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小説『VRファイター乱』(2017年度 京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコースAO入試 小説さし絵問題)

 2016年夏に実施された2017年度 京都精華大学マンガ学部キャラクターデザインコースAO入試「小説さし絵」試験の問題文です。

(掲載にあたっては京都精華大学入試チームの確認を得ています)

〈小説さし絵試験用問題文〉

 以下の小説の抜粋を読んで、本文の部分で絵になると思えるシーンを選び、カラーのさし絵にしてください。

(要件)

・バーチャルリアリティの世界における主人公と副主人公が描かれていること。
・最低でも主人公の全身が描かれていること。
・状況が一目でわかるように背景や小道具なども描くこと。

(問題文)

 『VRファイター乱』

〈あらすじ〉

 響乱(ひびき・らん)は、ゲームが三度のメシより好きな東京生まれ、大阪育ちの高校三年生。バイトの稼ぎは、すべて新しいゲームに注ぎ込み、片っ端から制覇しまくっている。
 乱の夢は、プロゲーマーになって、eSports(イースポーツ)と呼ばれるゲームの世界でチャンピオンになることだ。eSportsは日本では馴染みが薄いが、海外では、すでにプロスポーツとして認知され、世界中で高額の賞金がかけられた大会が開かれている。
 日本はゲーム大国なのに、プロゲーマーの数は多くない。日本のゲームメーカーが、これではいけないと協力して、国内でeSportsの大会を開くようになったのは最近のこと。最新ゲームを使ったeSportsの大会にエントリーした乱は、予選から準々決勝、準決勝と順調に勝ち抜き、ついに決勝大会に進出した。
 この大会の参加者は、予選から準決勝まで、試合でどんなゲームが使われるのか知らされていない。つまり、ぶっつけ本番でゲームをプレイしなければならないということになる。すでに経験したゲームならいいが、未体験のゲームが使われたら不利になるのはもちろんだ。さいわいにして乱は、ここまで経験のあるゲームにばかり当たったため、順調に勝ち抜くことができた。
 しかし、決勝では、自分の経験を活かすことはできそうにない。まったく新しいゲームが試合に使われることになっていたからだ。

〈本文〉

「では、これより第一回eSports日本選手権大会決勝戦の出場者を発表します!」
 京都ドーム球場の観客席とグラウンドを埋めた五万人の観客が歓声をあげるなか、男性アナウンサーが、手にしたマイクに向かって絶叫した。
 グラウンドの中央に設けられた巨大なステージの上に、直径五メートル、高さ三メートルほどの円形の競技台がふたつ並んでいる。アナウンサーは、その前でマイクに向かって叫んでいた。
 乱は、右側の競技台の下で軽く足踏みしながら自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
 顔とからだはフード付きのマントで隠したまま。まるでボクシングの世界戦に臨むボクサーのようないでたちだ。
「予選から準々決勝、準決勝を勝ち抜き、栄えある決勝戦に勝ち進んだのは、関西地区代表の響乱(ひびき・らん)! 十八歳の高校三年生です!」
 アナウンサーの声に促されるようにして、乱は競技台の階段を駆け上がった。
 つづいてアナウンサーが、もう一人の決勝戦進出者の名前を呼ぶ。
「響乱と戦うのは、関東地区代表の如月彩香(きさらぎ・あやか)。年齢は十九歳。東京の美術大学に通う女子大生です!」
 同じくフード付きのマントを身にまとった如月彩香が競技台に駆け上がる。
 乱と彩香は、ともにスポットライトを浴びながら、競技台の上でマントを脱ぎ捨てた。
 ふたりとも、身体にぴったりとフィットしたアクションスーツを着て、手にはグローブ、頭にはヘッドホン付きのゴーグルをつけている。背中には、ボックス型のリュックサックを背負っていた。
「本日のゲームは、決勝戦進出者が身につけたスーツとグローブに仕込まれたモーションキャプチャー装置で操作するVR――すなわちバーチャルリアリティのゲーム。ふたりが頭につけたゴーグルの中では、それぞれの化身であるアバターが、ふたりの動きとまったく同じ動きで、ゲームの世界を駆け回ります!」
 アナウンサーが紹介したとたん、これまで前方が透けて見えていた乱のゴーグルの中に、新しい映像が浮かび上がった。
 場所は都会の駅前のようなところ。周囲には大勢の人が行き交っている。VRの世界がゴーグルの中にひろがっていた。
 そこに乱のアバターがいた。いま身につけているのと同じアクションスーツを身につけ、リュックサックを背負っているが、ゴーグルはつけていない。素顔の乱が、そこにいた。
 顔を左に向けると、対戦相手の如月彩香が立っていた。やはり素顔――いや、女子大生らしく化粧した顔で、不敵な笑みを乱に向けてきた。勝ってみせるという自信に満ちた顔だ。
 ――負けてたまるか!
 乱は、唇を噛むと、ゲームスタートの合図を待った。
 京都ドームを埋め尽くした観客は、場内の大型スクリーンで、バーチャル世界で戦う乱と彩香の姿を見ることができる。さらにその映像は、インターネット経由で世界にリアルタイム配信されることにもなっていた。
 eSportsは、日本よりも海外の方が人気が高い。今日、この決勝戦に勝利すれば、世界大会への出場権が得られるのだ。プロゲーマーになるには、世界に出るしかない。そのためにもこの決勝戦には、何がなんでも勝たなければならなかった。
 しかし、ゲームの内容は、いまだ紹介されていない。いったいどんなゲームなのか――と考えてみてもしかたがない。これは対戦相手も同じなのだ。とにかく出たとこ勝負で行くしかない! 乱は姿勢を低くして、アナウンサーの声を待った。
「では、対戦するゲームを発表します! ゲームのタイトルは『コナモンGO』。バーチャル世界を駆けめぐって料理の材料を集め、コナモン――すなわち小麦粉を使った料理を作っていくゲームです。対戦時間は二時間三十分。その間に、どれだけ多くのコナモンメニューを完成できるかで勝負が決します!」
 ――しめた!
 乱は、内心でほくそ笑んだ。大阪育ちの乱は、お好み焼きやタコ焼きといったコナモンが大好きだったからだ。
 ちらりと彩香を見ると、彼女は不敵な笑みを浮かべたままだった。あちらも自信があるらしい。その直後、
「では、ゲームスタート!」
 というアナウンサーの絶叫が、ドーム球場の天井を震わせた。
 乱は、駅前商店街に向けて走った。アーケードの商店街を走っていくと、右手にスーパーマーケットが見えた。あそこに行けば材料が手に入るにちがいない。
 スーパーに飛び込むと、野菜売り場ではキャベツに玉ネギ、人参をプラスチックのカゴに放り込む。精肉売り場では牛肉と豚肉、調味料のコーナーでは、ソースに塩、コショウをカゴに入れ、小麦粉も手に入れた。
 そのままレジに向けて走る。と、その脇を黒い人影が追い抜いていった。如月彩香だ。彼女も同じことを考えて、材料を集めに来たらしい。
 ところが、レジの直前で彩香がUターンした。その理由は、すぐにわかった。乱も彩香も、お金を持っていなかったのだ。お金を払わずにレジを通り抜けたら、その向こうにいるガードマンに捕まってしまう。
 ――これもゲームのうちなのか!
 乱は、カゴの中の商品を売り場に戻した。
 その途中、野菜売り場で一枚の張り紙に気がついた。
「農園でのアルバイト募集中。報酬は現物支給」
 ――つまり働いて稼げってわけか!
 乱は、張り紙の下に吊されていたチラシを一枚破ると、スーパーの外に飛び出した。
 チラシに添えられた地図を見ると、農園は商店街のすぐ裏手にある。公園を駆け抜けると、とたんに広い農地が広がり、その向こうに農園の入口が見えてきた。
 ビニールハウスの脇には、「農作物の収穫を手伝ってくれたら、収穫物十個につき一個を進呈」と書かれた看板が立っている。
 その横の案内版には、キャベツ、ジャガイモ、玉ネギ、ニンジンなどの畑の位置が示されていた。
 ――まずはキャベツだ!
 キャベツ畑に向かって走ると、向こうから彩香が走ってくるのが見えた。両脇に一個ずつキャベツを抱えている。いつの間にか先回りして、先にキャベツの収穫を終えたらしい。
 ――まずい!
 乱は、あわててキャベツ畑に突進した。

 (中略)

 空中にそびえ立つキッチンジム――ここが乱と彩香が料理の腕を競う戦いの場だ。
 高い塔の上に円形のキッチンがあり、そこにはステンレスの調理台からガスコンロ、大型オーブン、冷蔵庫に至るまで、調理に必要な設備がそろっている。
 流し台の戸を開くと、鍋やボウル、ザル、包丁などの調理器具が並んでいた。
 その背後には真ん中に鉄板が仕込まれたテーブルがあった。つまり、ここでコナモン料理を作れということらしい。すぐ隣に立つキッチンジムでは、彩香が料理の準備に取りかかっていた。
 ――負けてたまるか! まずはお好み焼きで勝負だ!
 まな板でキャベツを刻み、精肉店でバイトした給料で買った豚肉を鉄板で炒め、水で溶いたボウルの小麦粉にタマゴを割って入れる。
 乱は、ボウルから溶いた小麦粉をお玉ですくい、熱せられた鉄板の上に流し込んだ。そこに刻んだキャベツと豚肉を載せ、さらに小麦粉をかけまわす。広島風に似たお好み焼きの作り方だ。
 しかし、ただ料理を作るだけではポイントが上がらないのがeSportsの世界だ。ゲームをするにも派手なパフォーマンスが必要になる。
「でやあああぁぁッ!」
 乱は、叫び声をあげると同時に、両手に持った銀色のコテをお好み焼きの下に差し込んだ。
 そのままコテを跳ね上げると、お好み焼きが空中高く投げ上げられた。
 クルクルと宙で回転するお好み焼きに向けて、乱は、ダッと床を蹴ってジャンプする。履いているスニーカーには、ジャンプ装置が仕込まれていて、五メートルくらいまで飛び上がることができるのだ。
 ジャンプした乱は、クルクルと空中で宙返りしながら、両手のコテでお好み焼きをシュパッ、シュパッと四つに切り分けた。
 その技に驚いた観客のどよめきが聞こえてくる。だが、どよめきは乱のアクションに対してのものだけではなかった。
「ああっ!」
 空中回転しながらチラリと隣の調理台に目を走らせた乱は、思わず声をあげた。やはり空中に飛んだ彩香が、左右の手でひとつずつ、白い円盤を回転させているのが見えたからだ。
 彩香は、ピザをつくっていた。それも粉から練った本格的なピザだ。これを大型オーブンで焼くつもりらしい。観客の声援は、彩香の派手なパフォーマンスに向けて送られるようになった。
 ――やばい! こうなったら、もっと派手なコナモンで行くだけだ! 乱は、着地すると同時にボウルに手を伸ばし、再び水とタマゴで小麦粉を溶きはじめた。

(以下、略)


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