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【対談】株式会社中電シーティーアイ様~自ら企画・提案し、新たな価値を創造する“提案型”IT人財を育成

【対談者】
・株式会社中電シーティーアイ 常務執行役員 松田 信之氏
・株式会社 マネジメント サービス センター 理事・シニアコンサルタン
 三村 修司


中部電力グループが掲げる「エネルギーの安定供給」と「新たな価値の創出」をITの面から支える株式会社中電シーティーアイ(以下、CTI)。事業環境・IT環境の変化に対応し、新たな価値創造を目指す同社にとって重要となるのが、ただ言われたことをするのではなく、自分から提案や指摘ができる“提案型”のIT人財の育成だ。同社常務執行役員の松田信之様に、弊社コンサルタント統括本部 理事の三村修司が、近年の環境変化や日本企業の現状と、そのなかで同社が何を目指しどのような人財育成を進めていくのかについて伺った。(文中敬称略)

1.日本企業においてはITを自分のものにしてこなかった

三村:近年DX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、IT会社の役割も大きく変わってきたと思います。そうしたなか、御社がどのようなポリシーで人財育成を進めていかれるのか、IT業界の現状にも人財育成にも造詣の深い松田さんにぜひご見解を伺いたいと考えていました。まずは、日本の産業界におけるITを取り巻く現状について、お考えをお聞かせください。

松田:これを話し出すと長くなりますが、先日(2021年8月26日)日本経済新聞が、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の時価総額が日本株全体の時価総額を上回ったと報じました。ついにここまできたかという印象です。

こうなってしまった理由の一つには、日本企業の多くが既存事業の深化にばかり目を向けてきたことがあります。かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛されましたが、人間は成功すると守りに入ります。挑戦を避け、今ある事業を深掘りしてコストダウンする方向に力を注いできました。そして、そこで浮いたお金を投資や従業員の給与に回さず、社内留保や借金の返済に充ててきた結果、新規事業を生まなくなってしまったといわれています。

もう一つ、日本人はものづくりが得意です。しかし、ソフトウェアを重要なリソースと捉えず、社員はものづくりに徹し、ソフトウェアの開発をアウトソーシングしてきました。コストダウンの深化のなか、ソフトウェアを自分のものにしてこなかったのだと思います。

三村:確かに以前ITは、企業のコア業務を支えるサポート的な位置づけのように捉えられていたと感じます。しかし、今ではRPA(Robotic Process Automation)に代表されるように、企業の業務フロー全体を見直し、人の働き方もITによって変える時代になっていると思います。そうした中、現在ではDXに対する注目が高まっています。産業界においてDXが果たす役割についてはどうお考えですか。

松田:私は自動車に保険会社のドライブレコーダーを付けていて、エンジンをかけると「前回の運転診断はAでした」などと出るんです。もしも踏切でしっかり一時停止していなかったとしたら、「しっかり止まりなさい」とドラレコに言われてしまいます。その保険会社が先日、この診断結果を来年から保険料に反映すると発表しました。すると人間はやはり、「一時停止しないといけない」と思うようになります。これはDXの典型的な例です。警察官が立って見張らなくても、アルゴリズムが「踏切ではしっかり止まらないといけない」と認識させる。「アルゴリズム・フェアネス」と言いますが、要はアルゴリズムが世の中をよくするツールになっているのです。「SDGs」や「ESG経営」への関心が高まり、皆で世の中をよくしていこうという機運が高まるなか、ITの存在はとても大きいと思います。

2.アウトソーシングではDXは進まない

株式会社中電シーティーアイ 常務執行役員 松田 信之氏

松田:しかし、そのなかで日本はマイナスからのスタートをしています。先ほどご説明したように、ITをアウトソーシングし、自分のものにしてこなかったからです。

アウトソーシングの仕方の一つに、情報子会社があります。私は中部電力の情報部門にプロパーで入社し、情報システム部長になり、その後、情報子会社であるCTIに来ました。その経験も踏まえて感じるのは、多くの日本企業では情報子会社の位置付けが低いということです。

アメリカにPG&E(パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニー)という中部電力とほぼ同規模の電力会社がありますが、以前、同社には情報システム要員が約1700人いるという記事を見ました。一方、当時の中部電力は170人程度。どうしてここまで違うのかと驚きました。その後、私の部下が同社のCIOにインタビューをする機会があり、理由を尋ねるとその方は「スピード感です」とおっしゃったそうです。IT部門を内製化し、しかも一からつくるのではなく、パッケージなども使っていち早くソリューションを導入していかないと競争に負けるということでした。

三村:多くの日本企業では、システムの構築や運営をアウトソーシングすることで、「中抜き」の状態となり、企業本体やシステム子会社に実質的なノウハウが残らないという現象も起きていると思います。

松田:はい。ところが中部電力は、3年前に発表した「経営ビジョン」で、AIやIoTといったITを使って経常利益の8分の1を稼ぐと宣言しました。電力会社がですよ。そしてそのために事業創造本部という組織を立ち上げました。中部電力の新規事業開発を担う部隊とCTIのIT機能を結び付け、そこに当社のIT人財を送り込みました。今では100人ほどが中部電力側に行って社員の立場で動いています。私としては念願の内製化です。アウトソーシングではDXはできないと気付いたのだと思います。

3.受け身体質から提案型への脱却を図る「CTI改革」

松田:一般的に情報子会社では保守・運用のベース業務が忙しく、提案したり指摘したりといったことがなかなかできませんでした。新技術が出てきたらこれをどう使うかという提案をするのではなく、「決めてくれたらやります」という受け身の姿勢にどうしてもなってしまいます。

三村:業種にもよりますが、全般的にシステム子会社の役割や位置付けは、この10年で大きく変わってきたように感じます。松田さんが指摘されたように、言われたことをやる“受け身”の体質から“提案型”の業務にシフトしようと試みています。単純にユーザーからの依頼に応えるだけでなく、むしろユーザーが考慮していないことを指摘することや、期待値を超える提案を行うことが要求されるようになると思います。

松田:そのとおりですね。私は中部電力側にいたとき、中部電力は何をつくるか決める側、CTIはそれをつくる側と分けて捉えていました。しかしCTIに来て、それではモチベーションも学ぶ意欲も上がらないと強く思うようになりました。

当社では2年前から、事業環境・IT環境の変化に対応する「CTI改革」に取り組んでいます。下流工程の保守・運用はアウトソーシングし、社員はコンサルティングや解析といった上流工程にシフトします。要は、決めるところ、企画・提案するところをコアビジネスにしていこうということです。

4.本格的なモード2の教育と実践へ

三村:御社とお付き合いさせていただいていて敬服するのは、どんな企業になりたいか、どんな人財を育てたいかという目標を常にお考えになっていることです。御社がこれからの人財育成で力を入れていくのはどういったところですか。

松田:私がここに来て整備してきた教育体系というのは、つくる側の論理なんです。ITの世界ではモード1、モード2と言われますが、モード1(安定性や効率化が重視される従来型のIT)に向けた教育体系と入門的なモード2の体系は整備できたと思います。これからはCTI改革に合わせて、本格的で実践的なモード2(デジタル変革に向けたスピードや柔軟性が求められる攻めのIT)の教育を整備していく必要があります。

三村:なるほど、それはどのような根拠から考えられた体系でしょうか。

松田:いくら研修をしても仕事がなければ能力は上がっていきません。例えば、ある時期デザイン思考、デザイン思考と言われましたが、私は「なんでいきなり手段から入るのだろう」と違和感がありました。発揮する場がないと忘れていくだけです。

三村:確かに、デザイン思考しかり、コンサル思考しかり、制度や考え方・フレームワークだけを取り入れてもうまく機能しませんよね。むしろ現場においては、各種のビジネスツールを使いこなしていく人財をいかに育て、そこに魂を入れていくかということが肝要だと思います。

松田:はい。そこで、モード2の教育を整備するのと同時に、仕事を取るところもやっていかなければなりません。当社には「中電シーティーアイ認定プロフェッショナル(CCP)制度」という高度技術者認定制度がありましたが、あくまでもモード1の世界でした。これを見直し、コンサルティングを主軸として、コンサル、ITスペシャリスト、パッケージなど5分野18職種の人財を再定義しています。今年度中には正式認定者が生まれる予定です。今、中部電力ではコンサルティング的な仕事がいろいろと発生していますので高度技術者がこうした仕事を受注し、実践で能力を上げるとともに、18職種の体系的な研修と実践で後進を育成するサイクルを回し、会社全体の改革を行っていく必要があります。

5.転職意識を持つ技術者はIT業界の宝

株式会社 マネジメント サービス センター 理事・シニアコンサルタン 三村 修司

三村:今後は、多くのシステム子会社において、待ちの姿勢ではなく上流工程を意識した提案型の業務に移っていこうとするでしょう。ただ、そこで各社が行き詰まるのが人財育成と思われます。従来受け身だった要員を主体性のある人財に変えていくためには、実際にはかなり抵抗感もあると思われます。

松田:提案というのは結果責任を伴う面もあり、言われたことをしているほうが楽なんです。先日、JISA(情報サービス産業協会)で当社の一部技術者を含む約6千人にアンケートを実施しました。その結果は、8割の技術者がDXに参加したいと考えていて、仕事にやりがいがなければ転職を考える技術者は約6割に上ることが分かりました。転職を意識する技術者が6割もいるというのは経営側から見ればマイナスに見えるかもしれませんが、そうではなくDXに参加して自分の能力を高めていきたいという向上心の高い技術者がそれだけいるという意味ではプラスなんですね。この方々は、当社を含め日本のIT業界を変えていける意識を持った方だと思うんですね。当社やIT業界にとっては大切な宝物だと思うんです。

三村:IT業界に限らず、自社において成長できないことが不満で組織に見切りを付ける人というのは、自己成長力が高い人ですね。やる気があり、より高いレベルを目指していく方たちなので、企業としては是非、とどめるように努めてほしいですよね。

6.育成的視点を持たないと自分より優秀な部下を育てられない

三村:そうした優秀な人財を定着させるためには、自社が成長できる場であると従業員にアピールすることが大切です。御社は社内の育成環境を整備し、根幹となる技術者やマネジメント層の教育に注力されてきました。特に松田さんが来られてから充実されましたね。

松田:ありがとうございます。私はここに来て、「学ぼうとする社員を徹底的に支援する」と社員に伝え、教育方針にも掲げて、多くの施策を展開してきました。その結果、「働きがいのある会社」ランキング(GPTW:Great Place to Work®)で、「育成する」という分野の社員の評価が2年連続でベストカンパニーの平均を上回りました。この調査では会社側にもアンケートを行いますが、その評価も高い結果でした。

三村:すばらしいですね。他社の場合、「会社がやってくれない」「自己成長の場が見いだせない」という不満が多く見られます。その理由としては、単純に人事制度が整っていないとか教育体系がないというだけでなく、現場においてチャレンジする機会がないということが大きい要因と考えられます。それからもう一つ、実践場面において業務を指示する方が「言われたことをやっていればいい」というのではなく、「君に任せたので責任を持って頑張ってほしい」というように、社員の主体性や強みを引き出しながら動機づけていくことが重要ですね。

松田:はい。ただ、当社は、先ほどのJISAのアンケートで、「この会社はあなたを伸ばそうとしているか」という質問に対しては平均より低い点数だったんです。これはショックでした。環境は整えられているが、伸ばそうとしているとは思われていないわけです。では、伸ばそうとするのはだれかというと、上司なんです。

三村:そうですね。人財育成のセオリーとして、「育成的な観点を持たないと自分より優秀な部下は育てられない」という考え方があります。IT業界のようにテクニカルな要素の強い業界で、最新技術を持っているのは比較的若手の方だったりしますよね。優秀な社員を育成・活用していくことは、受け入れる側の課題であると言えるでしょう。

7.アジャイル開発がうまくいかない理由とは

対談様子

三村:改めてIT業界における人財育成について、松田さんに伺いたいことが二つあります。一つはアジャイル開発(開発工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返す開発手法)を促進するため、このところ他社でも適性のある人財を育てようとしていますが、なかなかうまくいきません。なぜだとお考えでしょうか。

松田:親会社が仕様を決めて行う既存のシステム開発にアジャイルを適用してもほとんどうまくいきません。仕様が決まっているなら、ウォーターフォール(あらかじめすべての開発工程の計画を立て、それらを順番に完了させ、最後にリリースする開発手法)で開発すればいい。新しい価値を創造する必要があって初めて、アジャイル開発を行う必要があるのです。

その際に、ITをアウトソーシングした状態でやってもうまくいきません。同じ立場で何でも言い合える状態を保障する必要があります。

三村:「何を言っても大丈夫」という心理的安全性ですね。

松田:はい。そのために一番大事なのは、会社のミッションを共有していることです。アウトソーシングしていると、委託先の社員はお客様の依頼どおりにつくることが目標になります。しかし発注元の社員は、新しい価値をお客様に提供する目線で考えます。

三村:最近よく顧客志向をテーマに研修をさせていただきますが、お客様のやりたいことを100%実現させるのが15年前くらいまでの顧客志向だとすると、今では、顧客からやりたいと「要求されたこと」を超えて「実効性の高い提案」をすることを目指すべきではないかと問いかけています。

松田:日本のITエンジニアは、長年アウトソーシングとウォーターフォール管理の下、与えられた仕様どおりにつくることをしてきました。その仕様がビジネス価値を持たないと判断しても、言われたとおりにつくる。それはまだよくて、ビジネス価値を持たないと判断することすらできていないことも多い状況です。

三村:多くのIT企業の場合、献身的に顧客に尽くそうとする意識は高いものの受け身に構えてしまうため、依頼事項に対してはあまり疑問を抱いたりはしないかもしれませんね。

松田:そうです。ビジネス価値の探求は自分の仕事ではないと思っています。日本のIT業界の最大の課題は、ITエンジニアのこの気質の転換をどう成し遂げるかです。

8.とがったスペシャリスト人財を処遇できる複線型人事の検討

三村:すごく響きますね。もう1点お尋ねしたいのが、マネジャー志向についてです。ラインマネジャーもプロジェクトマネジャーもそうですが、最近マネジャー志向の人が減っています。部下の面倒を見て責任を取ることよりも、自分の専門性に特化したいという若い方が増えていると感じますが、いかがでしょうか。

松田:10年以上前から複線型人事にする必要を感じていましたが、なかなか実現できませんでした。当社でも、マネジャーにはどうしても調和型・調整型の人財が選ばれます。一方、スペシャリストでありながらとがった人は、出世できずに辞めていく。それもあって、今、複線型の人事制度の検討をはじめています。

三村:御社にもとがった人がいらっしゃいますね。まずは、組織の中でそういう個性の強い方の存在を許容することが大事ですね。

松田:そうですね。マネジメントの概念も変わりつつありますので、軍隊的ではなく特色を活かしたマネジメントもできるようにしていきたいです。

9.“提案型”の人財を育成し、親会社と一体になってお客様に価値を提供していく

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会社名:株式会社中電シーティーアイ
設立(合併):2003年10月1)
資本金:1億円
従業員数:1,228名(2021年6月1日現在)
事業内容:アプリケーション開発保守サービス、
    インフラセキュリティサービス、解析サービス、
    大量データ処理サービス、IT運用サービス
HP:http://www.cti.co.jp/

会社名:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円 (令和 2年12月31日)
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント
HP:https://www.msc-net.co.jp/


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