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【感想+お気持ち】TRPGコント「バカシロ」に”ほんのちょっとだけ”モノ申す

まずはこちらの動画をご覧ください。
『カタシロ』なるクトゥルフ神話TRPGのシナリオを題材としたコントのため、一応そちらの「ネタバレ注意」の但し書きは加えさせてもらいます。(コメント欄によればネタバレらしいネタバレはないそうですが…)

これを今書いているつい先ほど、YouTubeのオススメ欄に↑の動画が出てきたので見ていた所ですが、これがコントという事を承知の上でネタにマジレスになってしまう事をわかった上で、少々、ほんの少々、お気持ちを表明したいと思いました。

この先動画本編の内容に言及するため、動画を見ても構わないという方は、先にコントで思いっきり笑ってから下にお進みください。





評価したい点

問題点を挙げる前に、評価したい点が一つあります。
ボケである患者はGM/医者に非協力的な「悪いプレイヤー」の例として描かれ、オチでそういうプレイヤーである事が明確に宣言されています。

動画内11:07、患者が「むしろ悪いのはこのシナリオの製作者かもしれない」という発言からまくしたて、本来自由度の高いシステム1つとっても幅広い遊び方ができてしまうTRPGに対して「TRPGとはこうあるべきだ」と主張するシーンは、患者の非協力的なプレイヤーというキャラ付けを確固たるものにしています。

TRPGはプレイヤーとGMとの間の納得と了解によって成立するものです。
実際のセッションでは、「強要された」と感じて否定される前に、セッション前に話し合っておくべきです。

また、意図したものかはわかりませんが、患者がシナリオの自由度に対して文句を言うセリフは、患者を原典となるシナリオ『カタシロ』の原作者が演じているため、この部分だけはただのコントというよりは、一般公開されたシナリオによる共通体験に偏重したクトゥルフ神話TRPGを中心とした界隈(?)による痛烈な自虐のようにも見えました

問題のシーン その1: 「自由=無軌道」というライターの誤謬?

動画内11:29にて、医者の「時代の流れに即さねぇ人だ もう悪い事やりゃ面白いっていうのは終わったんだよ」というセリフは大いに一理あります。患者のTRPG感覚が時代遅れという可能性は確かにあります。

しかし、このツッコミには大きな問題があります。
自由とは無軌道な混沌や破壊を引き起こすものであり、自由度のあるものは何もかもが時代遅れだ」とも思えるような含みがあるのです。

このコントの台本を書かれた方は意図していないかもしれません。しかし、「自由」と「非協力的」をところどころ混同しているように感じてしまいます(言葉がなかなか出てこない自分が言うのも恥ずかしいのですが…)。

問題のシーン その2:作者のD&Dへの認識が古く見えてしまう

非協力的なプレイヤーである患者は、動画中11:51で別システムである『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)のキャラクターの名前を名乗り、医者の現在のセッションとD&Dをプレイしていた際の感覚を比較して話しています

しかし、非模範的なプレイヤーだからといって、わざわざD&Dの名前を持ち出す必要はあったのでしょうか?

患者の「君のようなNPCはプレイヤーに都合の良い形であるべき」「街ひとつ、子供ごと焼き払ったりしても何とかなった」などという発言は、TRPGをよく理解しているなら、そういった気風のグループで遊んできた人物という事はわかりますが、額面通り見るとネガティブなイメージをD&Dに押し付けているようにも感じられます。

これはD&Dに対する作者のイメージがダンジョン探索やレベルアップしかないように感じられ、これこそ「時代遅れ」ではないかと思います。

自分が聞きかじった話にはなるので事の仔細は曖昧ですが、海外では小説とシナリオを通して展開された『ドラゴンランス』の台頭や、コンピューターゲームと差別化を図るように、TRPGとして物語を作る側面や柔軟性の方へ発達したと聞いています。

その一つの到達点が、ライブ配信サービス「Twitch」の売り上げ最上位に上り詰め、Amazonプライムビデオでアニメ化も果たした、アメリカの声優同士の友人グループによるTRPG配信『Critical Role』です。
私も少し聞いたのですが、演技が関わる所はまるでボイスドラマのような聞き心地で、NPCとの関係性を軽視するとなどいった事はまるでありません。

『Critical Role』キャンペーン2、第42話のワンシーン。

また、イギリスのゲーム大賞「Golden Joystick Awards」の部門を総なめし、12月21日に日本語版が発売される『バルダーズ・ゲート3』は、逆にそれを現代の技術で可能な限りコンピューターゲームに落とし込んだものです。

『バルダーズ・ゲート3』英語版のスクリーンショット。
プレイヤーがとれるセリフの選択肢が並ぶ。

海の向こうの話を後ろ盾にして、日本人とは無関係の話を並べたてた訳ではありません。これらこそが、D&Dは進化を続けたTRPGのシステムであり、物語を生み出す能力はクトゥルフ神話TRPGともそう差はないという事の証左なのです

確かに、D&D側はファンタジーTRPGとしての立ち位置が『ソード・ワールド』に取って代わられて以来、長らく日本国内でのポップカルチャー的影響力はごくわずかで、辛うじて『オーバーロード』や『ゴブリンスレイヤー』、『異世界マンチキン』など一握りの作品に間接的に影響がみられる程度でした。そのため、D&Dそのものに対する認識がほとんどアップデートされていない事はわかっています。しかし、だからといってD&Dが半ば時代遅れの悪者扱いされるというのは心外です。

もちろん、スシハンマーの皆様にはマイノリティの権利を主張する人たちに怯えるようなクリエイターにはなって欲しくはないのですが、TRPG全体として界隈全体の共存共栄を図るべきであるのに対し、これではD&Dへのヘイトスピーチのようにも見えてしまっています。

スシハンマーの皆様はこういった細かい誤謬や誤解を招くような表現を改善していただき、これからもTRPGコミュニティ全体に貢献するようなコンテンツを発信していただければと思います。



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あれだけお気持ちを表明した身ですが、「この人普段は何書いてるんだろう?」と思われた方もいらっしゃると思うので、念のため普段の私のコンテンツを紹介できればと思います。

TRPGに関しては、普段はD&Dの関連メディアを原典側から紹介する記事を書いたり、D&Dを軸とした日本におけるRPGおよびファンタジーに関する認識を分析する記事を書いています。

劇場公開当時「セクシーパラディン」がTwitter.comトレンド入りを果たし話題を呼んだ『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』や、先述の『Critical Role』のアニメ化である『ヴォクス・マキナの伝説』を紹介しております。
よければ是非。

TRPGとはわずかに外れますが、創作としてオリジナルファンタジー世界観「ニラース」の企画を進めています(D&D第5版で遊ぶためのデータも用意しています)。
Twitter.comでは、#ProjectNilarth のハッシュタグで、不定期に絵師に依頼したイラストを通して、ニラースのバラエティあふれる5つの大陸の世界観が垣間見えるテキストを投稿中です。


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