飛行機とスカーレット

飛行機は離陸するとき、滑走路で静かに待っている姿から突然エンジンの勢いを増す。それまで微塵もなかった飛行機の動きに、重力が慌てて大地へ引き留めようとする。その力を振り切って、振り返らずに強い決意で空へ飛び立っていく。
そこにスカーレットを重ねてしまう。

飛行機は地上を見下ろしながら飛び上がり続ける。地上の家々を、マンションを、池や山を、道路を眺めながら、私はそこにひとりひとりの暮らしがあることを、「そこに産まれていたかもしれない」ifの私を夢想する。ifの中で、自分が持っていたはずのノスタルジーを夢想する。

それらを振り切って飛行機は雲の上へ躍り上がる。たくさんの燃料を使って。何かを運ぶために。

そのとき、わたしはサン=テグジュペリを思い出す。そして、きみちゃんのことを考える。

人の優しさを、人情を地上に残して、飛行機は飛び立つ。飛行機を動かす人もまた、非情な厳しさのなかで生きる。何故飛行機は飛ぶか。何か大きな使命を、見えない荷物のようなものを運ぶために。

人のささいな営みと、空の見えない荷物と。