(サスフォー)のコードに感動して、それはすごく印象に残ってます。その響きだけで4歳のワタシが泣ける、みたいなのを感じていました。


■作曲家を志すきっかけ  

 大野:学生の頃、パソコンでシーケンサーを習う授業があったんです。で、とりあえず曲を作ってみようと思ったのがきっかけです。初めてだから面白くてしょうがなくて、1曲の中に何曲も入ってるような曲、つまり3~4分の中で転調しまくり拍子変わりまくりという曲を作ってみたんですけど、私の持っていた機材では同時に鳴らせる音数が少なくて、先生の機材を使わせてもらったんです。そうしたら先生に「キミ、変だよ、何あの曲!?」みたいな感じで言われて(笑)。その後、他の友達から、「大野さんの曲、先生から聴かされたよ。ピアノ科にヘンな生徒がいる。こんなん作るヤツがいる」って。生徒達に聴かせ回ってすごく評価してくれて、「どんどん作ったらいいんじゃない?」って。その当時、ホントに自信がなくて無理だと思っていた時にも一言、「選ぶ側にも才能がいるんだよ」って。「もし キミを選ばない人がいるとしたら、その人にそういう才能がないからだよ」って言ってくださったのが自信になりました。「あ、そうなんだ!じゃ、進んでやってしまえ」みたいな。それまで自分の中から生まれてくる曲は自分の中で収めて誰にも聴かせずに自己完結していたので、自信をつけさせてくれたのは大きかったですね。それからばぁ~って作り始めた感じ。


■プロデューサーとの出会い  

ーこうして作曲の道に目覚めた大野。ある時、新聞の募集広告から、デモテープを送ってみる事に。そして面接で出会ったプロデューサー・長戸大幸の勧めで作曲家活動を本格的に始めるようになる。ー 
 
 大野:初めてお会いした時に、「じゃ、次、曲出来たら電話して」って言われて、私、その時必死だったから次の日電話したんです。「出来ました!」って。そしたら翌週すぐに会って一気に10曲くらい聴いて頂けたんです。一度聴いただけで私の作曲のクセを的確にブワァー~って指摘してくださって、「すごい方だなあ、この方からいろいろ学んでいきたい」って。なんだか自分を引き出してくれそうな気がしたんです。
 
ー1998年6月10日、作曲家・大野愛果としての初採用作品はWANDS「明日もし君が壊れても」だった。しかし、それまでも週1ペースで作品を提出し続けていた大野である。すでにその時点で数十曲のストックを抱えていた。そんな作品群が機会あるごとに採用され、 様々なアーティストの楽曲として陽の目を見る事になっていく。今回のインタビューで興味深かったのは、中には本人の記憶から薄れている作品すら事あるごとに作品化されているのだというー

 大野:そういう曲もめっちゃあります(笑)。あまりにも昔に作っていたのが今頃になって採用される曲も、中にはありますね。
 
ーデビュー・シングルの表題曲とカップリング曲にして、全く年代、年月の隔たりを意識させない曲作りはまさにJ-POPスタンダード作曲家の成せる技。そこが色褪せない大野楽曲の力強さなのだ。それにしても、一体どれだけの量を彼女は作り続けているのか? 未発表曲もかなりの確率で埋蔵しているのでは? と水を向けてみた。ー
 
大野:う~ん、モチーフだけとかだったらどこいったか分からないくらい。もうそこらへん、いっぱい眠ってますね(笑)


■大野愛果、その音楽的嗜好と音楽の聴き方
 
ーさて、そんな大野愛果。やはり多作な作曲家には、どんなアーティストのどんな曲に影響されたのかが単純に気になるところ。その音楽的嗜好と音楽の聴き方について伺ってみると、これまた不思議な答えが返ってきた。ー
 
大野:私って音楽オタク? なんか大きく言うと、音楽そのものが好き、みたいな。うまく表現できないんですけど……。
純粋に多分、ジャンルや人(アーティスト)に固執する事があまりないのかな。例えばそりゃ好き嫌いは多少あるけれど、触れてみたら好きになったりしますしね。
 
好きな曲? いや、全部好き!あかんかな(笑)。日によって違いそう。今日はこれが好き、明日はあれが好きとか。あと、何かをしながら聴く事が多いです。散歩する時とか……。じ~っと音楽だけを聴いてるって事はあまりないかなぁ。”
 
ーどうやら、大野愛果にとって音楽とは自然に生活の一部として存在するものであり、好き嫌いの嗜好性で推しはかるものではなさそうだ。それに我々がアーティストや曲ごとに思い入れを持って聴くという聴き方とも趣味とも違う。
あえて、具体的に聴いていたアーティスト名などを掲げてもらった。ー

 
大野:カーペンターズのベストはよく聴きましたね。あと、高校生バンドでドラムをしていた当時は、[ターミネーター2]の挿入歌とか、Mr. Bigのめっちゃ早い曲をコピーしたり、Guns N' Rosesの「Don't cry」。あとプリプリとか。お風呂でよく聴いていたのはイングヴェイ・マルムスティーン。でも、基本的に耳あたりの良いものが好きかな。


■大野愛果、作曲の極意は?
 
ー職業作曲家としてJ-POPのヒット曲を生み出していく大野。やはり、その作曲方法については気になるところである。ー
 
大野:曲が浮かんでくる時はどういう時か…。分からないですね。浮かんでくる時に浮かんでくるんですよ。だからとにかく曲の浮かび待ちです(笑)
 でも基本、何かをイメージしながら作る事が多いかな。季節とか、色とか、あと、心情とか。ヴォーカリストさんの声、歌ってる時を想像しながら作ったり。
私、転調って意識せずにしている事が多いんです。耳を頼りに響きで作っていくので、気がついたらそうなっていて。短三度移動が多いって言われるんですけど、それも、耳頼りに気持ち良いなって思ってやっていると結果的にそうなるんですよね。

ー今回のインタビューで知り得た事。大野愛果は職業作曲家である。しかし、その極意であるメロディとなると、それはやはりセンスとか感性の問題なのだ。やはりタダ者ではない、彼女は天才型の作曲家なのだ。
さらに、作曲家生活15年にしていまだ曲が奔流のように生まれてくるのも驚異的だ。と、我々凡人は考えてしまうのだが、本人の中ではいまだ不本意な部分が少なからずあるようである。ー
 
 
大野:作曲のペースは、今、遅いですね。最初の頃は、すごい勢いで曲を書いて毎週提出しに行ってたんですけど……。当時のペースで言えば、今頃はとうに数千曲越えていたはずなんだけどなあ。がんばらなきゃ!
 


 ■大野愛果としてのスタンス 
 
ー最後に、作曲家でありながら歌もピアノもいける大野愛果である。ソロ・アルバムを再び作ったり、自身のツアーをするといったアーティストとしての野望や欲望はないのか?とファン的な期待も含めて伺ってみた。ー
 
 大野:ずいぶん前に、「大野さんって、自分のために作った曲ってあるの?」って聞かれた事があるんですよ。その時、意味が分からなくて、「自分のためってどういう事?」って思ったんですけど、「あっそうか、自分が歌うための曲かぁ」って最近分かりました(笑)。それくらい自分が歌う事を前提にして曲を作った事がないんです。ただ、曲を作りたくて作ってるだけ。とにかく良い曲をどんどん作っていきたいという気持ちがとても強いです。だからメロディを生かしてくれるなら誰にでも歌って頂きたい。歌う事ももちろん好きなんですが、自分一人でぜんぶ表現するというより、ヴォーカルさんやアレンジャーさんと繋がることで、自分の世界観だけじゃない、新しい世界観を表現できるという形が今はとても楽しいです。そうやって、よりいっそう良い楽曲になってみなさんにお届けできれば嬉しく思います。
 
 ー大野愛果さんとはそういう人なのだ。雲を掴むような感触のインタビュー、どこから切ってもオリジナルなあの方に、やはり天才を感じてしまった。ー

text by 斉田才(2013年1月)

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<INFORMATION>

★「ZARD “What a beautiful memory ~軌跡~”」ゲスト出演決定!

・2022年2月4日(金) 大阪・大阪国際会議場(グランキューブ大阪)
開場/開演 17:30/18:30
[問い合わせ]キョードーインフォメーション 0570-200-888”

・2022年2月10日(木) 東京・東京ガーデンシアター
開場/開演 17:00/18:30
[問い合わせ]H.I.P. 03-3475-9999


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