岡村靖幸ニューアルバム「操」を聴いて

4月1日は私の大好きな岡村靖幸さん(以下、岡村ちゃん)のニューアルバム『操』のリリース日だった。昨年の12月に告知があり、ずーっと楽しみにしていたアルバム。当初は3月25日のリリース予定だったのが、諸事情で1週間おくれて4月1日のリリースとなってしまった。告知の時点でアルバムのアートワークは現代美術家の会田誠さんが手がけたことが発表され、鮮やかなビタミンカラーで彩られた背景にふたりの幼い子どもたちがゆびきりをする姿が描かれた画を目にしたときは、驚きとともに幸せな気持ちがわきあがっていた。

さてさて、それから3ヶ月とちょっとたった4月1日にアルバムが自宅に届いた。新型コロナウィルス禍のまっただなか、本業の勤務先の指示により在宅業務となり自宅にひきこもって仕事をしていたのだけれど、そんな日照不足気味の私にとっては穏やかな太陽の光がさしたと思えたぐらい、テンションが高揚した。在宅勤務できるだけ恵まれているとは思うのだが、余暇の外出すらも自粛をしてくださいと言われると、しおれていくもんです。そんな時に元気のもとが届いたのだから興奮するのも無理はないのだ。

で、届いたCDを開封してみて聴いてみたら、これがまた凄かった訳で。
今までの岡村ちゃんの瑞々しさ&甘酸っぱさがしっかり存在しつつ、54才の思慮深くて包容力のある岡村ちゃんもそこにいて、でも、とても熱量をあびた楽曲がそこにつまっていた。そして、このアルバムは、岡村ちゃんがまた次の道にたどりつくため、大きなチャレンジをしたことがわかる大胆な空気を帯びていた。かといって、ガツガツしているところはない。むしろ大人のクールさと引き具合がいい感じに施されているとも感じた。それによって、さらに岡村ちゃんのセクシーさに磨きがかかっているとも思った。

特に印象的だったのは、歌詞の中でおかれている言葉がいままでとくらべ、より詩的な言葉をのせることに重きを置いていることだった。前作アルバム『幸福』からそれは少しずつ顕著になっていたけれど、今回はさらに積極的に入れ込むことに挑戦していたと思う。岡村ちゃん独自の言いまわしも健在なのだが、新しい文体を定着させようという試みがふんだんにみられたのだ。それがばっちり成立してるからやっぱりこの人は凄いなぁと改めて感服した訳です。

特に最初の2曲、「成功と挫折」「インテリア」は歌詞の言葉の世界観に対して、緻密に練られた音がぴたっとはまり、聴き手をアルバムの世界に引きこむ演出がしっかりとされており、この2曲を聴いた時点で「このアルバムはすごい」と説得させられた。その後の「ステップアップLOVE」への繋ぎによる転調も、スタイリッシュで洗練されていて、ため息がでてしまった。

「成功と挫折」は歌詞だけよむと少し陰鬱な感じもあるが、曲がアッパーに展開されることで外へと向かう力があった。さらに言えば岡村ちゃんなりの反骨心的なものが込められていたと思う。「インテリア」はそのタイトルからよくこんな歌詞をつけたものだと本当に驚かされてしまった。特に以下のフレーズは、あまりにも良すぎて、キラーフレーズすぎて、「殺す気か!」とツッコミをいれたくらいだ(これは褒めているのです)
”シャンパンワイングラス割ってじっとしてみよう
サイレントモーメント作りキスをしてみよう
きっと君は音楽になる
風にゆれる衣擦れに少しだけ不安になり
たち消えぬあやしさに 夢中になっていく”
きっと君は音楽になる、という愛のメッセージにグッときてしまったぞ、私は。

サウンド面もゴリゴリのファンクもあれば、キラキラ80年代モードの曲、さらに、ムードジャズ系やシティポップス系の作品もあり、とても幅広いものとなっているけれど、ばらついた印象はまったくなく、全部ひとつの線で繋がっている。咀嚼力と俯瞰力が高い人だと思っていたが、やっぱり今回も岡村ちゃんは彼の血肉になったものを出してきた。その躊躇のなさにプロフェッショナルな姿を見せつけられたように思う。

アルバムタイトルが「操」なのも納得。ちなみに何故「操」としたのかは岡村ちゃんの公式サイトではこう記されている。
”「操」とは、自分の意志、主義を貫いて、誘惑や困難に負けないこと。貞操。
上品で雅やかなこと。常に変わらないこと。
様々な意味がありますが、そのベースにあるものは、一貫しています。”

しなやかだけれど、ぶれない、それは芯があるからだ、とアルバム『操』をきいて納得しました。ありがとう、岡村ちゃん。

この春はなにかと落ちつかせてくれない状況だけれど、このアルバムが届いたことで私はまだまだステップを踏めそうだ。

心配ごとがひとつ。
このアルバムをひっさげてのDATE(またの名をライブツアーともいう)『操』ツアーが4月4日から予定されていたのだが、新型コロナウィルスの影響により、最初の4公演は中止、その後の予定されていた日程も、状況によってどうするか決める、というアナウンスが公式サイトからが出されたのである。でも、事態をちゃんとみきわめて、アルバム『操』お披露目DATEはきっとやってくれると信じて待っていようと思っている。

どんなものでも君にかないやしない。

この言葉がまた私のなかでめぐりはじめた。

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