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The musician to the musician vol.14_Yuri Nakamura (GARNET CROW)

好きなアーティストの音楽ルーツを知ることで、よりそのアーティストの楽曲への理解が深まったり、新しい発見に出会うことがあります。また単純に、推しのアーティストがどんな音楽を聴いてきたのか?という興味も湧きますよね。そうした理由から、雑誌『music freak magazine』で連載していた「The musician to the musician」。こちらではそのバックナンバーを紹介していますが、今回は以前より多くのリクエストをいただいているGARNET CROWのヴォーカル・中村由利さんの回(music freak magazine vol.90/2002年5月号)をご紹介します。

2013年6月9日、『GARNET CROW livescope ~THE FINAL~』をもって13年の活動に幕を下ろしたGARNET CROWですが、年月を経てもなお彼らの作品は根強い人気を誇っています。そのGARNET CROWの全作品の作曲を手掛けていたのが、ヴォーカルの中村由利さん。中村さんがどのような音楽やアーティストに影響を受けていたのか?  当時の記事を読み返してみると、彼女が愛聴していた多くの楽曲がGARNET CROW作品に影響を与えていることが窺い知れます。非常に興味深い内容になっていますので、ぜひご覧ください。

こちらの記事は、『The musician to the musician』(music freak magazine vol.90 / 2002年5月号)に掲載された内容になります。


GARNET CROWのヴォーカル&作曲を担当している中村由利さんは、小さな頃からいつも音楽が身近な存在として側にあったといいます。もちろん今も多くの作品を聴かれている訳ですが、そのCDの揃え方は豪快そのもの!

「1回いいと思ったら、そのアーティストの作品は全部揃えてしまうんです。大量にある場合はピックアップしますけど、結局は全部揃えてしまう……。このアルバムが合わなくてもこっちのアルバムには自分好みのものが入っているかもしれないって思うと、全部揃えなければ気が済まない! 私は出無精でなかなか外に出ないから、レコーディングの帰りにレコードショップに寄るんですよ。CDに関しては迷ったら買え!っていうのが私の基本です。聴かずに後悔するよりは、まず聴いてみようって。だからいつもカゴを持って(笑)。それに、アルバム1枚だけじゃその人の事は分からないじゃないですか。その時のコンセプトが自分と合わなかっただけで、もっと初期のものは合うかもとか、今のは合うかもとか……。1作だけ聴いて合わなかったって決めるのは、何かもったいないかなって」(中村)

 今回挙げてくれたアーティストに関しても、もちろん全作品を揃っているそうですが、作品を購入する時の彼女のこだわりは、必ず洋楽では日本語盤の方を選ぶことだとか。

「歌詞も見ますが、解説をすごく楽しみにしているんです。“この人は昔こういうことをやっていた”とか、“誰と仕事をしていた”とか、そういうのを見ると、さらにそのアーティストのCDを聴いてみたりします。自分が影響を受けた人がいいと思っている人なら、私も気に入るかもしれないって。だから、ラジオで聴いていいなって思う曲もあったりしますけど、私はどっちかっていうと好きなアーティストの解説からさらに広げて作品を聴いていくことの方が多いですね。あとはレコード店でベスト10にランキングされているものや、フリーペーパーの紹介コメントなどで良さそうなものを聴いています」(中村)

 ベスト10からフリーペーパーや解説でチェックしたマニアックな作品まで、そのターゲットは幅広い。そんな彼女に、最近よく聴くお気に入りの作品を6つ挙げてもらいました。

●The cranberries『Everybody else is doing it, do why can't we?』

ヴォーカリストのドロレス・オリオーダン(Vo, G, Key)を中心に、ノエル・ホーガン(electric & acoustic G)、マイク・ホーガン(B)、ファーガル・ロウラー(Ds, Per) の4人で結成されたアイルランド出身のロック・バンド。この作品はイギリスのインディーズ・シーンで絶大な人気だった彼らを世界的に有名にしたデビュー・アルバム。

「聴いた時に、声とメロディ・ラインに衝撃を受けました。ドロレス・オリオーダンって女性がヴォーカルなんですけど、低音から高音への声の響きとか、ファルセットの使い方に影響を受けています。アイルランド系の民俗音楽的な匂いがあるメロディ・ラインも特徴的で耳に残るし。このアルバムはCDウォークマンとかに入れて持ち歩いていたので、ジャケットとケースを失くしてしまったくらい一番良く聴いていますね。作曲に行き詰まった時には、まずこれを聴きます。何か湧いてきそうな起爆剤的な頼れる一枚。このバンドとかを聴いて民族的なメロディ・ラインのものをやってみたくて作った「pray」という曲が、GARNET CROWの2ndアルバムに収録されています。」(中村)

●The Corrs『in blue』

アイルランドのダンダルク出身。兄のジム・コアー(G,Key)、長女のシャロン(ヴァイオリン)、次女のキャロライン(Ds)、三女アンドレア(Vo,ホイッスル)の4人兄妹で1990年にグループを結成。ポップでメロディアスなサウンドの中に伝統的なケルト音楽をミックスして、新しいアイリッシュ・ミュージックのヒット・チューンを創り出した。

「これもアイリッシュですが、音やコーラスが綺麗なんですよ。あとバイオリンのフレーズとかもアイリッシュ独特のメロディを刻んでいたりするので、けっこうインスピレーションを貰えるというか、吸収できるところが一杯。こっちはト−タル的に聴いていいなって感じます。クランベリーズよりポップでなので、最近はこの作品をよく聴いています」(中村)

●alanis morissette『under rug swept』

カナダ出身の女性シンガーソング・ライター。1991年『Alanis』でデビュー。カナダのグラミー賞として知られるジュノー賞で,最優秀女性新人賞を獲得し,カナダ国内で最高の評価を得た。その実力は女性ロック・ヴォーカル・シーンの流れを変えたと言われるほど。本作品は2ndと同じくアラニス自身によるセルフ・プロデュース。

「彼女は声がすごく強くて、自分っていうものをすごく出した歌い方をしているんです。その辺は私にはまだ無い部分なので憧れますね。ちょっと突き放したような加減とか、迫ってくるような歌い方とか。コーラスとかサウンド云々っていうのを抜きにして、本当に歌だけで持てちゃう人。だからアカペラで通用するんじゃないかって思います。歌詞に込めたメッセージも迫ってくる感じで、私もそういう強い歌を歌ってみたいから、Female Vocalistの憧れNO.1!  もちろん彼女の作品も全てあります。今回は最新のものを紹介していますが、全作それぞれに好きなんですよ」(中村)

●Bjork『Selma Songs』

アイスランド出身。80年代にはバンド「シュガー・キューブス」のボーカルとして活動。脱退後の93年にソロ・デビュー。ビョーク主演で話題となり、カンヌ映画祭で“パルムドール賞”と、ビョークが“主演女優賞”を受賞した、ダンサー.イン・ザ・ダークのサウンド・トラック。

「トータルで“Bjork”っていう存在が好き、っていう感じですね。歌に説得力があって胸に来るし、格好いいなって。サウンドも旬なものとか最先端の技術を取り入れたりしていて、表現力が豊かですしね。もう、個性が凄まじいですよね。流行のオシャレっていうよりも、サウンドは鋭いなって感じで刺激を受けるし、次にどういう事をするんだろうって興味もあります。作品ごとに挑戦されている気がして、聴くこっち側にしても“聴いてやるぞ!、受けて立つぞ!”って感じになります。彼女はもう領域が違うので、憧れというより第三者的に見ていますね。この人を聴くと何か変われるような、日々の生活の刺激になりそうな感じがします。
一番聴いてるアルバムは『ポスト』で、「Hyper-ballad」がすごく好きなんですよ。『Selma Songs』は映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のテーマ曲が良かった・・・。ちなみに彼女が昔いた“シュガーキューブ”ももちろん全部揃ってますよ(笑)」(中村)

●CLOUDBERRY JAM『going further(輸入ベスト盤)』

1991年に結成されたスウェディッシュ・ポップ・バンド。当時の平均年齢21歳。バンド名は、「メンバー御用達の中華料理屋のデザート」から取ったそう。Vo.ジェニーの低音でソウルフルな歌声と、ノスタルジックでメロウな音楽性で日本のスウェディッシュ・ムーブメントの中心にいたが、1998年、ジェニーの脱退を機に突然解散した。

「このバンドの乾いたドライな感じは、GARNET CROWのネオアコ系に繋がると思うんです。大地を感じるというか、北欧辺りの断崖絶壁とか、海と緑のある映像がイメージできる人たち。サウンドの土っぽくて素朴で、よりアコースティックな感じも気に入っています。ホッとした時に聴きたくなりますね。男性と女性のツイン・ヴォーカルがあって、男性コーラスの加減がいいんですよ。昨年、元メンバーが日本に新しいバンドのプロモーションで来た時に、どうもGARNET CROWのホームページを見てくれたみたいでメールが来たんです。機会があれば一緒に出来たらナって思っています。」(中村)

●SUZANNE VEGA『SONGS IN RED AND GRAY』

ロサンゼルス生まれニューヨーク育ち。85年デビュー。美しいメロディ、感情や情景を繊細な視点でとらえる歌詞、そしてアヴァンギャルドなサウンド・アプローチで 高い評価を得ている彼女。今作は5年振り6作目のアルバム。

「派手ではないけど雰囲気とか、ちょっとハスキーな声質が好きなんです。癒し系というか聴いていて落ち着く人。アラニスとはまったく違った声質なんですよね。突き抜けるというよりは包み込んでくれる感じで、そのドライ感がハマるんです。サウンドも挑戦的とか先鋭的というのではなく、本当にこの人のスタイルでずっとやっているって感じ。ツボにはまったからとか流行っているからではなく、いつでもどこでも変わらず聴ける普遍的なポップスなんです。周りに流されないスタンスで、自分なりのものをちゃんと作っているから、シンガー・ソングライターとしてもいいなって思います。だから、声は優しいけど、制作のスタンスにはすごく厳しいものを持っている気がしますね。ずっと変わらないものを作り続けるのは大変だろうし。他とは比べられない“らしさ”があるので、それは憧れでもあり勉強する所でもありますね。“GARNET CROWらしい”という、常に変わらない世界観を私も持っていたいから・・・。」(中村)


全てのアーティストが女性(もしくは女性ヴォーカル)となっているのは、指摘されて始めて気付いたそうですが、それはやはり自らもヴォーカリストであるために、声質に敏感に反応しているからのようです。

「自分も歌っているから、どうしても女性に惹かれる部分があるみたいですね。こういう歌をって理想が常にあるから、それに合った人を無意識に探して、結果的に女性ヴォーカルが多くなるのかも。やっぱり何らかの形で自分にも活かしたいと思って聴いているので……」(中村)

穏やかさがありながらも胸に刺さる楽曲を作り続けているGARNET CROWの中村由利さん。その彼女が影響を受けリスペクトしているこれらのアーティストを、是非みなさんも聴いてみてはいかがでしょうか?



★今回の記事が掲載されている本のご紹介。

music freak magazine総集本

『music freak magazine Flash Back GARNET CROW 10th Memories』

 デビュー10周年を迎えたGARNET CROWが、music freak magazineに初登場した1999年12月号(Vol.61)〜 2009年8月10日号(Vol.176)までの掲載ページを全て集めて1冊にした総集本第一弾。
インタビューやライブレポートのほか、メンバーがリレー方式で執筆を担当した人気の連載コーナー『GARNET CROWの「word scope in M.F.M」、オリジナル広告 etc…読みごたえ、見ごたえ十分の一冊です。

http://mfmagazine.com/mfstore/
https://www.bgv.jp/shop/detail_shop.php?item_id=1836


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