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流出解析に用いる実観測降雨データ


1.はじめに

 土木研究所(ICHARM)が開発したRRIモデルに関して,以前の記事では簡単に使い方を記載した.今回はRRIをはじめとした降雨流出解析において,インプットとして与える過去の降雨測定データの候補を整理する.

2.有用な降雨データ一覧表

 筆者が認識する有用な降雨データの一覧とそれらの特徴を表-1に示す.なお時空間解像度,提供時空間範囲に関しては提供時期により異なる場合がある.

表-1 降雨データ一覧

$$
\begin{array}{|l|l|l|l|l|l|l|l|l|} \
\text{} & \text{提供者} & \text{サービス名称} & \text{観測方法} & \text{空間解像度} & \text{時間解像度} & \text{提供空間範囲} & \text{提供時間範囲} & \text{拡張子} \\ \hline
\text{①} & \text{気象庁} & \text{地域気象観測システム} & \text{地上観測} & \text{1300箇所} & \text{1時間} & \text{日本} & \text{1970s~**} & \text{csv} \\ \
\text{} & \text{} & \text{(アメダス)} & \text{} & \text{約17km間隔*} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{} \\ \hline
\text{②} & \text{国土交通省} & \text{水文水質データベース} & \text{地上観測} & \text{2800箇所} & \text{1時間} & \text{日本} & \text{1970s~**} & \text{dat} \\ \
\text{} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{約12km間隔*} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{} \\ \hline
\text{③} & \text{JAXA} & \text{GSMaP} & \text{衛星レーダー} & \text{0.1度} & \text{1時間} & \text{世界} & \text{2000~} & \text{csv} \\
\text{} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{(約10km)} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{} \\ \hline
\text{④} & \text{NOAA NCEI} & \text{CMORPH CDR} & \text{衛星レーダー} & \text{8km間隔} & \text{30分} & \text{世界} & \text{1998~} & \text{nc} \\ \hline
\text{⑤} & \text{NASA} & \text{GPM IMERG} & \text{衛星レーダー} & \text{0.1度} & \text{30分} & \text{世界} & \text{2000~} & \text{HDF5} \\ \
\text{} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{(約10km)} & \text{} & \text{} & \text{} & \text{} \\ \hline
\text{⑥} & \text{気象庁} & \text{解析雨量} & \text{地上レーダー} & \text{1km間隔} & \text{30分} & \text{日本} & \text{1988~} & \text{GRIB2} \\ \hline
\text{⑦} & \text{国土交通省} & \text{XRAIN} & \text{地上レーダー} & \text{250m間隔} & \text{1分} & \text{日本} & \text{2010~} & \text{csv,binary} \\ \
\end{array}
$$

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*降雨量観測所の数を日本の国土面積で割り算し平方根をとった数字であり,均等な距離間隔で設置されているとは限らない.
**観測所ごとに運用期間は異なる.

3.地上観測データ詳細

 地上観測雨量とは文字通り地上で観測した雨量のこと(そのまま).後術の地上レーダー観測の補正として用いられており,非常に重要である.主な観測実施主体は気象庁,国土交通省水管理・国土保全局.実は気象庁の雨量観測所約1300箇所に対して,国交省は約2800箇所と,国交省のほうが多い(意外).気象庁観測所は各都道府県ごとに同程度の割合で,国交省観測所はその上流にダムの多い都道府県で多く設置されている¹⁾らしい.
 気象庁・国交省の他にも地上観測を行う都道府県・市町村や民間企業も多く存在するが,データを公開しているとは限らない.
 観測方法の詳細,データダウンロードサイトは以下のリンクを参照

①アメダス_気象庁

②水文水質データベース_国土交通省

 

4.衛星レーダー観測データ詳細

 衛星レーダー観測雨量とは,宇宙空間に打ち上げられた衛星から電波を発射し推定した大気中の雨粒の量から得た雨量のこと.前述の地上観測や後述の地上レーダー観測と異なり,海上など全世界中を網羅している.その一方で地上レーダーと比べて空間解像度が粗い.
 観測方法の詳細,データダウンロードサイトは以下のリンクを参照

③GSMaP_JAXA

JAXA(宇宙航空研究開発機構)が提供する,GSMaP(衛星全球降水マップ)

GSMapのデータ詳細,ダウンロード方法の解説記事として,以下が有用.

④CMORPH CDR_NOAA NCEI

NOAA(アメリカ海洋大気庁)内の,NCEI(国立環境情報センター)が提供するCMORPH CDR

⑤GPM IMERG_NASA

NASA(アメリカ航空宇宙局)が提供するIMERG(Integrated Multi-satellitE Retrievals for GPM)

 

5.地上レーダー観測データ詳細

 地上レーダー観測雨量とは,地上に設置したレーダーから観測した雨量である.空間解像度の細かさが特徴で,地上雨量観測所で網羅しきれない局所的な降雨を観測することができる.
 設置観測主体は気象庁と国交省.気象庁のレーダー設置数は20箇所であるのに対して,国交省は60箇所である(意外).
 観測方法の詳細,データダウンロードサイトは以下のリンク

⑥解析雨量_気象庁

 気象庁・国交省が保有するレーダーの観測データに,気象庁・国交省・自治体の地上観測雨量データが補正として用いられている.
 なお解析雨量データは気象庁が保有しており,気象業務支援センターがCD-ROM/DVDとして有償で販売している.2006年以降のデータの場合,1年1枚につき6710円²⁾である.
 データ期間に応じて時空間解像度は異なる.(表-2参照)

表-2 解析雨量の時空間解像度の詳細

$$
\begin{array}{|l|l|l|}
\text{1988年~2001年3月} & \text{5㎞} & \text{1時間} \\ \hline
\text{2001年4月~2003年5月} & \text{2.5㎞} & \text{1時間} \\ \hline
\text{2003年6月~2005年12月} & \text{2.5㎞} & \text{30分} \\ \hline
\text{2006年~} & \text{1㎞} & \text{30分} \\
\end{array}
$$

⑦XRAIN_国土交通省


6.考察・おわりに

 流出解析に与える過去の降雨観測データは地上観測,衛星レーダー観測,地上レーダー観測に大別される.どれを用いるかは時空間解像度などの特徴を理解したうえで,目的に応じて選択すべき.
 本記事では過去の観測データのみに焦点を当てたが,そのほかにd4pdfをはじめとした気象予測モデルも多く存在する.
 気象庁よりも国交省のほうが運用・保有している地上雨量観測所,地上レーダーの数が多い.両組織のR5年度補正予算を比べると,国交省約6兆円に対し,気象庁約300億円である.規模の違いを考慮すれば当然なのかもしれない.

7.参考文献

1)林義晃,手計太一,山﨑惟義:我が国の地上雨量観測所における観測体制と蓄積データの時空間特性に関する研究,水文・水資源学会誌, 2017, 30 巻, 1 号, p. 43-53,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshwr/30/1/30_43/_article/-char/ja
2)気象業務支援センター:オフラインデータ一覧表,http://www.jmbsc.or.jp/jp/offline/data/cd_list.pdf