【超常現象編③】淀川ロケット

これはもう30年ほど前の話である。大阪市の中央を流れる淀川の支流に大川という「お化け鯉」が釣れる大きな河川がある。ここでは当時、500円玉ぐらいの鱗を持つメートル越えの鯉が多く釣られており、足繁く通った時期がある。当時大学生であった私もその巨鯉を目指して毎晩のように通っていた。徹夜はせずに終電ぐらいまで頑張る釣りである。

ここはベテランの釣師が多く、毎晩自転車でやってきて常に釣座を構えている。日本酒のカップ酒を飲み煙草を吸いながら、イライラしながら魚のアタリを待っている。しかし「横でやってもいいですか?」と声を掛ければ、たいていは愛想よく入れてくれたものだった。

私は、ニゴイやヘラブナは釣れるが、なかなか鯉が釣れなかった。そこで、横にて釣座を構えていた、やや初老の男性に教えを乞うた。その男性は小さな声であったが、紳士的かつ懇切丁寧に色々教えてくれた。それは自分の知識をひけらかす感じでもなく、経験に基づいた技術を後輩に教えるような、真摯な雰囲気でもあった。

そんな和やかな静かな会話を打ち破るように、少し下流の方から「ウェーーーーイ」と誰かを威圧するような声が上がった。よく見るとレガッタだろうか二艘の手漕ぎの船がやってきた。ウォッセ、ウォッセ、ウォッセ、ウォッセという掛け声を出しながら船は私たちの前までやってきた。するとその初老の男性は、サッと自分の釣り座に駆け戻り、

「うぉりゃああぁー、そこに鯉の団子あるんやぁああ、あっちいけゃ」と声を上げ、何かが詰まった350mmの空缶をその船めがけて投擲した。船には届かないが、ドボンと勢いよく水柱が立った。あっけにとられていると、各釣座から投擲されている様子で水柱がドボンドボンと上がっている。さながら海戦のようで圧巻であったが、さすがにこれはヤバイと直感ながら思った。

その船の船長も慣れたもので、「はーい、すみませーん」と高速通過し、何事もなく進んでいった。ほんの数分いや数十秒のことである。

「あいつら、いっつも来よるな、はらたつわ」と、その男性は自分の釣り座に戻っていった。

その男性とは、何か気まずい雰囲気となり、終電の時間が来るまで、あまり話すこともなく、その後は、二度と会うこともなかった。

以上

ここから先は

0字
この記録を読むことで読者はタマン釣りの疑似体験が可能となります。それのみならず釣り方(仕掛け・エサ・ポイントなど)のノウハウも解説します。また回答可能な質問には必ずお答えいたします。

このマガジンは私自身のタマン(ハマフエフキ)釣りの記録を記した私本的な編集ものです。この釣りの記録を通していくつかの考察を加え、読者の皆様…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?